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「ティエリ。私を助けるために自分が犠牲になる必要はないのよ?」
実はティエリの本音が伝わってきてなかっただけ、って可能性を考えると、ティエリが何か意図を持ってそんなことを言い出したわけじゃないと思う。
だって、まだ12歳。
私とティエリが婚約したところで、私が皇太子から逃げるって選択肢はできるにしろ、ミストラル伯爵家やティエリにとってのメリットは何もない。
だからきっと、困っている私をのことを想って、短絡的に言い出したんだと思う。
だって、まだ12歳。
今のやり取りで、ティエリは急に大人びた口調に変わったけど、本質が大きく変わったわけじゃないと思う。
「紗耶先輩、心の声が聞こえるのは、沙耶先輩だけじゃないんですよ」
ティエリの口から出てきた言葉が、頭を上滑りしていく。
……今、何て言った?
「沙耶先輩。心の声が聞こえるのは、貴方だけじゃないんです」
「え?」
どういうこと?
私を、「沙耶先輩」って呼んでいるこのティエリは、誰?
呆然とティエリを見つめると、ティエリが困ったように笑った。
「本当は、沙耶先輩を困らせるだけだから、言うつもりはなかったんです」
「……誰……なの?」
これまでのティエリとのやり取りを思い出す。
本当に天使みたいに優しい子だと思っていた。
それが、作られたものだった、ってこと?
ハッとした私がティエリから手を離すと、ティエリが泣きそうに表情を崩す。
「優しくしてたのは、本音です。何も、作ったわけじゃありません。信じてください。ただ、沙耶先輩のことが心配だったんです」
首を振るティエリに、遠い記憶が繋がる。
私を「沙耶先輩」と呼ぶ、優しい後輩――。
「……大浦、君?」
こぼれた声に、ティエリが止まる。
「覚えてて……くれたんですか?」
「どう……して? 大浦君が?」
私は交通事故に遭って、この世界に転生してきたはずだ。
私の質問に、ティエリは困ったように首を振った。
「わかりません」
「……死んだってこと?」
「おそらく」
「いつ? いつから、ティエリに?」
私もサシャになったのは、12歳の頃だった。
だから、いつ転生したとしても、おかしくない。
……だけど、私が知っているティエリは、ずっと「ティエリ」だった。
「それは……」
言いづらそうに目を伏せるティエリに、ある可能性を思いつく。
「もしかして……私を助けようとして、巻き込まれた?」
目を見開いたティエリがブンブンと首を振る。
「違うんです! 俺が、沙耶先輩を助けたかったんです!」
「ごめんなさい大浦君。謝って済むことじゃないけど、あんな下らない事故に巻き込んで本当にごめんなさい」
私がスマホに夢中になったせいで起こった事故だった。
あ……大浦君だけじゃない。
私たちをひいてしまった運転手さんも、私の被害者だ。
どうして今まで気にもしてなかったんだろう。
……私が本当に存在しなければ良かったのに。
ズン、と気持ちが重くなる。
「聞いてください、沙耶先輩! 俺は、本当にあなたを助けたかったんだ」
必死なティエリに私は首を振るしかできない。
「本当に、ごめんなさい」
「沙耶先輩! また俺の気持ちをなかったことにしないでください!」
掴まれた手に、びくりとすると、ティエリが慌てて手を離す。
「ごめんなさい。もう勝手に沙耶先輩に触れることはしませんから……。だけど、助けたのは、俺が沙耶先輩を好きだって気持ちでやったことなんです。だから、一緒に転生したこと、後悔はしてません」
私を見つめるティエリの瞳は、いつもより熱を感じた。
実はティエリの本音が伝わってきてなかっただけ、って可能性を考えると、ティエリが何か意図を持ってそんなことを言い出したわけじゃないと思う。
だって、まだ12歳。
私とティエリが婚約したところで、私が皇太子から逃げるって選択肢はできるにしろ、ミストラル伯爵家やティエリにとってのメリットは何もない。
だからきっと、困っている私をのことを想って、短絡的に言い出したんだと思う。
だって、まだ12歳。
今のやり取りで、ティエリは急に大人びた口調に変わったけど、本質が大きく変わったわけじゃないと思う。
「紗耶先輩、心の声が聞こえるのは、沙耶先輩だけじゃないんですよ」
ティエリの口から出てきた言葉が、頭を上滑りしていく。
……今、何て言った?
「沙耶先輩。心の声が聞こえるのは、貴方だけじゃないんです」
「え?」
どういうこと?
私を、「沙耶先輩」って呼んでいるこのティエリは、誰?
呆然とティエリを見つめると、ティエリが困ったように笑った。
「本当は、沙耶先輩を困らせるだけだから、言うつもりはなかったんです」
「……誰……なの?」
これまでのティエリとのやり取りを思い出す。
本当に天使みたいに優しい子だと思っていた。
それが、作られたものだった、ってこと?
ハッとした私がティエリから手を離すと、ティエリが泣きそうに表情を崩す。
「優しくしてたのは、本音です。何も、作ったわけじゃありません。信じてください。ただ、沙耶先輩のことが心配だったんです」
首を振るティエリに、遠い記憶が繋がる。
私を「沙耶先輩」と呼ぶ、優しい後輩――。
「……大浦、君?」
こぼれた声に、ティエリが止まる。
「覚えてて……くれたんですか?」
「どう……して? 大浦君が?」
私は交通事故に遭って、この世界に転生してきたはずだ。
私の質問に、ティエリは困ったように首を振った。
「わかりません」
「……死んだってこと?」
「おそらく」
「いつ? いつから、ティエリに?」
私もサシャになったのは、12歳の頃だった。
だから、いつ転生したとしても、おかしくない。
……だけど、私が知っているティエリは、ずっと「ティエリ」だった。
「それは……」
言いづらそうに目を伏せるティエリに、ある可能性を思いつく。
「もしかして……私を助けようとして、巻き込まれた?」
目を見開いたティエリがブンブンと首を振る。
「違うんです! 俺が、沙耶先輩を助けたかったんです!」
「ごめんなさい大浦君。謝って済むことじゃないけど、あんな下らない事故に巻き込んで本当にごめんなさい」
私がスマホに夢中になったせいで起こった事故だった。
あ……大浦君だけじゃない。
私たちをひいてしまった運転手さんも、私の被害者だ。
どうして今まで気にもしてなかったんだろう。
……私が本当に存在しなければ良かったのに。
ズン、と気持ちが重くなる。
「聞いてください、沙耶先輩! 俺は、本当にあなたを助けたかったんだ」
必死なティエリに私は首を振るしかできない。
「本当に、ごめんなさい」
「沙耶先輩! また俺の気持ちをなかったことにしないでください!」
掴まれた手に、びくりとすると、ティエリが慌てて手を離す。
「ごめんなさい。もう勝手に沙耶先輩に触れることはしませんから……。だけど、助けたのは、俺が沙耶先輩を好きだって気持ちでやったことなんです。だから、一緒に転生したこと、後悔はしてません」
私を見つめるティエリの瞳は、いつもより熱を感じた。
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