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ならば③
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「今日も、クリスティアーヌ嬢は姿を現さないな」
教室の中を見たファビアン殿下が、呆れたように肩をすくめる。
「私が罪を追及すると知って、逃げまわるなど、卑怯者のやることだ。悪かった、ノエリア嬢。昨日も私の目の届かぬところで、またクリスティアーヌ嬢と対峙させてしまったな」
私はファビアン殿下の制服の裾をつかみながら、小さく首を横に振る。
だって、そんな事実はないもの。
私はまだ、クリスティアーヌ様と会ったことさえないんだから。
「いいえ、大丈夫ですわ。私にはファビアン殿下が味方になって下さるとわかっているから、クリスティアーヌ様の言葉に耐えられるのです」
「……ノエリア嬢……なんていじらしい……。クリスティアーヌ嬢も、これくらい殊勝な態度があれば……可愛げがあるのに」
「クリスティアーヌ様には、素晴らしい気品が備わっていますもの……」
私がまた首を振ると、ファビアン殿下は私の目元をぬぐう。
「本当に、ノエリア嬢はいじらしい。……行こう」
……本当に、ファビアン殿下は御しやすい。授業を聞かなくていいのかしら?
まあいいわ。この1年で私に夢中になってもらわなきゃいけないんだから。
もっともっと、私に夢中になってもらわなくっちゃ。
◇
「ファビアン殿下……このようなところで二人きりでいると、また言われてしまいますわ」
私は中庭のベンチに並んで座りながら、困ったように告げる。当然、私がかわいく見える角度で。
「ノエリア嬢、クリスティアーヌ嬢の言うことなど、気にするな。私が守ると言っただろう?」
ファビアン殿下が、私の髪を愛おしそうになでる。
「……そんなことを言われると……気持ちを抑えられなくなってしまいますわ……」
私が目を伏せると、ファビアン殿下の手が私の頬に触れた。
私はそっとファビアン殿下を見上げた。
「ノエリア嬢、それは、どういう意味かな?」
真剣なファビアン殿下の瞳に、私は自分がファビアン殿下の気持ちをつかんでいると確信した。
「申し訳ございません。聞かなかったことにしてくださいませ」
私は首を横に振る。
「なぜだ?」
「……ファビアン殿下が、よくご存じではないですか……学院を卒業すれば、ファビアン殿下はクリスティアーヌ様と結婚されるのです」
そう言いながら、私は涙をこぼした。
「……ノエリアの件で、クリスティアーヌ嬢のことは、ほとほと嫌気がさしているんだ。だから」
「ですが、ファビアン殿下は、公爵家のクリスティアーヌ様との結婚が望まれております。私の気持ちなど、捨てておいてくださいませ」
「それはできぬ!」
ファビアン殿下が、私をギュッと抱きしめてきた。
私は慌てたふりをして、ファビアン殿下を押し返す。
「ダメです! 王になる者として、国に望まれる結婚をしていただかなければ!」
「人として最低な人間を王妃に据えるつもりはない! 王妃にするのならば、ノエリア嬢のような健気な人間を選ぶ!」
ファビアン殿下の力が、更に強まった。
私は心の中で笑いながら、それでも必死に首を振ってみた。
「それは、国として望まれない結婚になってしまいますわ!」
「いや、私が認めさせよう。だから、ノエリア嬢……いや、ノエリア。私の妃となってくれぬか?」
私は涙でぬれた目を、ファビアン殿下に向ける。
ファビアン殿下の顔が、私に近づいてきた。
私はそっと目を閉じた。
触れた唇は、何だか生ぬるくて気持ち悪かった。
だけど、これは勝利の証だから。
私は心の中の気持ちに目をつぶった。
教室の中を見たファビアン殿下が、呆れたように肩をすくめる。
「私が罪を追及すると知って、逃げまわるなど、卑怯者のやることだ。悪かった、ノエリア嬢。昨日も私の目の届かぬところで、またクリスティアーヌ嬢と対峙させてしまったな」
私はファビアン殿下の制服の裾をつかみながら、小さく首を横に振る。
だって、そんな事実はないもの。
私はまだ、クリスティアーヌ様と会ったことさえないんだから。
「いいえ、大丈夫ですわ。私にはファビアン殿下が味方になって下さるとわかっているから、クリスティアーヌ様の言葉に耐えられるのです」
「……ノエリア嬢……なんていじらしい……。クリスティアーヌ嬢も、これくらい殊勝な態度があれば……可愛げがあるのに」
「クリスティアーヌ様には、素晴らしい気品が備わっていますもの……」
私がまた首を振ると、ファビアン殿下は私の目元をぬぐう。
「本当に、ノエリア嬢はいじらしい。……行こう」
……本当に、ファビアン殿下は御しやすい。授業を聞かなくていいのかしら?
まあいいわ。この1年で私に夢中になってもらわなきゃいけないんだから。
もっともっと、私に夢中になってもらわなくっちゃ。
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「ノエリア嬢、クリスティアーヌ嬢の言うことなど、気にするな。私が守ると言っただろう?」
ファビアン殿下が、私の髪を愛おしそうになでる。
「……そんなことを言われると……気持ちを抑えられなくなってしまいますわ……」
私が目を伏せると、ファビアン殿下の手が私の頬に触れた。
私はそっとファビアン殿下を見上げた。
「ノエリア嬢、それは、どういう意味かな?」
真剣なファビアン殿下の瞳に、私は自分がファビアン殿下の気持ちをつかんでいると確信した。
「申し訳ございません。聞かなかったことにしてくださいませ」
私は首を横に振る。
「なぜだ?」
「……ファビアン殿下が、よくご存じではないですか……学院を卒業すれば、ファビアン殿下はクリスティアーヌ様と結婚されるのです」
そう言いながら、私は涙をこぼした。
「……ノエリアの件で、クリスティアーヌ嬢のことは、ほとほと嫌気がさしているんだ。だから」
「ですが、ファビアン殿下は、公爵家のクリスティアーヌ様との結婚が望まれております。私の気持ちなど、捨てておいてくださいませ」
「それはできぬ!」
ファビアン殿下が、私をギュッと抱きしめてきた。
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「ダメです! 王になる者として、国に望まれる結婚をしていただかなければ!」
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ファビアン殿下の顔が、私に近づいてきた。
私はそっと目を閉じた。
触れた唇は、何だか生ぬるくて気持ち悪かった。
だけど、これは勝利の証だから。
私は心の中の気持ちに目をつぶった。
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