悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花

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番外編⑫

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「クリスティアーヌ、また、私を頼ってくれなかったね?」

 ベッドに腰をかけたレナルド様の言葉に、私は首を傾げる。

「何か……ありましたか?」

 今日は結婚式だった。
 ”また”が指す以前のことは、婚約式で令嬢たちに囲まれた時のことを指すのだと思うけれど、今日は特にレナルド様を頼らないといけないような場面には、思い至らなかった。
 つつがなく式は終わって、こうやって二人で寝室にいるのに?

「セッタ国の王女に絡まれていたんだろう?」

 私をいたわるように、レナルド様が私の手をそっと取る。
 
「ミーティア様が、私に? いいえ」

 だけど、指摘された内容に、私はつい微笑んでしまった。

「ほら、そうやって何でも自分で解決しようとしないでくれるかな?」

 ムッとするレナルド様に、私は眉を下げるしかできない。

「ですが、ミーティア様を側妃に置くなど、現実的ではありませんわ」

 セッタ国は小さな国だ。だけど、豊かな国であることは間違いなくて。
 そんな豊かな国の王女と、落ちぶれていく可能性のあった国の公爵家令嬢とでは、扱いが王女の方が上になる。
 ミーティア様がレナルド様の相手になるのであれば、側妃の立場に置くわけにはいかないだろう。

 私がその時のことを思い出していると、レナルド様が大きなため息をついた。

「その申し出は、はるか昔に断っている。相手にする必要はないんだ。私の気持ちは、ずっとクリスティアーヌにあったんだから」
 
 レナルド様が私の指先に唇を寄せた。
 レナルド様が結局婚約者を置かなかった理由を、初めて知った。
 頬が熱くなる。

「……それは、存じませんでした」
「……元婚約者が私との婚約解消したのも、私の気持ちがクリスティアーヌにあったからだと言ったら、カッコ悪いだろう? 言うつもりはなかったんだ」

 レナルド様の婚約解消は、私がこの国に留学するよりも前の話だ。
 ファビアン殿下の婚約者として交流することは、確かにあったけれど……。
 眉を下げるレナルド様に、私は慌てて首を振る。

「いいえ。レナルド様が諦めて下さらなかったおかげで……私は、こうやってレナルド様の隣にいられるのだから。嬉しいわ」 
「良かった」

 ホッと安堵の息をついたレナルド様が、私の頬に手を添える。
 近くなったレナルド様の顔を、じっと見つめる。

「私だって、レナルド様の隣にいられるのであれば、どんな困難も乗り越えてみせます。ミーティア様にも理解していただけるよう、言葉を尽くしましたわ」

 真剣なまなざしのレナルド様が、ふ、と吹き出す。
 その反応が、まるで私の気持ちを否定されたみたいで、ちょっと悲しくなる。

「信じて下さらないの?」
「ちがうよ、クリスティアーヌ。君の気持ちは疑ってない。ただ、もうミーティア嬢の話は終わったと思ってたんだよ」
「え?」

 チュッ、とついばむようなキスが、唇に落とされる。

「もうその話は終わりだ。ここから先は、私を頼って? いいね?」

 レナルド様の瞳に、熱がこもっている。
 ここから先が示すものに気づいて、私はそっと頷いた。

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みんなの感想(10件)

谷 亜里砂
2024.04.19 谷 亜里砂

思い通りにならなくていいです!絶対!

2024.04.19 三谷朱花

感想ありがとうございます。
思い通りには、なりません!

解除
ファル子
2024.02.04 ファル子

一気読みをさせていただきました。

🐸ファビアン殿下🐸
ノエリアsideを読んでいると不憫過ぎるのに笑いが😆
本編読んだ後のノエリアsideのノエリアが酷すぎて面白かったです。

2024.02.04 三谷朱花

感想ありがとうございます。
楽しんでいただけたようで何よりです!

最後までお付き合い下さってありがとうございました。

解除
太真
2024.02.03 太真

49.甘やかして公の場所に出す親が馬鹿‼️😡⚡。

2024.02.03 三谷朱花

感想ありがとうございます。
そうですね! としか言いようはなく。
楽しんでいただければ幸いです。

解除

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