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今ここ→⑧
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「何度も言いたくはないんだがね」
お父様の言葉がする前に、エンマの声は消えてしまった。エンマは驚いたように口をパクパクしているだけで、声は出てきていなかった。きっと、お父様はエンマの声を奪ってしまったのだろう。
だから、言ったのに。……心の中で。
「フィオーレもテオ殿も、お互いに番であることを認めたということでいいのかな?」
お父様の視線が私とテオ様に向けられる。
私もテオ様も、大きく頷く。それは、間違いのないことだから。
「では、自分がフィオーレの番だと言ったジョエルは、どういうことになるのかな?」
お父様の視線がジョエルに向かう。
忌々しそうに私とテオ様を睨みつけていたジョエルが、慌てて表情を取り繕うと、お父様を見上げた。
「陛下。私が先ほど訴えた通り、フィオーレ様は、陛下の宣言を偽りだと言い出し、陛下への忠誠を疑うような言動で、妖精たちを惑わそうとしているのです!」
ありもしないことを、さもあるように言い切るジョエルは、私を番だと言い出した時と同じで、まるで本当のことを言っているように見えた。
そこに真実がないとわかっているのに、発言を許されていないから、否定ができない。
私は悔しくて唇をかむ。
「ジョエル、それは、真実かな?」
「陛下。私の陛下への忠誠を疑うのですか?」
「偽りには死を」という言葉は、妖精王への忠誠を求める言葉だ。
だから、妖精は妖精王に嘘をつけない。
いや、つかない。
妖精王に忠誠を誓っているからだ。
だけど、私は妖精王になったお父様が「真実かな」と尋ねている言葉を、初めて聞いた気がした。
お父様がそんな風に忠誠を誓わせるようなことをしたことは、たぶん、私が知っている中では初めてだ。
私に言葉が求められるのであれば、それが偽りだと、すぐにでも言いたい。
「もちろん、疑いたくはないよ。だが、お互いの言葉を聞かねばなるまい。フィオーレ、ジョエルの言ったことは誠か?」
「ほとんどが嘘です」
私の言葉に、お父様が首をかしげる。
「ほとんど? それでは、何が正しくて何が正しくなかったのか、教えてもらえるかな?」
私はこくりと唾をのんだ。
少なくとも、お父様の宣言が誤っていた、とは告げなければならない。でも、それは真実なんだから。
「私とジョエルが番であるとしたお父様の宣言は誤りであると言わざるを得ません。私には、テオ様という番が現れましたから。ですから、お父様の宣言が偽りだと告げたことは本当です。ですが、妖精たちを惑わそうとしたわけでも、謀反を起こそうとしたわけでもありません。ただ、ジョエルが私の番ではないと言いたかっただけです。それに、私に番を見つける能力がないと言った教育係のエンマは、約束の石によって、グエッラ家のジョエルたちに操られていたのです。ですから、私に番を見つける能力がないと言い、自分が番だと言い出したことは、嘘でしかありません」
私の言葉をじっと聞いていたお父様が頷く。
「なるほど、謀反を起こそうとしたわけではないと」
「はい」
「だが、私が二人が番だと宣言したことは、誤りだと?」
「……はい。エンマがジョエルの家に操られていたという証拠もあります」
妖精王の発言にケチをつけるなど、次期妖精王と言えども、許されるようなことではないと、私だって思っている。だけど、誤っているとしか、私には言えない。
私の不安な心を落ち着かせるように、テオ様の手が、私の手をそっと覆った。
そのぬくもりに、私は泣きそうになる。
たったこれだけのことで、安心できる相手なのだから、番に間違いないのだ。
ジョエルの時には感じることのなかった感情が、テオ様には滾々とわいてくる。
シン、と静まり返った会場は、緊張に包まれていた。
お父様の言葉がする前に、エンマの声は消えてしまった。エンマは驚いたように口をパクパクしているだけで、声は出てきていなかった。きっと、お父様はエンマの声を奪ってしまったのだろう。
だから、言ったのに。……心の中で。
「フィオーレもテオ殿も、お互いに番であることを認めたということでいいのかな?」
お父様の視線が私とテオ様に向けられる。
私もテオ様も、大きく頷く。それは、間違いのないことだから。
「では、自分がフィオーレの番だと言ったジョエルは、どういうことになるのかな?」
お父様の視線がジョエルに向かう。
忌々しそうに私とテオ様を睨みつけていたジョエルが、慌てて表情を取り繕うと、お父様を見上げた。
「陛下。私が先ほど訴えた通り、フィオーレ様は、陛下の宣言を偽りだと言い出し、陛下への忠誠を疑うような言動で、妖精たちを惑わそうとしているのです!」
ありもしないことを、さもあるように言い切るジョエルは、私を番だと言い出した時と同じで、まるで本当のことを言っているように見えた。
そこに真実がないとわかっているのに、発言を許されていないから、否定ができない。
私は悔しくて唇をかむ。
「ジョエル、それは、真実かな?」
「陛下。私の陛下への忠誠を疑うのですか?」
「偽りには死を」という言葉は、妖精王への忠誠を求める言葉だ。
だから、妖精は妖精王に嘘をつけない。
いや、つかない。
妖精王に忠誠を誓っているからだ。
だけど、私は妖精王になったお父様が「真実かな」と尋ねている言葉を、初めて聞いた気がした。
お父様がそんな風に忠誠を誓わせるようなことをしたことは、たぶん、私が知っている中では初めてだ。
私に言葉が求められるのであれば、それが偽りだと、すぐにでも言いたい。
「もちろん、疑いたくはないよ。だが、お互いの言葉を聞かねばなるまい。フィオーレ、ジョエルの言ったことは誠か?」
「ほとんどが嘘です」
私の言葉に、お父様が首をかしげる。
「ほとんど? それでは、何が正しくて何が正しくなかったのか、教えてもらえるかな?」
私はこくりと唾をのんだ。
少なくとも、お父様の宣言が誤っていた、とは告げなければならない。でも、それは真実なんだから。
「私とジョエルが番であるとしたお父様の宣言は誤りであると言わざるを得ません。私には、テオ様という番が現れましたから。ですから、お父様の宣言が偽りだと告げたことは本当です。ですが、妖精たちを惑わそうとしたわけでも、謀反を起こそうとしたわけでもありません。ただ、ジョエルが私の番ではないと言いたかっただけです。それに、私に番を見つける能力がないと言った教育係のエンマは、約束の石によって、グエッラ家のジョエルたちに操られていたのです。ですから、私に番を見つける能力がないと言い、自分が番だと言い出したことは、嘘でしかありません」
私の言葉をじっと聞いていたお父様が頷く。
「なるほど、謀反を起こそうとしたわけではないと」
「はい」
「だが、私が二人が番だと宣言したことは、誤りだと?」
「……はい。エンマがジョエルの家に操られていたという証拠もあります」
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私の不安な心を落ち着かせるように、テオ様の手が、私の手をそっと覆った。
そのぬくもりに、私は泣きそうになる。
たったこれだけのことで、安心できる相手なのだから、番に間違いないのだ。
ジョエルの時には感じることのなかった感情が、テオ様には滾々とわいてくる。
シン、と静まり返った会場は、緊張に包まれていた。
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