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今ここ→①
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息が止まる。
その表現を理解したのは、今日が初めてだった。
シルバーの蝶を模した仮面から覗く、深い青が、私を射抜く。
ううん。私の、心を射抜く。
って言うか、えー?!
「フィオーレ様?」
心配そうな従兄のピエルパオロ = カサーレ侯爵令息の声に、私は我に返る。
そして、ピエルパオロを小さく睨む。
「名前は言わない約束よ?」
私に睨まれた青い仮面をつけたピエルパオロが苦笑して肩をすくめる。
少なくとも、髪の色はシルバーから黒に、それに瞳の色は特別にすみれ色から茶色に変えているから、ほとんどの参加者には私だと言うことをバレていないのだ。
知っているのは、ピエルパオロと、この会場を貸してくれたパメラ侯爵令嬢の二人だけ。
だって今日は、私のための、人間界で行われるっていう「仮面舞踏会」を模した遊びなのだから。私の気分転換のために開いている。それなのに、私がいると知れて気を遣われるのなんて嫌だった。
この会場にいるドレスアップした妖精たちは、皆顔見知りだ。
魔法で髪色を変化させていても、その瞳と声で、誰かはわかってしまう。
ピエルパオロが連れてきたこの男性以外は、だけど。
私が記憶している限り、ピエルパオロの連れの男性は、初めて見る相手だった。
だって、今まで、男性を見ても、こんな気持ちになったことがないから。
私の……。
また私がじっと見つめていた彼が、クスリと目を細める。
「私のことはテオと」
この会場では偽名を名乗ること、と決めてしまった取り決めを、今更ながら後悔する。
彼の本当の名前を呼びたいと、思ってしまったから。
でも……そんな気持ちは収めなければならないんだろう。
私は気持ちを逃すように小さく息を吐いて、にこりと微笑んだ。
「テオ様。初めまして」
礼をとれば、テオ様が私の手をそっと取る。その指先から、私にも彼の熱が伝わってくる。
「それでは、なんとお呼びすればいいのでしょうか、レディー?」
ドキリと私の心臓が鳴る。私を見つめるその瞳にも、私と同じ熱が浮かんでいるように感じてしまう。
「フィ……フィーと」
本当はきちんと名前で呼ばれたい。でも、今日の決まりは、私が決めた約束だ。私がその約束を破るわけにはいかない。でも、せめて愛称で呼んでもらいたいと、私はその名を告げた。
視界の端で、ピエルパオロが肩をすくめたのが見えたけど、無視だ。
「一曲よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
私がうなずくと、テオ様が私をエスコートしてフロアに歩き出す。
「フィー、もしかして、彼が番なのでは?」
すれ違いざまのピエルパオロの声を、私は聞かなかったふりをしてフロアに向かう。
……言われなくても、私の心は理解している。
彼は、ずっと探していた私の番だ。
でも、どうして今更、とも思う。
フロアに出て、テオ様に体をゆだねる。
テオ様の動きは優雅で、そして、私の動きを妨げない。誰かの踊りとは全く違う。流れるようなステップに、私は体を預けるだけでいい。私はすっかりその腕の中で、安心しきっている自分に気づく。
ドン。
唐突な衝撃に、私は少しだけ驚いただけで、しっかりと包まれたテオ様の体に、不安になる要素など何もなかった。
「失礼。あまりに無様なステップなので、ぶつかってしまったよ」
その声を聞くまでは。
その言葉に面白そうにクスクスと下品に笑う赤い仮面の女性は、コラソン = マネン男爵令嬢。
そして、コラソンに密着して黒い仮面から不躾な視線をテオ様に向けるのは、ジョエル = グエッラ公爵令息。
私の、婚約者だ。
その表現を理解したのは、今日が初めてだった。
シルバーの蝶を模した仮面から覗く、深い青が、私を射抜く。
ううん。私の、心を射抜く。
って言うか、えー?!
「フィオーレ様?」
心配そうな従兄のピエルパオロ = カサーレ侯爵令息の声に、私は我に返る。
そして、ピエルパオロを小さく睨む。
「名前は言わない約束よ?」
私に睨まれた青い仮面をつけたピエルパオロが苦笑して肩をすくめる。
少なくとも、髪の色はシルバーから黒に、それに瞳の色は特別にすみれ色から茶色に変えているから、ほとんどの参加者には私だと言うことをバレていないのだ。
知っているのは、ピエルパオロと、この会場を貸してくれたパメラ侯爵令嬢の二人だけ。
だって今日は、私のための、人間界で行われるっていう「仮面舞踏会」を模した遊びなのだから。私の気分転換のために開いている。それなのに、私がいると知れて気を遣われるのなんて嫌だった。
この会場にいるドレスアップした妖精たちは、皆顔見知りだ。
魔法で髪色を変化させていても、その瞳と声で、誰かはわかってしまう。
ピエルパオロが連れてきたこの男性以外は、だけど。
私が記憶している限り、ピエルパオロの連れの男性は、初めて見る相手だった。
だって、今まで、男性を見ても、こんな気持ちになったことがないから。
私の……。
また私がじっと見つめていた彼が、クスリと目を細める。
「私のことはテオと」
この会場では偽名を名乗ること、と決めてしまった取り決めを、今更ながら後悔する。
彼の本当の名前を呼びたいと、思ってしまったから。
でも……そんな気持ちは収めなければならないんだろう。
私は気持ちを逃すように小さく息を吐いて、にこりと微笑んだ。
「テオ様。初めまして」
礼をとれば、テオ様が私の手をそっと取る。その指先から、私にも彼の熱が伝わってくる。
「それでは、なんとお呼びすればいいのでしょうか、レディー?」
ドキリと私の心臓が鳴る。私を見つめるその瞳にも、私と同じ熱が浮かんでいるように感じてしまう。
「フィ……フィーと」
本当はきちんと名前で呼ばれたい。でも、今日の決まりは、私が決めた約束だ。私がその約束を破るわけにはいかない。でも、せめて愛称で呼んでもらいたいと、私はその名を告げた。
視界の端で、ピエルパオロが肩をすくめたのが見えたけど、無視だ。
「一曲よろしいですか?」
「ええ、もちろん」
私がうなずくと、テオ様が私をエスコートしてフロアに歩き出す。
「フィー、もしかして、彼が番なのでは?」
すれ違いざまのピエルパオロの声を、私は聞かなかったふりをしてフロアに向かう。
……言われなくても、私の心は理解している。
彼は、ずっと探していた私の番だ。
でも、どうして今更、とも思う。
フロアに出て、テオ様に体をゆだねる。
テオ様の動きは優雅で、そして、私の動きを妨げない。誰かの踊りとは全く違う。流れるようなステップに、私は体を預けるだけでいい。私はすっかりその腕の中で、安心しきっている自分に気づく。
ドン。
唐突な衝撃に、私は少しだけ驚いただけで、しっかりと包まれたテオ様の体に、不安になる要素など何もなかった。
「失礼。あまりに無様なステップなので、ぶつかってしまったよ」
その声を聞くまでは。
その言葉に面白そうにクスクスと下品に笑う赤い仮面の女性は、コラソン = マネン男爵令嬢。
そして、コラソンに密着して黒い仮面から不躾な視線をテオ様に向けるのは、ジョエル = グエッラ公爵令息。
私の、婚約者だ。
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