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今ここ→⑦

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 ピエルパオロが掲げる石を、ジョエルとエンマが忌々しそうににらみつける。

「どこにそんな証拠があったんだ! そんな痕跡など、見つける方法はあるまい!」

 ジョエルの疑問は最もで、妖精の世界には、そんな方法はありはしない。
 だから、私もピエルパオロに話を聞いた時には、本当に驚いた。

「人間の世界には、あるんだよ」
 
 ピエルパオロの口から出てきた言葉に、場内が騒然とする。ジョエルも驚きで目を見開く。
 人間界に留学していたピエルパオロだからこそ、出てきた言葉だったのかもしれなかった。

「そ、そんなこと、信じられるものか! よ、妖精王ですらできないのに!」
「人間の使う魔法は、精霊の力を借りるから、妖精の魔法とは理がちがうのですよ」

 ジョエルの言葉に反論したのは、テオ様だった。

「い、言うことに事欠いて!」
「言うことに事欠いているのは、あなたの方ではないかな?」

 テオ様が銀色の仮面を外す。出てきた顔立ちは、やはり見覚えのない顔だった。

「私は……」
 
 テオ様が口を開いた瞬間、会場に新たな姿が現れる。
 ざわり、とざわめいた会場が、一瞬で水を打ったように静まり返る。
 私が膝をつき頭を垂れると、他の妖精たちも倣うように膝をついた。
 テオ様も私の横に膝をつき頭を垂れた。

「普段使われない魔法の気の流れを感じて来てみれば、これは、どんな集まりかな、フィオーレ?」
 
 威厳のある低い声は、間違いなく私の父……妖精王の声だ。
 瞳の色を変える魔法については、きっと目をつぶってくれたのかもしれないけれど、流石に召喚の魔法を使ったことは、捨て置けなかったのかもしれない。召喚の魔法は、気軽に使っていい魔法ではないから。もちろん、わかっていて使ったのだけど。

「陛下! フィオーレ……様が謀反を起こそうとしています!」
「左様にございます! フィオーレ様が、何を思ったか陛下を裏切る謀反を計画しておりました!」

 私が顔を上げるより前に、ジョエルとエンマが声をあげる。
 予想もしていない申し出に、会場がざわめく。
 言うことに事欠いて、謀反とか! どれだけ嘘つけば気が済むわけ!

「静かにしたまえ。私はフィオーレに説明を求めているんだよ」

 お父様の言葉に、ざわめきが止まる。
 ジョエルの根拠のない訴えを即座に流されて、私はホッとして顔を挙げる。
 だけど、お父様の表情は険しくて、何を考えているのかは読み取れなかった。
 だけど、私には真実を話す他はない。

「お父様。私は、仮面舞踏会という人間界で行われている舞踏会を模した会を催し、この場において、私の番を見つけました」
「番、か? それは、ジョエル殿ではなかったかな」
「フィオーレ様は、そう言って私を貶めようとしているのです!」
「ジョエル殿、私はフィオーレに聞いているんだ。魔法で声を奪ったほうがいいかな?」

 冷たい視線を向けられたジョエルが、悔しそうに唇をかむ。

「それでフィオーレ、その番とは?」
「私の隣にいるテオ……様です」

 本来ならば正しい名前を告げたかったけれど、私はそう呼ぶしかなかった。

「テオ、か。顔を挙げるがよい」

 お父様の声に、テオ様が顔を挙げた気配がした。
 その瞬間、お父様の顔がほころぶ。

「久しいな、テオ殿」

 お父様の反応に驚く。どういうこと?!

「お久しぶりにございます、陛下」
「テオ殿、フィオーレの番であるという話は、本当かな」

 お父様の柔らかな表情が、一瞬だけ鋭くなる。緊張した面持ちのテオ様が、しっかりと頷く。

「ええ。私もフィオーレ様が私の番であると、確信しました」
「嘘よ! そんなの嘘よ!」

 エンマの否定する甲高い叫び声が響く。
 ……逆効果だと思うんだけど。
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