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だから① ※ファビアン編

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 ファビアン=ゼビア。
 それが、私の名前だ。
 ゼビア王国の、唯一の王位継承権のある人間。
 それが、私だ。

 私の未来は、最初から決められていた。
 他の兄弟もいないし、私が第一王子だからだ。
 たとえ、私が勉強をしてもしなくても、私がゼビア王になるのは、決まっている。

 それに、私は次期王として、生まれ落ちたときから既に完成している。
 だから、勉強など必要としない。
 誰も私に勉強を強要などしない。それは、すでに必要な教養を身に着けていると、皆が思っているからだろう?
 だから、私がこれ以上勉強などしなくとも、何も変わることはない。

 私は恵まれている。
 国王と王妃として忙しくしながらも、私に愛を注いでくれる両親がいる。
 両親がいなくとも、誰彼となく、私を大切に扱ってくれる。
 それに、国は平和で、何も憂いはない。
 着るものにも、食べるものにも、遊ぶものにも事欠くことはない。
 
 それはとても幸せで、その幸せはきっとこれからも続いていくのだと思っていた。
 結婚するのも、父上と母上と同じで、愛のある結婚をするのだと、思っていた。
 それ以外、考えられなかった。

 父上と母上は、幼いころからの婚約者ではあったが、お互いにお互いを慈しみあっていた。
 だから、そんな未来が、自分にもあると信じて疑っていなかった。
 
 だけど、私の目の前に現れた婚約者は、私の予想を裏切る相手だった。
 クリスティアーヌ = ドゥメルグ。
 見た瞬間は、その美しさに目を奪われた。
 それは、認める。

 確かに、公爵令嬢で、私と身分的なつり合いは取れているし、他の子供よりも大人びた態度は、大人には気に入られるのだろう。
 だが、私と同じ年齢のはずなのに、その、どこか達観したような態度が、まず気に入らなかった。

 それに、幼い子供らしく一緒に遊ぼうと誘えば、困ったように笑って、私に勉強の時間だと告げることも、嫌だった。
 私には勉強など必要ないと言っても、クリスティアーヌは、何度も私に諭してくるのだ。
 大きくなってきてからは、私のやろうとすることにまで口を出してくるようになった。
 この私に説教するなど、誰もしたことはないのに。
 きっと、クリスティアーヌは、私の気を惹きたいに違いない。だが、その方法がいちいち気に障る。

 口が達者なのも、また鬱陶しかった。
 私が知らないことを、沢山話すのも、つまらなくて嫌だった。
 
 気が付けば、クリスティアーヌのすべてが、嫌になっていた。
 少なくとも、クリスティアーヌの態度が、私をいつくしむような態度ではないことは理解している。
 お互い様だ。

 そんな時、母上が亡くなった。本来なら、次期王妃になるクリスティアーヌには、代々王妃に渡される指輪を渡すのだ。だが、私はクリスティアーヌには渡したくなかった。
 母上が亡くなったから、特に愛情のない相手に、大切な指輪を渡す気にはなれなかった。
 私はどうやってこの婚約を破棄しようかと、ずっと考えていた。
 そして、ノエリア = ガンス男爵令嬢に出会って、愛を知ったその日から、私は決意した。
 しかも、クリスティアーヌは、私とも顔を合わせることもないのに、ノエリアには執拗に意地悪をしているという。
 だから、私はクリスティアーヌに鉄槌を下すと決めたのだ。

 私の愛するノエリアを泣かせる人間など、人間の風上にも置けない。
 だから、一番傷つく方法で、婚約破棄をしてやるのだ。
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