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「辞めさせていただきます!」

 ミリッツァがきっぱりと告げる。

「どうして?」
「本性がバレて悪事もバレたのに、置いておいてもらえるとか呑気に思えるほど能天気ではありませんので」
「義姉上、だそうです」

 ティエリが私に肩をすくめる。

「でも、これからどうするの?」
「……あんたには関係ないでしょ」

 ふん、とミリッツァが私から顔を背ける。

「じゃあ、紹介状をお義母様に書いてもらいましょう。そうしたら、これからの生活にも困らないでしょうし」
「義姉上は、どうして……」

 私の提案に、ティエリが眉を下げる。

「だって、何だかんだ言って、性格の悪い私にもずっと付き合ってくれたんだもの。そのお詫びはしないと」

 ははは、と私の言葉にミリッツァが渇いた笑いをあげる。

「では、ありがたく紹介状を頂いて、お暇を頂きたいと思います」

 侍女らしい丁寧なお辞儀をして、ミリッツァが踵を返す。

「義姉上。本当にこれで良かったんですか?」

 心配そうなティエリに、私は笑いかける。

「ミリッツァの気持ちを変えられなかったのは、私の努力が足りてなかったってことだから。仕方がないわ」
「そうではなくて……」
「それよりティエリ。策を……一緒に考えてくれるんじゃなかったかしら?」

 私はティエリを制するように腕に手をかけると、話を変えた。
 もう居なくなってしまう人のことをどうこう考えたって仕方がない。
 それにそれよりも殿下の婚約者案件の方が大事だ。

「そうですね。殿下の婚約者案件の方が大事です」

 私が考えていたことをそのまま口にしたティエリに驚く。

「義姉上、どうかしましたか?」
「ううん。一緒に暮らしてると考え方って似るのかしら? 私が考えていたこととティエリが口にしたことが同じだったから」
「……そうかも、しれません」

 はにかむティエリに、キュンとする。
 やっぱり、天使。
 でも、さっきはまるでナイトみたいだったな。
 男の子も12歳にもなると、大人びてくるんだ。

「……義姉上、父上のところに行きましょう」
「へ? なぜ?」

 確かに、対応策を考えるって話はしたけど、どうして父のところに?

「一番簡単な策が、それだからです」

 ティエリは私の手を取ると、屋敷に向かって歩き出す。

「えーっと、どんな策か教えてくれる?」
「行けば、わかります」

 スタスタと歩くティエリに、私は反抗の意味を込めて手を振り払う。
 ティエリが慌てたように振り向く。

「ティエリ。先に教えて頂戴。ティエリが言ったのよ? 私には自分の道を切り拓く力があるって。なのに、これからの策を知らないまま話が進むなら、私自身の力じゃないわ」

 ティエリの目を見つめると、ティエリががっくりと頭を下げる。

「そう……ですね」
「どんな策なの?」
「……言えば、きっと義姉上は反対します」

 ティエリが視線を揺らす。

「一体、何を考えているの?」

 そう言った瞬間、あれ、と思う。
 私は、ティエリの本音が全部口に出てると思っていたけど、“策”については、ティエリは何も言ってない。
 でも、ティエリの頭の中には、策がある??

 私はそっと、ティエリの腕に手を伸ばす。
 ……どうして、ティエリの心の声が聞こえてこないんだろう?

「……殿下より先に、義姉上と私が婚約すればよいのです」
「へ?」

 今、何て言われた?

「ですから、義姉上と私が婚約をしてしまえば、流石に殿下も婚約者を奪うようなことをしないでしょう?」

 どういうこと?! ティエリの本音が聞きたいんだけど!?
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