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「行きましょう、サシャ」
義母の声に、私の足は動き出そうとしなかった。
行きたくない、って気持ちが、足を踏み出すのを躊躇させていた。
動こうとしない私に、義母が眉を寄せる。
「どうかしたの?」
「……いえ」
私は首を振って、渋々動き出す。
王家の招待を断ったら、ティエリにも何か影響が及ぶかもしれないし。
上の空で歩き出した私は、慣れないドレスのせいもあってか、ドレスの裾に足を取られて早々に躓く。
「大丈夫ですか、お義姉様」
ティエリが体を支えてくれて、幸い転ばずには済んだ。
体勢を整えたのに、私の腕をギュッと離さないでいるティエリに視線を向ける。
初めて社交の場に出る私を心配してるのかもしれない。
「大丈夫よ?」
安心させるようにニコリと笑いかける。
「本当に?」
ティエリの目は真剣で、ダンスの練習で散々体に触れているハズなのに、掴まれた腕から伝わる熱にドギマギする。
「……大丈夫。行ってくるわ」
私が告げると、ティエリが小さく息をついて手を離した。
「お義姉様はドレスに慣れていなんですから、くれぐれも気を付けてください」
あまりの言われように私が苦笑すると、義母がクスリと笑う。
「さあ、行きましょう」
再びの掛け声に、私はもう一度歩き出した。
そして、歩きながら思う。
ドレスって、こんなに歩きにくかったんだ、って。
ドレスの下に長めのパニエみたいなものを着てるんだけど、それが妙に足にまとわりついて来る。
躓きそうになるのも、1回や2回じゃない。
……ダンスの練習も、きちんとドレス着てやればよかったかも……。
小さくため息をつきつつ、転ばないように気を張って歩く。
……この世界の貴族の女性たちは、みんなこんな歩きにくいドレスを、よく足でさばけるなぁ……。
前を歩く義母の足取りは、ただただ優雅だ。
目の前に出てきた豪奢な大理石の階段に、ため息が漏れる。
20段、か……。
しかも、ピカピカに磨き上げられている。
気を付けて降りるしかない。
ドレスをむんずと掴むと、義母が視線を向ける。
「サシャ、こう持った方が、優雅に見えるわ」
義母の手が抑える布はわずかだ。
……えーっと、本当にあのドレスの中、どうなってるんでしょうか?
「サシャ? 降りましょう?」
ドレスをわしゃっと掴んだまま動かない私を、義母が急かす。
「……はい」
義母に倣って僅かにドレスの布を抑えると、私は階段へ踏み出す。
……本当に、これで行けるんだろうか?
慣れれば行けるのかもしれない、と思うしかない。
もう一歩踏み出そうとすると、ビリ、と布が裂ける音が聞こえた。
え、と思った瞬間には、私のヒールはどこからか落ちたドレスの裾を踏んで、そのまま階段を滑り落ちていく。
「キャー」
「お嬢様!」
私の声を覆うように、ミリッツァの叫び声が響く。
「サシャ!」
「お義姉様!」
焦った義母とティエリの声が追いかけてくる。
ガンッ!
右側を下にするように床に落ちると同時に、強い衝撃がある。
目の前に星が飛ぶ。
床に触れた肌が、生暖かい液体に濡れていく。
私の瞼は、閉じたくもないのに閉じていく。
「サシャ! 誰か、お医者様を呼んで!」
「お義姉様! お義姉様!」
「お嬢様! 大丈夫ですか!」
3人の焦る声と同時に、別の声が沢山頭に流れ込む。
ハッキリと覚えているのは一つだけ。
『幸せになるなんて許さない』
私の意識は、そこで途切れた。
義母の声に、私の足は動き出そうとしなかった。
行きたくない、って気持ちが、足を踏み出すのを躊躇させていた。
動こうとしない私に、義母が眉を寄せる。
「どうかしたの?」
「……いえ」
私は首を振って、渋々動き出す。
王家の招待を断ったら、ティエリにも何か影響が及ぶかもしれないし。
上の空で歩き出した私は、慣れないドレスのせいもあってか、ドレスの裾に足を取られて早々に躓く。
「大丈夫ですか、お義姉様」
ティエリが体を支えてくれて、幸い転ばずには済んだ。
体勢を整えたのに、私の腕をギュッと離さないでいるティエリに視線を向ける。
初めて社交の場に出る私を心配してるのかもしれない。
「大丈夫よ?」
安心させるようにニコリと笑いかける。
「本当に?」
ティエリの目は真剣で、ダンスの練習で散々体に触れているハズなのに、掴まれた腕から伝わる熱にドギマギする。
「……大丈夫。行ってくるわ」
私が告げると、ティエリが小さく息をついて手を離した。
「お義姉様はドレスに慣れていなんですから、くれぐれも気を付けてください」
あまりの言われように私が苦笑すると、義母がクスリと笑う。
「さあ、行きましょう」
再びの掛け声に、私はもう一度歩き出した。
そして、歩きながら思う。
ドレスって、こんなに歩きにくかったんだ、って。
ドレスの下に長めのパニエみたいなものを着てるんだけど、それが妙に足にまとわりついて来る。
躓きそうになるのも、1回や2回じゃない。
……ダンスの練習も、きちんとドレス着てやればよかったかも……。
小さくため息をつきつつ、転ばないように気を張って歩く。
……この世界の貴族の女性たちは、みんなこんな歩きにくいドレスを、よく足でさばけるなぁ……。
前を歩く義母の足取りは、ただただ優雅だ。
目の前に出てきた豪奢な大理石の階段に、ため息が漏れる。
20段、か……。
しかも、ピカピカに磨き上げられている。
気を付けて降りるしかない。
ドレスをむんずと掴むと、義母が視線を向ける。
「サシャ、こう持った方が、優雅に見えるわ」
義母の手が抑える布はわずかだ。
……えーっと、本当にあのドレスの中、どうなってるんでしょうか?
「サシャ? 降りましょう?」
ドレスをわしゃっと掴んだまま動かない私を、義母が急かす。
「……はい」
義母に倣って僅かにドレスの布を抑えると、私は階段へ踏み出す。
……本当に、これで行けるんだろうか?
慣れれば行けるのかもしれない、と思うしかない。
もう一歩踏み出そうとすると、ビリ、と布が裂ける音が聞こえた。
え、と思った瞬間には、私のヒールはどこからか落ちたドレスの裾を踏んで、そのまま階段を滑り落ちていく。
「キャー」
「お嬢様!」
私の声を覆うように、ミリッツァの叫び声が響く。
「サシャ!」
「お義姉様!」
焦った義母とティエリの声が追いかけてくる。
ガンッ!
右側を下にするように床に落ちると同時に、強い衝撃がある。
目の前に星が飛ぶ。
床に触れた肌が、生暖かい液体に濡れていく。
私の瞼は、閉じたくもないのに閉じていく。
「サシャ! 誰か、お医者様を呼んで!」
「お義姉様! お義姉様!」
「お嬢様! 大丈夫ですか!」
3人の焦る声と同時に、別の声が沢山頭に流れ込む。
ハッキリと覚えているのは一つだけ。
『幸せになるなんて許さない』
私の意識は、そこで途切れた。
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