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「義姉上、本当のことを言ってください。殿下に脅されているのですか?」
「違うわ。脅されているわけではないの」

 単に殿下と騎士の恋路に口を出して墓穴を掘っただけ。
 二人の隠れ蓑に丁度いい駒と認定されただけだ。
 私に力があれば、突っぱねることもできただろう。
 だけど相手は、皇太子だ。

「ちっ」

 ……今の、舌打ち?

「ティエリ?」

 ティエリの顔を見ると、ティエリは私のことを優しく見ていた。
 そうよね。天使なティエリが舌打ちするわけないもの。

「義姉上、義姉上が色々な理不尽なことを飲み込んで受け入れていくのは、義姉上の美徳だと思います。ですが、今回ばかりは諦めないでください」
「え」

 ティエリはわかってたの?
 驚く私に、ティエリが微笑む。

「この件に関しては諦めて欲しくはありません。それとも義姉上は、皇太子妃になりたいのですか?」

 真っすぐティエリに見つめられて、私は目を伏せた。

「私に、選ぶ権利などないのではないかしら」

 たとえ、ゲームの中の世界だとしても、ゲームの中の世界観である曖昧な貴族社会に、私たちは則って生きているんだろう。
 もし、完全ご都合主義の物語だとしたら、きっと殿下は愛する相手のために、自ら法律を変えて切り拓いて行くことを選んだ気がする。
 力もないモブである私が、この世界観を打開できる気がしないのだ。

「義姉上が望むのであれば、そうならないように策を打ちましょう。勿論、義姉上が諦めないこと前提ではありますが」

 ティエリの握る手に力がこもる。

「策? そんなこと……できるわけが……」
「義姉上、最初から諦めないでください。私だって、諦め続ける義姉上の力になりたいのです」
「え?」
「そもそも、私にはミストラル伯爵の血は流れていません。ミストラル伯爵家の正式な継承者は義姉上だ。そこだって、諦めなくてよいのに、義姉上はいつだって私を次期伯爵とほめそやす」
「だって、それが皆に望まれているから」

 皆の心の声は、ティエリをほめそやす声だけだ。
 ティエリに伯爵家の血が流れてないからふさわしくないって思っている人は誰もいなかった。
 ……触れたこともない父上の心のうちはわからないけど、父上だってそう思っているはずだ。

「望まれているから、今回も殿下の望むとおりにするのですか? 義姉上は、それでいいのですか?」
「だって……」

 今までだって、私は諦めるしかなかったから。

「義姉上は、今までも、自分の努力によって、周りの人たちに影響を与えているんですよ? 自覚はないんでしょうけど、私だってその一人です」
「……私が? ……でも、ティエリが影響を受けるって……何を?」

 影響を与えてる?
 そもそも、天使であるティエリが私から影響受けることって何かあるんだっけ?
 全く予想もつかない私に、ティエリがニコリと笑う。

「ミストラル伯爵家の領地をきちんと治めないといけないと、勉強を頑張るようになりました」
「そう、なの?」

 本当に?
 ……でも、ティエリは優しいから。

「義姉上、信じていないのですか? 私は本当に、義姉上のおかげで、自分のためにきちんと勉強しなければ、と思ったんです」

 ギュッと握られた手に、ティエリに嘘がないことを思い出す。
 私でも、誰かの力になれてたんだ。

「不安にならなくとも、義姉上は自ら切り拓く力を、きちんと持っています」

 ティエリの真摯な言葉に、私は唇を噛む。

「策を、一緒に考えてくれる?」

 私の言葉に、ティエリが天使の笑みを見せた。
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