悪役令嬢に仕立て上げたいのならば、悪役令嬢になってあげましょう。ただし。

三谷朱花

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ならば⑤

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 初めて見るクリスティアーヌ様は、石のちりばめられた深紅のドレスを身にまとっていて、とても美しく輝いているように見えた。私が着ているとても高価な金糸のドレスが霞みそうだわ。
 流石、公爵家令嬢。
 絵姿しか見たことはなかったけれど、本当に美しい方。

 その美しく着飾ったその姿は、本来ならば将来の皇太子妃として、羨望のまなざしを向けられるはずだった。

 でも、クリスティアーヌ様に学院生たちが向けるのは、蔑むような視線だった。
 私がそうしたとは言え、みじめだし、かわいそうだ。
 クリスティアーヌ様の近くにいた友人たちも離れてしまって、クリスティアーヌ様はぽつりと壁の花になっている。

 カリマ様は助け船を出したいみたいだけど、この会場の空気にのまれて、身動きが取れずにいるみたい。

「ノエリア様をいじめるなんて、最低だわ」
「ファビアン殿下は、とても怒っているって話よ」
「もうクリスティアーヌ様もきっとおしまいね」

 ひそひそとした声は、クリスティアーヌ様を非難する声ばかり。
 私はファビアン殿下と踊りながら、この先の展開を思って、微笑む。

 ファビアン殿下は、ここでクリスティアーヌ様との婚約破棄を行う。
 そして、私は晴れて、皇太子の婚約者の座を得られるのよ。

 私は心から楽しくて、ファビアン殿下に笑いかける。

「ノエリア。クリスティアーヌ嬢のところに行って、話をつけよう」

 ファビアン殿下がそう言うと、踊りを中断してクリスティアーヌ様に向かっていく。
 とうとう、この日が来たのね。

「クリスティアーヌ嬢、話がある」

 ファビアン殿下の声に、クリスティアーヌ様が礼を取った。

「ファビアン殿下、一体どんなお話でしょうか?」

 体を密着させているファビアン殿下と私の姿に、クリスティアーヌ様が微笑む。あら、まだ余裕ね。
 ファビアン殿下は、ふん、と忌々しそうに鼻を鳴らす。

「クリスティアーヌ = ドゥメルグ公爵令嬢に告ぐ。ノエリア = ガンス男爵令嬢を蔑みいじめ抜くなど、皇太子妃になる者としての品格が欠落している! よって、私、ファビアン = ゼビナとの婚約は破棄する」

 ファビアン殿下の宣言に、クリスティアーヌ様が唖然となる。

「婚約を、破棄ですか?」

 クリスティアーヌ様が、瞬きを繰り返した。きっと、驚き過ぎたんだろう。
 だけど、ファビアン殿下は、クリスティアーヌ様の反応に怒りの表情を浮かべる。

「しらじらしい! 証拠も挙がっているのだぞ! ノエリアは確かに庶子かもしれぬ。それに、男爵家に引き取られたのが1年前だったせいで、貴族としての作法も十分に身についていないかもしれない。だが、それがいじめる理由などになりはせぬ! それに、私が好意で貴族の作法や勉強を教えているだけであるのに、変に勘ぐってノエリアが私に色目を使っているなどと言いがかりをつけいじめるなど、貴族の風上にも置けぬ!」

 息もつかずに一息で言い切るファビアン殿下の隣で、私はクリスティアーヌ様をおびえた目で見た。
 言い切ったファビアン殿下は、おびえた表情の私を見て、またクリスティアーヌ様を睨みつけた。

「見ろ。ノエリアはクリスティアーヌ嬢の視線だけでおびえているではないか!」
「いえ、殿下。私はそんなこと……」
 
 消え入るような私の声と、小さくプルプル振られる頭に、ファビアン殿下は愛おしそうに手を添えた。

「安心してくれ。私がついているから。私が選ぶのはノエリア、君だよ」

 ファビアン殿下の言葉に、私はうっそりと笑う。
 それでも表情を変えないクリスティアーヌ様は、相当肝が据わっているんだわ。
 でも、クリスティアーヌ様の拳は、ギュッと握りしめられて、真っ白になっていた。

「ファビアン殿下、私、ノエリア様にお会いするのが初めてですの。ご挨拶してもよろしいかしら?」

 クリスティアーヌ様がにっこりと私たちを見る。
 ファビアン殿下の顔は更に真っ赤になった。私は、泣き出してみせた。

 ごめんなさい、カリマ様。
 ここでは、クリスティアーヌ様に、悪役令嬢になってもらわないと困るのよ。
 私のために。 
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