上 下
6 / 13

今ここ→⑥

しおりを挟む
「ジョエル、私に番を見つける能力がないと言った教育係は、あなたの家の息がかかっていたようね」
 
 私の言葉に、ジョエルが一瞬目を見開いて、すぐに動揺を隠すと、目を細める。

「何を言い出すかと思えば……下らない」
「あら、証拠はあるのよ?」
「そうね」

 パメラが楽しそうに声を弾ませる。私も同意して頷く。
 ジョエルの言葉が怪しいと、私の不安な心を具現化してくれたのは、パメラだった。

「ど、どこにそんな証拠が?! そんなものありはしないだろう!」

 余裕な態度の私とパメラに、ジョエルが少しうろたえる。

「それがね、あるんだよ」
 
 ピエルパオロが、うんうんと頷いている。
 証拠を集めるのに力を貸してくれたのは、パメラと同じくジョエルに疑いを持ったピエルパオロだった。

 ジョエルが、ギリギリと奥歯を噛み締めている。
 ジョエルは、身分が公爵家である自分より下の、でも自分より私に信頼されているピエルパオロのことを、昔から敵視していた。

 ジョエルもピエルパオロも同じく私にとっては従兄だと言うのに、私が幼い頃から信頼しているのはピエルパオロの方だったし、それは20才になっても変わりそうもなかった。
 ピエルパオロは公正な目を持つけれど、ジョエルは自分を褒める相手の言うことしか耳に入れようとしないとよく知っているから。
 今日の行動だけで、侮蔑するには十分だ。

「証拠があると言うのなら、出してもらおう!」

 それでも尊大な態度のジョエルに、私は本気でため息をつく。

「ええ。かまわないわ」

 私は魔法で、私に欠陥があると告げた教育係のエンマを呼び出した。
 唐突に現れたエンマに、会場がざわめく。
 召喚の魔法など、普通は使えないからだ。瞳を変える魔法と同じで。
 だけど、私は次期妖精王なのだ。
 ジョエルもコラソンも、驚きで目を見開いている。

 パメラもピエルパオロも、この魔法の存在を知っているから、驚いてはいない。テオ様は私がやろうとしていることを理解したのか、楽しそうに目を細めた。
 呼び出された当のエンマは、突然の出来事に狼狽えている。
 いつも、私を冷たく見ていた様子とは、全然違う。

「エンマ、ご機嫌よう」
 
 私の声に、エンマがハッとする。

「フィオーレ様、この趣味の悪い催しに、一体なぜいらっしゃっているのです!」

 我に返ったらしいエンマが、いつものように私を叱責する。
 いつもいつも、エンマは私を怒りのエネルギーで操作しようとしていた。この15年もの間。
 それは、自分の思い通りに私を動かしたかったからだと、今ならわかるのだけど。
 わずかに感謝できるところがあるとすれば、怒りのコントロールを、彼女のおかげで身につけられた、ってところぐらいだろうか。わずかに、だけど!

「そうね。言うならば、エンマの言うとおりにならないため、かしら? そうそう、エンマ。私の番が見つかったのよ」
「フィオーレ様! 一体何を言い出すのです!」
「私に番を見つける能力がないと、よくもぬけぬけと言えたものね。私にも、番を見分ける能力はきちんとあったわ」

 私はテオ様の体に頭を寄せると、エンマに微笑んで見せる。

「フィオーレ様! フィオーレ様の番は、ジョエル様ではありませんか!」
「流石、グエッラ公爵家の犬。ぶれないわね」

 パメラの言葉に、エンマが顔を真っ赤にする。

「私は、犬などではありません!」
「でも、約束の石のペンダントは、グエッラ家の犬になるように約束がかけられていたようだけど? でも、この石がなくても、グエッラ家に忠実なんだから、犬で間違ってはなさそうだけどね」

 ピエルパオロが懐から透明な石のついたペンダントを取り出す。
 エンマが奥歯をぎりぎりと鳴らして、フルフルと震えだす。

「私は私の意思で動いているのです! 誰かに飼われる犬などではありません!」
「だけど、この石には、グエッラ家の……魔力の痕跡があったんだよ?」

 ピエルパオロの言葉に、グエッラ家であるジョエルがピクリと反応する。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運命は、手に入れられなかったけれど

夕立悠理
恋愛
竜王の運命。……それは、アドルリア王国の王である竜王の唯一の妃を指す。 けれど、ラファリアは、運命に選ばれなかった。選ばれたのはラファリアの友人のマーガレットだった。 愛し合う竜王レガレスとマーガレットをこれ以上見ていられなくなったラファリアは、城を出ることにする。 すると、なぜか、王国に繁栄をもたらす聖花の一部が枯れてしまい、竜王レガレスにも不調が出始めーー。 一方、城をでて開放感でいっぱいのラファリアは、初めて酒場でお酒を飲み、そこで謎の青年と出会う。 運命を間違えてしまった竜王レガレスと、腕のいい花奏師のラファリアと、謎の青年(魔王)との、運命をめぐる恋の話。 ※カクヨム様でも連載しています。 そちらが一番早いです。

[完結]間違えた国王〜のお陰で幸せライフ送れます。

キャロル
恋愛
国の駒として隣国の王と婚姻する事にになったマリアンヌ王女、王族に生まれたからにはいつかはこんな日が来ると覚悟はしていたが、その相手は獣人……番至上主義の…あの獣人……待てよ、これは逆にラッキーかもしれない。 離宮でスローライフ送れるのでは?うまく行けば…離縁、 窮屈な身分から解放され自由な生活目指して突き進む、美貌と能力だけチートなトンデモ王女の物語

おいしいご飯をいただいたので~虐げられて育ったわたしですが魔法使いの番に選ばれ大切にされています~

通木遼平
恋愛
 この国には魔法使いと呼ばれる種族がいる。この世界にある魔力を糧に生きる彼らは魔力と魔法以外には基本的に無関心だが、特別な魔力を持つ人間が傍にいるとより強い力を得ることができるため、特に相性のいい相手を番として迎え共に暮らしていた。  家族から虐げられて育ったシルファはそんな魔法使いの番に選ばれたことで魔法使いルガディアークと穏やかでしあわせな日々を送っていた。ところがある日、二人の元に魔法使いと番の交流を目的とした夜会の招待状が届き……。 ※他のサイトにも掲載しています

竜王陛下の番……の妹様は、隣国で溺愛される

夕立悠理
恋愛
誰か。誰でもいいの。──わたしを、愛して。 物心着いた時から、アオリに与えられるもの全てが姉のお下がりだった。それでも良かった。家族はアオリを愛していると信じていたから。 けれど姉のスカーレットがこの国の竜王陛下である、レナルドに見初められて全てが変わる。誰も、アオリの名前を呼ぶものがいなくなったのだ。みんな、妹様、とアオリを呼ぶ。孤独に耐えかねたアオリは、隣国へと旅にでることにした。──そこで、自分の本当の運命が待っているとも、知らずに。 ※小説家になろう様にも投稿しています

私のことが大好きな守護竜様は、どうやら私をあきらめたらしい

鷹凪きら
恋愛
不本意だけど、竜族の男を拾った。 家の前に倒れていたので、本当に仕方なく。 そしたらなんと、わたしは前世からその人のつがいとやらで、生まれ変わる度に探されていたらしい。 いきなり連れて帰りたいなんて言われても、無理ですから。 そんなふうに優しくしたってダメですよ? ほんの少しだけ、心が揺らいだりなんて―― ……あれ? 本当に私をおいて、ひとりで帰ったんですか? ※タイトル変更しました。 旧題「家の前で倒れていた竜を拾ったら、わたしのつがいだと言いだしたので、全力で拒否してみた」

君は僕の番じゃないから

椎名さえら
恋愛
男女に番がいる、番同士は否応なしに惹かれ合う世界。 「君は僕の番じゃないから」 エリーゼは隣人のアーヴィンが子供の頃から好きだったが エリーゼは彼の番ではなかったため、フラれてしまった。 すると 「君こそ俺の番だ!」と突然接近してくる イケメンが登場してーーー!? ___________________________ 動機。 暗い話を書くと反動で明るい話が書きたくなります なので明るい話になります← 深く考えて読む話ではありません ※マーク編:3話+エピローグ ※超絶短編です ※さくっと読めるはず ※番の設定はゆるゆるです ※世界観としては割と近代チック ※ルーカス編思ったより明るくなかったごめんなさい ※マーク編は明るいです

離縁してください旦那様

ルー
恋愛
近年稀にみる恋愛結婚で結ばれたシェリー・ランスとルイス・ヤウリアは幸せの絶頂にいた。 ランス伯爵家とヤウリア伯爵家の婚姻は身分も釣り合っていて家族同士の付き合いもあったからかすんなりと結婚まで行った。 しかしここで問題だったのはシェリーは人間族でルイスは獣人族であるということだった。 獣人族や龍族には番と言う存在がいる。 ルイスに番が現れたら離婚は絶対であるしシェリーもそれを認識していた。 2人は結婚後1年は幸せに生活していた。 ただ、2人には子供がいなかった。 社交界ではシェリーは不妊と噂され、その噂にシェリーは傷つき、ルイスは激怒していた。 そんなある日、ルイスは執務の息抜きにと王都の商店街に行った。 そしてそこで番と会ってしまった。 すぐに連れ帰ったルイスはシェリーにこう言った。 「番を見つけた。でも彼女は平民だから正妻に迎えることはできない。だから離婚はなしで、正妻のまま正妻として仕事をして欲しい。」 当然シェリーは怒った。 「旦那様、約束は約束です。離縁してください。」 離縁届を投げつけ家を出たシェリーはその先で自分を本当に愛してくれる人と出会う

あ、婚約破棄ですよね?聞かなくてもわかります。

黒田悠月
恋愛
婚約破棄するつもりのようですね。 ならその前に……。 別作品の合間の気分転換で、設定等ゆるゆるです。 2話か3話で終わります。 ※後編が長くなってしまったので2話に分けました。 4話で完結です。

処理中です...