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★Sideピエルパオロ★

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「仮面舞踏会? なんでまた、そんなこと聞くんだ?」

 テオ様が眉間にしわを寄せる。

「……フィオーレ様の気分転換になるからって、幼馴染のパメラがやるって言い出して」

 私も肩をすくめてみせる。
 テオ様は人間界の王子で、本来ならば敬語で話さなければならない立場なんだけど、人間界に留学している時に、友達になりたいなら敬語はやめてほしいと言われて、それから二人きりの時には、敬語を使わなくなった。

 以前人間界に留学しているときに、人間の友人から聞きかじった知識をパメラに話したことがあった。そしたらそれを、フィオーレ様に話したらしく、女二人で、気分転換にいいかも、という話になったらしい。
 ジョエルと不本意な婚約をすることになってしまったフィオーレ様は気落ちしていたから、それはいいアイデアかもね、と私も確かに言った。

 言ったけど、本格的にしたいからきちんと調べてくるように、とパメラが言い出すとは思わなかった。
 いつものことだけど、パメラは結構私をこき使う。
 ……いいんだけど。惚れた弱みだよね……。

「私は出たことはないけど……蝶の仮面を用意すればいいんじゃないか」

 テオ様があっさりと自分が役に立たないことを告げた。

「……出たことないのか」
「ああ。だから、私に聞くのは、間違いだ」

 頷くテオ様に、あることを思い出した。

「そうだよな。普通のパーティーにも出てないのに、仮面舞踏会とか変わった催しに行くわけないか」

 テオ様は、人間界の第六王子なのに、パーティーの類が嫌いで、ほとんど逃げ回っているらしい。王族がそれでいいのか聞いたことがあるが、別にいいだろう、と気にもしてやしない。
 女性に取り囲まれることがなくて気が楽でいい、とまで言っていた。
 ……肩書も”王子”だし、見た目はいいから、きっとパーティーに出たら囲まれてしまうんだろう。
 話すと魔法の話しかしないから、ほとんどの女性はつまらないと思うだろうけど。
 テオ様は、魔法バカだ。
 女性と話すより、魔法の研究をしてるほうがよほど楽しいといつも言っている。
 ……もう婚約の話があっていい年ごろなのに、それからも逃げ回っているらしい。
 曰く、研究だけして過ごしたい、らしい。
 ……確かに、仮面舞踏会の話を聞いたのは、人選ミスだな。

「他の人間に聞いてみる」
「それがいいだろうな。ところで」
「なんだ?」
「どうして、フィオーレ様の気分転換が必要なんだ?」

 私は驚いて、テオ様の顔をじっと見つめた。

「なんで、私の顔をじっと見るんだ?」

 不思議そうなテオ様に、私は首を振る。

「テオ様が、誰かに興味を持つことがあると思わなくて」
「ピエルパオロ。流石に、次期妖精王のことくらいは、気にはなるさ。精霊の力を借りずに魔法が使える妖精の中の王だぞ?」

 どうやら、テオ様の興味は違ったらしい。
 ……一瞬、テオ様ならアリだけどな、と思ったのに。

「番って何か知ってるか?」
「……あのなぁ。ピエルパオロが散々私に聞かせたんだぞ。それくらいは知っている。……感覚としてはわからないがな。ずっと見つからなかったフィオーレ様の番が見つかったんだろう? フィオーレ様は喜んでるんじゃないのか?」
「……いや。喜んでないんだ。むしろ、番とは認めてないんだ」
「番と認めてない?」

 困惑したように眉を寄せるテオ様に、私は頷く。

「ああ。だが、妖精王が宣言してしまったから、逃れられなくなって、致し方なく婚約しただけなんだ」
「そんなこと、あり得るのか? つまり、相手が嘘をついてるってことか?」
「たぶん。いや、ほぼ間違いないそうだと、私たちは思っている」

 こんなこと、信頼している相手じゃないと言えない。テオ様は、人間の中で一番信頼している相手だから、口にした。それに、それに関して頼みたいことがあったから、テオ様にわざわざ会いに来たわけで、もともと説明するつもりだったから、手間が省けた。
 
「私たち?」
「私と、フィオーレ様と、パメラの3人だけだけど」
「……だが、フィオーレ様自身が、相手が番じゃないと思っているんだろう?」
「ああ。だけど、相手の嘘が嘘だという証拠が、何もないんだ」
「……感覚だけの話だからな。証拠の出しようがないな……」

 うむ、とテオ様が腕を組んで考え込む。

「ただ、気になることがあって」
「気になること?」
「そう。フィオーレ様には、番を見つける能力がないって言い出した妖精がいて」
「……なるほどな。そのせいで、フィオーレ様の言うことが、信じてもらえなかったわけか」

 テオ様が顎に手を当てる。

「そうなんだよ。しかも、私がいたら反論されると思ったのか、私がいない隙を狙って、番だって言い出したんだ」
「……その偽の番と知り合いなのか?」
「うーん。相手が勝手に私を敵視してるって感じだな。私は興味もなかったんだが、流石に、フィオーレ様の番と言い出したのは許せなくてな。本当に番だったとしたら、もっと早くにフィオーレ様だって気づいたはずだよ」
「フィオーレ様が、本当に番を見つける能力がない可能性は?」

 テオ様の指摘に、私は目を細める。

「ありえなくはないよ。だけど、あいつが番なんてありえない。だって、他に手を付けている女性がいるんだ」
「……それは不誠実だな。それに、ピエルパオロの説明とは違っているな。他の異性は目に入らなくなるって言ってなかったか?」
「ああ。だから、絶対に、あいつはあり得ない」
「……妖精王は、それを知らないのか?」

 私はため息をつきながら首を振った。

「いや。知っている」
「なんで宣言したんだ?」
「私が知りたいよ……」

 それだけが、どうしても解けない謎なんだけど……。

「それでも、フィオーレ様は、あいつは番じゃないって言ってるから……」
「とりあえず、ピエルパオロは、「番を見つける能力がない」って言い出した妖精が、偽の番に頼まれて言わされたんじゃないかって思ってるってことか?」
「頼まれて、と言うのとも違うんだが……従わせることができる魔法があるんだ。それを使ったんじゃないかと思っている」
「従わせる魔法?」

 テオ様がぐい、と身を乗り出した。
 私は苦笑する。
 その話をすると、きっと食いつきがいいとは思ったんだが、案の定だった。

「その証拠になるものが見つけられれば、フィオーレ様は偽の番と婚約を解消できるってわけだな」

 うんうん、と頷くテオ様に、私も、うんうん、と頷く。流石、テオ様! 頭の回転が速くて助かる!
 テオ様が片眉を上げた。

「ところで、その魔法……」
「いや、古の魔法で、存在しないものだといわれていたから、私も知らない」
「そうか」
 
 テオ様がわかりやすく肩を落とした。
 それは本当のことで、ついでに、妖精の使う魔法と、人間の使う魔法は、性質が違っているから、お互いに使いこなすことはできないんだけど。テオ様はどうやって研究するつもりなんだろう?

「……人間界の魔法には、誰が使った魔法か痕跡をたどる魔法があるんだが」
「妖精の魔法にも応用できるのか?!」
「わからない。だが、試す価値はあるだろう。何か、その従わせられている妖精の持ち物とか……その魔法に関係しそうなモノとかはあるのか?」
「身に着けているものに魔法をかけて使わせるらしい、と言うことは知ってるんだが……」
「なるほど、ならば、わりに簡単だな」

 こくりと頷いたテオ様に、私は首をかしげる。

「なにが簡単なんだ?」
「その妖精の持ち物を全て持ってくるがいい」
「……全然簡単じゃないんだが!」
「そうか?」

 ……テオ様、本気で言っているところが、困る。

「じゃあ、私が妖精界に行くか」
「……むしろ、人間界にいなくていいのか?」
 
 第六王子なのに。

「第六王子だからな。それに、私の仕事は魔法の研究がメインだから、妖精界の魔法を研究しに行くと言えば、許されるだろう」

 ……いいのか。そんなに気軽で。でも、助かる。

「それは、助かる。いや、助かります。フィオーレ様のため、よろしくお願いします」

 私が頭をさげると、テオ様が私の肩を叩く。

「友達だろう? 困ったときは、お互い様だ」

 いや、うん。本当に、魔法バカである以外は、テオ様男前なんだよね……。
 ……テオ様が番だったら、本気で喜ぶのに。……でも、流石にテオ様はフィオーレ様と一度は会ってるだろうから、つまり、番じゃないってことだよね……。

「フィオーレ様とも会っておくか?」

 私の質問に、テオ様はあっさりと首を横に振った。

「私が興味あるのは、その魔法だからね。直接会う必要はないよ」
「いやに正直すぎるな。でも、挨拶ぐらいは……」

 普通は……ね。王族同士だし……。

「フィオーレ様とは、顔を会わせたことはないんだよね。お互い知らないんだから、会わなくても大丈夫だろう?」

 ……いや、テオ様?!
 ……まさか?!

 うん。仮面舞踏会、連れてっちゃおう。
 古の魔法の本があるって言って。

 ……パメラの家に古の魔法の本があるのは嘘じゃないし、ね。
 魔法で開く古い本。
 魔法について書いてある訳じゃないけど、偽ってはない。うん。
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