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「起きていらっしゃるなら、返事をしてください」
ニコリと笑う女性が、私の肩に触れる。
『ミストラル伯爵家の令嬢ともあろう人が、コミュニケーションもまともに取れないなんて。でも、そんなのだから、伯爵様にも可愛がられないのよ』
急に悪意を持った言葉が脳に流れ込んできて、体が固まる。
「どうかされましたか? お嬢様?」
『早く支度してくれないと困るのよ。ぐずぐずしないで頂戴!』
ニコニコと笑っている女性の表情と流れ込んでくる私を非難する言葉に戸惑う。
この流れ込んでくる言葉は、一体?
「サシャお嬢様?」
『本当に愛想も意地も悪いこと! ティエリ坊ちゃまに嫉妬して意地悪しているくらいだもの。使用人の話など聞く気もないんでしょうけど!』
「ティエリ坊ちゃま?」
覚えのある名前に、私は首を傾げる。
そして、自分から出たはずの声に、違和感しかない。
私の声じゃなくて、まるで子供の声みたいだ。
目の前の女性が、ハッと口元を覆って顔を青ざめさせた。
「お嬢様! 何でもありませんわ!」
『不味いわ! つい口を滑らせてしまったのかしら!? 機嫌を損ねちゃ、ひどい目に遭うわ! 本当にこのお嬢様は人でなしなのよ!』
私は目の前の女性の顔をまじまじと見つめる。
女性の表情は、怯えている。
頭の中に流れ込んでくるのは、彼女の……本音?
『ど、どうして何も言わないのかしら!? そもそもお嬢様の性格が最悪なのが悪いのよ! どうしてこんな人がいるの!? 私もティエリ坊ちゃま付きになりたいわ!』
流れ込んでくる言葉に気分が重くなって、私は自分の体を抱え込む。
私から体を離した女性が、首を傾げたあと、少し息を吐いてまた微笑んだ。
「サシャお嬢様。そろそろ起きて支度をしましょう」
頭の中には、何も流れ込んでこなかった。
……どういうこと?
「ほら、起きてくださいませ」
女性が私の背中に手を挿し込んで、私の体を起こす。
『本当に愚図なんだから! 性格悪い上に愚図とか、本当に良いところがないわ! 顔はミストラル伯爵さまに似て美しいはずなのに、性格が悪いから意地悪にしか見えないし』
「やめて!」
私は女性の手を振り払う。
女性は一瞬固い表情を見せたけど、すぐに気を取り直したように笑顔を私に向けた。
「サシャお嬢様、無理やりが嫌なのでしたら、ご自分で起きて下さいませ」
優しそうに微笑んでいるのに、何を考えているのかわからなくて、背筋が寒くなる。
私は慌てて立ち上がる。
「着替えます」
「では、お手伝いしますわ」
女性が立ち上がった私の前にしゃがみ込んで、ネグリジェみたいな服に手を伸ばす。
こんな服、持ってなかったけど。
……というか、私、こんなに背が低かったかな?
いや、そもそも『サシャ』って誰?
『毎日毎日、よくも飽きずに人に嫌がらせができること!』
「自分で着替えられます!」
私は自分の体を女性から引き離す。
女性が驚いたように首を傾げる。
「サシャお嬢様が、お一人で?」
「ええ」
「……では、できないところはお手伝いいたしますので」
紐が編み込まれた服は、小さい手の中では、なかなか緩まってくれなかった。
「お嬢様、お手伝いしますわ」
ニコリと笑った女性が、私の服に手をかける。
『早く結婚して家から出ていけばいいのに。ああ、ヴィダル学園に行くから、あと3年くらい待てばいなくなるかしら』
ヴィダル学園?
……そうだ。
ティエリ・ミストラル伯爵令息は、私の推しだ。
そう気づいた途端、目の前が暗転した。
ニコリと笑う女性が、私の肩に触れる。
『ミストラル伯爵家の令嬢ともあろう人が、コミュニケーションもまともに取れないなんて。でも、そんなのだから、伯爵様にも可愛がられないのよ』
急に悪意を持った言葉が脳に流れ込んできて、体が固まる。
「どうかされましたか? お嬢様?」
『早く支度してくれないと困るのよ。ぐずぐずしないで頂戴!』
ニコニコと笑っている女性の表情と流れ込んでくる私を非難する言葉に戸惑う。
この流れ込んでくる言葉は、一体?
「サシャお嬢様?」
『本当に愛想も意地も悪いこと! ティエリ坊ちゃまに嫉妬して意地悪しているくらいだもの。使用人の話など聞く気もないんでしょうけど!』
「ティエリ坊ちゃま?」
覚えのある名前に、私は首を傾げる。
そして、自分から出たはずの声に、違和感しかない。
私の声じゃなくて、まるで子供の声みたいだ。
目の前の女性が、ハッと口元を覆って顔を青ざめさせた。
「お嬢様! 何でもありませんわ!」
『不味いわ! つい口を滑らせてしまったのかしら!? 機嫌を損ねちゃ、ひどい目に遭うわ! 本当にこのお嬢様は人でなしなのよ!』
私は目の前の女性の顔をまじまじと見つめる。
女性の表情は、怯えている。
頭の中に流れ込んでくるのは、彼女の……本音?
『ど、どうして何も言わないのかしら!? そもそもお嬢様の性格が最悪なのが悪いのよ! どうしてこんな人がいるの!? 私もティエリ坊ちゃま付きになりたいわ!』
流れ込んでくる言葉に気分が重くなって、私は自分の体を抱え込む。
私から体を離した女性が、首を傾げたあと、少し息を吐いてまた微笑んだ。
「サシャお嬢様。そろそろ起きて支度をしましょう」
頭の中には、何も流れ込んでこなかった。
……どういうこと?
「ほら、起きてくださいませ」
女性が私の背中に手を挿し込んで、私の体を起こす。
『本当に愚図なんだから! 性格悪い上に愚図とか、本当に良いところがないわ! 顔はミストラル伯爵さまに似て美しいはずなのに、性格が悪いから意地悪にしか見えないし』
「やめて!」
私は女性の手を振り払う。
女性は一瞬固い表情を見せたけど、すぐに気を取り直したように笑顔を私に向けた。
「サシャお嬢様、無理やりが嫌なのでしたら、ご自分で起きて下さいませ」
優しそうに微笑んでいるのに、何を考えているのかわからなくて、背筋が寒くなる。
私は慌てて立ち上がる。
「着替えます」
「では、お手伝いしますわ」
女性が立ち上がった私の前にしゃがみ込んで、ネグリジェみたいな服に手を伸ばす。
こんな服、持ってなかったけど。
……というか、私、こんなに背が低かったかな?
いや、そもそも『サシャ』って誰?
『毎日毎日、よくも飽きずに人に嫌がらせができること!』
「自分で着替えられます!」
私は自分の体を女性から引き離す。
女性が驚いたように首を傾げる。
「サシャお嬢様が、お一人で?」
「ええ」
「……では、できないところはお手伝いいたしますので」
紐が編み込まれた服は、小さい手の中では、なかなか緩まってくれなかった。
「お嬢様、お手伝いしますわ」
ニコリと笑った女性が、私の服に手をかける。
『早く結婚して家から出ていけばいいのに。ああ、ヴィダル学園に行くから、あと3年くらい待てばいなくなるかしら』
ヴィダル学園?
……そうだ。
ティエリ・ミストラル伯爵令息は、私の推しだ。
そう気づいた途端、目の前が暗転した。
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