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だから⑩

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 なぜ、私は王になるのに、騎士に捕らわれながら歩かねばならないのだ!
 ……いい。私は寛容な次期王だ。

 なぜ、ノエリアに会うのに、わざわざ広場に?
 どうして、王城の中ではないんだ?

 そして、この群衆は何だ?
 
 あ。
 もしかして、次期国王になる私とノエリアの婚約を祝うために集まってきたのか?!
 ああ。きっと間違いない。
 
 騒然としているのは、きっと私とノエリアが並び立っていないからだろう。
 そうだ。間違いない。

 騎士が私に縄と剣を渡してくる。
 縄はどこかに繋がれているらしく。ピンと張っていた。
 剣など久しぶりに持ったせいか、ズシリと重く感じた。
 だが、剣を振ることなど、簡単なことだ。

「合図を出したら、切ってください」

 なるほど、これか。
 縄は、太めの縄ではあるが、いたって普通の縄だ。
 こんな縄を切るのに、なぜ勇気と決断がいるのだ?

 群衆の声が急に大きくなる。
 その声の向かう方向に目を向けると、ノエリアが騎士に連れられて現れた。
 ノエリアは、これだけの群衆を目の前にして、少しも怯えていない。むしろ堂々と微笑んでいる。
 流石だ。
 次期王妃にふさわしい。
 だが、両手には縄が繋がれている。

 ……なるほど、これは演出か!
 私がこの縄を切って、ノエリアを解放するんだな!

 勇気だの何だの御託を並べて、私を試したのか!
 ワルテめ。
 案外お茶目なことをする奴だったんだな。
 
「ノエリア!」

 私が声を掛けると、ノエリアの視線が私に向いた。私は懸命に手を振る。

「ノエリア! 今から助けるからな!」

 広場が、一層盛り上がる。
 群衆たちも待ち望んでいるらしい。
 
 ノエリアが群衆に微笑み掛けると、更に声が溢れかえった。
 皆も、待ち望んでいるらしい。

 私は剣を振り上げた。

「ダメ! ファビアン様、切っては」

 ノエリアの声が届く前に、私は剣を振り切っていた。
 ざくり、と縄が私の手から離れる。

 次の瞬間、ノエリアの上から大きな刃が落ちてくるのが見えた。


 * 


 ハッと目を覚ます。
 目が覚めて、薄暗いことにホッとする。
 夢、か。

 はー、と大きな息をつくと、汗に濡れた体をぶるりと震わせる。

 嫌な夢だ。
 ノエリアの首が跳ねられるなんて。
 そんなこと……。

 自分の両手が目に入る。
 
 ズシリとした剣の重みと、軽くなった縄を手放した時の感触が甦る。

 あれは、夢……ではなかったのか。
 
 いや、きっと夢だ。
 夢だと、誰か言ってくれ!

 だけど、あの感触は生々しく残っている。
 そして、転がったノエリアの首も、歓声をあげる群衆の声も、忘れてはいない。

 あれは、夢じゃないのか?

 もう何回、この問いを繰り返している?

 私は、次期国王になるはずだったんだ。
 どこで道を間違えたんだ?
 私には、いや、私とノエリアには、国王と王妃としての輝かしい未来があったはずなんだ。

 だから!

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