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「サシャおねえさま!」
幼い声に、私の意識は浮上する。
目の前には、天使と言っていいふわふわの金髪の青い目の子供がいた。
「あ! サシャおねえさま! 目が覚めましたか?!」
私の手をがしりと握り締めた子供が、嬉しそうにニコリと笑う。
「大丈夫ですか? どこか痛かったりしませんか?」
矢継ぎ早に質問されて、私は戸惑いつつ首を振った。
特に痛みは感じていなかった。
「それならば、良かったです! おねえさまに何かあったら、僕は、僕は……」
青い瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
どうやらこの天使の性別は、男の子らしい。
だけど、誰なのかがさっぱりわからなかった。
「ティエリお坊ちゃま! サシャお嬢様はお目覚めになられたばかりです。お静かに」
「ティエリ……?」
どうやらこの天使は、ティエリ様……の子供時代のようだ。
年のころは、小学生の低学年くらいのような。
私が知っているティエリ様は、17、8歳。
……つまり、これは『ヴィダル学園の恋人』が始まるもっと前ってこと?
「お嬢様、大丈夫ですか?」
先ほどの女性が顔を覗かせて、私の喉の奥が、ヒッと鳴く。
私の変化に気づいたらしいティエリ……が、私の手を更にギュッと握った。
「おねえさま? どうかされたのですか?」
「な、何も……」
そう言えば、こんな風に手をギュッとされているのに、特に何も頭の中に流れてこない。
……あれは、気のせい……だったのかな?
もしかして、私が転生したって設定をわかりやすくするための神様からのプレゼント……だったりして?
かなり悪意ありのネガティブな情報が多かったけど、現状は理解できたと言うか……。
とりあえず、私はティエリの姉のサシャに転生したっぽい、ということは理解した。
そして、ゲームの中で、サシャの姿は一度も出てきたことはない。
……話には、出てきたけど。
“義姉上”って単語だけで。
そして、ティエリはその義姉上に虐められたせいで、自信がなくなっていて、ヒロインのエミ・サレイユ子爵令嬢とのかかわりの中で、本来の姿を取り戻していって、ヒロインと親密になっていく……ってストーリー。
もちろん攻略対象は他にもいるけど、私がやったのはティエリルートだけ。
ただ、まだクリアしてないし、たぶん中盤くらいまでしかやってないから、後半話がどうなるか知らないんだけど。
つまり、サシャ・ミストラルってキャラは、ゲームでは名前もないほんのモブでしかないんだけど、ティエリの性格形成には大事な人物! ってわけ。
……あれ。
これティエリルートのラストで、私がざまぁされたりとか、ないよね?
「お嬢様、大丈夫ですか? やはり頭を打ったのですか?」
『本当に迷惑だわ! 私の目の前で倒れるとか、嫌がらせなの!』
ぺたり、と頬を触られた瞬間、また言葉が脳に流れ込んできた。
……この女性の本音だけが分かっちゃうってこと、かな?
「先生! お嬢様を見てくださいませ」
『流行病気で幽閉したほうがいいとか言ってくれてもいいのに!』
「どれどれ?」
恰幅の良い優しそうなおじいさんが、女性と入れ替わるように私の顔を覗き込む。
大きな親指が、私の下瞼を押さえた。
『本当にお騒がせなお嬢様だ。今回は誰かに害をなしたわけじゃないが、このお嬢様を親身に見る気にはならんのう』
……どうして?
ブワリと涙が浮かぶ。
幼い声に、私の意識は浮上する。
目の前には、天使と言っていいふわふわの金髪の青い目の子供がいた。
「あ! サシャおねえさま! 目が覚めましたか?!」
私の手をがしりと握り締めた子供が、嬉しそうにニコリと笑う。
「大丈夫ですか? どこか痛かったりしませんか?」
矢継ぎ早に質問されて、私は戸惑いつつ首を振った。
特に痛みは感じていなかった。
「それならば、良かったです! おねえさまに何かあったら、僕は、僕は……」
青い瞳からポロポロと涙が零れ落ちる。
どうやらこの天使の性別は、男の子らしい。
だけど、誰なのかがさっぱりわからなかった。
「ティエリお坊ちゃま! サシャお嬢様はお目覚めになられたばかりです。お静かに」
「ティエリ……?」
どうやらこの天使は、ティエリ様……の子供時代のようだ。
年のころは、小学生の低学年くらいのような。
私が知っているティエリ様は、17、8歳。
……つまり、これは『ヴィダル学園の恋人』が始まるもっと前ってこと?
「お嬢様、大丈夫ですか?」
先ほどの女性が顔を覗かせて、私の喉の奥が、ヒッと鳴く。
私の変化に気づいたらしいティエリ……が、私の手を更にギュッと握った。
「おねえさま? どうかされたのですか?」
「な、何も……」
そう言えば、こんな風に手をギュッとされているのに、特に何も頭の中に流れてこない。
……あれは、気のせい……だったのかな?
もしかして、私が転生したって設定をわかりやすくするための神様からのプレゼント……だったりして?
かなり悪意ありのネガティブな情報が多かったけど、現状は理解できたと言うか……。
とりあえず、私はティエリの姉のサシャに転生したっぽい、ということは理解した。
そして、ゲームの中で、サシャの姿は一度も出てきたことはない。
……話には、出てきたけど。
“義姉上”って単語だけで。
そして、ティエリはその義姉上に虐められたせいで、自信がなくなっていて、ヒロインのエミ・サレイユ子爵令嬢とのかかわりの中で、本来の姿を取り戻していって、ヒロインと親密になっていく……ってストーリー。
もちろん攻略対象は他にもいるけど、私がやったのはティエリルートだけ。
ただ、まだクリアしてないし、たぶん中盤くらいまでしかやってないから、後半話がどうなるか知らないんだけど。
つまり、サシャ・ミストラルってキャラは、ゲームでは名前もないほんのモブでしかないんだけど、ティエリの性格形成には大事な人物! ってわけ。
……あれ。
これティエリルートのラストで、私がざまぁされたりとか、ないよね?
「お嬢様、大丈夫ですか? やはり頭を打ったのですか?」
『本当に迷惑だわ! 私の目の前で倒れるとか、嫌がらせなの!』
ぺたり、と頬を触られた瞬間、また言葉が脳に流れ込んできた。
……この女性の本音だけが分かっちゃうってこと、かな?
「先生! お嬢様を見てくださいませ」
『流行病気で幽閉したほうがいいとか言ってくれてもいいのに!』
「どれどれ?」
恰幅の良い優しそうなおじいさんが、女性と入れ替わるように私の顔を覗き込む。
大きな親指が、私の下瞼を押さえた。
『本当にお騒がせなお嬢様だ。今回は誰かに害をなしたわけじゃないが、このお嬢様を親身に見る気にはならんのう』
……どうして?
ブワリと涙が浮かぶ。
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