悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花

文字の大きさ
上 下
31 / 50

ならば⑨

しおりを挟む
 結局、心咲は一日中男子たちの注目の的だった。もう放課後なのに、まだ話しかけられている。私は少しだけ羨ましいと思ってしまっていた。
「おまたせ、帰ろっか」
 心咲は男子たちを振りきったようだ。後ろの方で、未練がましく睨みつけてくる視線が突き刺さる。
「......うん」
 私はそう言うと、歩き始める。心咲が悪くない事は分かってはいるけれど、嫉妬していないといえば嘘になる。

「それで、卓也くんには告白するの?」
 帰り道、心咲は突然そう聞いてきた。
 私は慌てて周りを見る。うちの生徒がいたら大変だ。幸い、制服姿の学生は見当たらなかった。
「告白なんてしないよ........」
 口許を押さえながらニヤニヤしている心咲を睨みつける。結構からかわれるんだよね。私。
「......心咲はどうなの? 好きな人とかいないの?」
 私は、仕返とばかりに聞いてみた。
「私? 私は好きな人いるよ?」
 心咲は当たり前のような顔をして、衝撃の真実を告げてきた。私は今まで、そんな人がいる事なんて全然知らなかった。ポカンと口を開け、心咲を凝視する。
「......希美、すごいバカっぽいよ」
 私は慌てて開けていた口を閉じる。しかし、相手は誰なんだろう。気になる。
「誰? 誰なの?」
 興味津々で聞いてみたけど、心咲は笑うだけで教えてはくれない。こうなった心咲は絶対口を割らないのだ。
 私は、もしかしてと思い、恐る恐る聞いてみた。
「......卓也の事好きなの?」
 私がそう言った瞬間、心咲が吹き出した。
「あははは! 違う違う! 卓也くんじゃないよ」
 そう聞いた私はほっと胸を撫で下ろした。良かった......心咲相手じゃ絶対勝てない......
「そんなに好きなのに、何で告白しないの?」
 急に心咲は真剣な表情で聞いてくる。
「......だって、卓也って私の事女の子として見てないもん」
 自分で言ってて、悲しくなってくる。思わずうつ向いてしまった。
「でも、好きって言ったら変わるかもよ?」
 心咲は優しく、諭すように覗き込んできた。
「......そうかなぁ...検討してみる」
 私はそう言うと、ほんの少しだけ溜まっていた涙を袖で払った。

 次の日の放課後、帰ろうとしていた私を卓也が呼び止めてきた。
「希美! 今日一緒に帰らね?」
 周りにいた何人かの男子がヒューヒューと冷やかしてきた。卓也は、
「そんなんじゃねえよ!」
 と追い払う。遠くから、心咲がニヤニヤとこちらを見ていた。私は一緒に帰る事を考えると、自然と顔が赤くなっていくのを感じる。
「もう行くぞ!」
 卓也は突然私の手を掴み、引っ張るように下駄箱へ連れていかれた。

「しかし、希美と帰るのも久しぶりだな」
 卓也は嬉しそうに笑ってくる。もしかして、私にもチャンスがあるんじゃないか。そう思えるほどの眩しい笑顔だった。
「うん。そうだね」
 私は慌てて卓也から目をそらした。今顔を見られたら、死んでしまう。
「うん? どうしたんだ?」
 そんな私の思いなど知らない卓也は、肩に手を置き覗き込もうとしてくる。
「何でもないから!」
 私は顔を見られないように、走り始めた。これで万が一見られても、赤くなっているのは走ったからだと誤魔化せる。
「待ってって!」
 女の私が卓也の足に勝てるはずもなく、敢えなく捕まってしまった。
「......ここで休んでいこうぜ」
 卓也が指差した方向には、小さい頃よく一緒に遊んでいた公園があった。

 私と卓也は公園のブランコに無言で座る。小さい頃は余裕のあったブランコも、今は結構キツキツだ。横を見ると、何を考えているのか、真剣な卓也の表情に見とれてしまう。
 .....もし、今告白したら、どうなるのかな。私は、心咲の言っていた言葉を思い出す。
『でも、好きって言ったら変わるかもよ?』
 ......そうだ。駄目で元々、言ってみるだけ。駄目だったらドッキリとか、嘘とかで誤魔化せばいい。
 私が決心し、告白ようとした一瞬前、卓也が思い詰めた顔で話しかけてきた。
「......あのさ、心咲って付き合ってる奴とかいるのかな」
 卓也は真剣な表情で私を見つめてくる。
「......なんで?」
 私は薄々分かっていながらも、聞き返した。違っていて欲しい。何かの間違いであって欲しい。そう期待した。
「俺さ、小学生の時からずっと好きなんだよね。高校生になって、心咲、ますます綺麗になったじゃん? 早く告白しときたくてさ。協力してくんね?」
 卓也は私を拝むように手のひらを合わせている。
 まさか卓也が心咲の事好きだったなんて、全然知らなかった。そっか......
 私は、卓也が心咲の事を『好き』とか『綺麗』とか言う度に、心が壊れそうに痛む。そうだよね。私じゃ、やっぱり駄目だよね......
「......卓也はさ、私が協力したら嬉しい?」
 泣かないように必死にこらえ、聞いてみる。少し声が震えたかもしれない。
「うん! お願い!」
 卓也は、本当に心咲の事が好きなんだろう。今まで見たこともないぐらいに必死にお願いしてくる。
「......分かった。いいよ」
 私は笑顔を作り、卓也を見つめる。その顔は、今まで見た事も無いぐらいに輝いていた。でも、その笑顔を引き出したのは私じゃなくて、心咲なんだ......
「ありがとう! 俺頑張るから!」
 卓也はそう言うと、ブランコから飛び降り、こちらを向いた。
「あっ! 今日バイトの面接だった! ごめん、俺行くね」
 卓也は慌てて時計を見ると走り始める。しかし突然、、ピタッと止まり顔だけこちらを向いた。
「希美が彼氏作るときは手伝ってやるからな!」
 そう言うと、走って公園を出ていった。
「私は卓也と恋人になりたかったんだけどな......」
 誰もいない公園で一人で呟いてみた。我慢していた涙がこらえきれず、あふれでてきた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

手順を踏んだ愛ならばよろしいと存じます

Ruhuna
恋愛
フェリシアナ・レデスマ侯爵令嬢は10年と言う長い月日を王太子妃教育に注ぎ込んだ 婚約者であり王太子のロレンシオ・カルニセルとの仲は良くも悪くもなかったであろう 政略的な婚約を結んでいた2人の仲に暗雲が立ち込めたのは1人の女性の存在 巷で流行している身分差のある真実の恋の物語 フェリシアナは王太子の愚行があるのでは?と覚悟したがーーーー

この国では魔力を譲渡できる

ととせ
恋愛
「シエラお姉様、わたしに魔力をくださいな」  無邪気な笑顔でそうおねだりするのは、腹違いの妹シャーリだ。  五歳で母を亡くしたシエラ・グラッド公爵令嬢は、義理の妹であるシャーリにねだられ魔力を譲渡してしまう。魔力を失ったシエラは周囲から「シエラの方が庶子では?」と疑いの目を向けられ、学園だけでなく社交会からも遠ざけられていた。婚約者のロルフ第二王子からも蔑まれる日々だが、公爵令嬢らしく堂々と生きていた。

【完結】婚約破棄される未来見えてるので最初から婚約しないルートを選びます

21時完結
恋愛
レイリーナ・フォン・アーデルバルトは、美しく品格高い公爵令嬢。しかし、彼女はこの世界が乙女ゲームの世界であり、自分がその悪役令嬢であることを知っている。ある日、夢で見た記憶が現実となり、レイリーナとしての人生が始まる。彼女の使命は、悲惨な結末を避けて幸せを掴むこと。 エドウィン王子との婚約を避けるため、レイリーナは彼との接触を避けようとするが、彼の深い愛情に次第に心を開いていく。エドウィン王子から婚約を申し込まれるも、レイリーナは即答を避け、未来を築くために時間を求める。 悪役令嬢としての運命を変えるため、レイリーナはエドウィンとの関係を慎重に築きながら、新しい道を模索する。運命を超えて真実の愛を掴むため、彼女は一人の女性として成長し、幸せな未来を目指して歩み続ける。

言いたいことはそれだけですか。では始めましょう

井藤 美樹
恋愛
常々、社交を苦手としていましたが、今回ばかりは仕方なく出席しておりましたの。婚約者と一緒にね。 その席で、突然始まった婚約破棄という名の茶番劇。 頭がお花畑の方々の発言が続きます。 すると、なぜが、私の名前が…… もちろん、火の粉はその場で消しましたよ。 ついでに、独立宣言もしちゃいました。 主人公、めちゃくちゃ口悪いです。 成り立てホヤホヤのミネリア王女殿下の溺愛&奮闘記。ちょっとだけ、冒険譚もあります。

「平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる」

ゆる
恋愛
平民との恋愛を選んだ王子、後悔するが遅すぎる 婚約者を平民との恋のために捨てた王子が見た、輝く未来。 それは、自分を裏切ったはずの侯爵令嬢の背中だった――。 グランシェル侯爵令嬢マイラは、次期国王の弟であるラウル王子の婚約者。 将来を約束された華やかな日々が待っている――はずだった。 しかしある日、ラウルは「愛する平民の女性」と結婚するため、婚約破棄を一方的に宣言する。 婚約破棄の衝撃、社交界での嘲笑、周囲からの冷たい視線……。 一時は心が折れそうになったマイラだが、父である侯爵や信頼できる仲間たちとともに、自らの人生を切り拓いていく決意をする。 一方、ラウルは平民女性リリアとの恋を選ぶものの、周囲からの反発や王家からの追放に直面。 「息苦しい」と捨てた婚約者が、王都で輝かしい成功を収めていく様子を知り、彼が抱えるのは後悔と挫折だった。

義妹のせいで、婚約した相手に会う前にすっかり嫌われて婚約が白紙になったのになぜか私のことを探し回っていたようです

珠宮さくら
恋愛
サヴァスティンカ・メテリアは、ルーニア国の伯爵家に生まれた。母を亡くし、父は何を思ったのか再婚した。その再婚相手の連れ子は、義母と一緒で酷かった。いや、義母よりうんと酷かったかも知れない。 そんな義母と義妹によって、せっかく伯爵家に婿入りしてくれることになった子息に会う前にサヴァスティンカは嫌われることになり、婚約も白紙になってしまうのだが、義妹はその子息の兄と婚約することになったようで、義母と一緒になって大喜びしていた 。

忘れられた薔薇が咲くとき

ゆる
恋愛
貴族として華やかな未来を約束されていた伯爵令嬢アルタリア。しかし、突然の婚約破棄と追放により、その人生は一変する。全てを失い、辺境の町で庶民として生きることを余儀なくされた彼女は、過去の屈辱と向き合いながらも、懸命に新たな生活を築いていく。 だが、平穏は長く続かない。かつて彼女を追放した第二王子や聖女が町を訪れ、過去の因縁が再び彼女を取り巻く。利用されるだけの存在から、自らの意志で運命を切り開こうとするアルタリア。彼女が選ぶ未来とは――。 これは、追放された元伯爵令嬢が自由と幸せを掴むまでの物語。

悪役令嬢になんかなりません

コイケ
恋愛
これはもはやお約束。転生先は悪役令嬢。 最終闇落ちの死亡確定なんてまっぴらごめん。 なら、私は私の道を行く。

処理中です...