25 / 50
ならば③
しおりを挟む
「今日も、クリスティアーヌ嬢は姿を現さないな」
教室の中を見たファビアン殿下が、呆れたように肩をすくめる。
「私が罪を追及すると知って、逃げまわるなど、卑怯者のやることだ。悪かった、ノエリア嬢。昨日も私の目の届かぬところで、またクリスティアーヌ嬢と対峙させてしまったな」
私はファビアン殿下の制服の裾をつかみながら、小さく首を横に振る。
だって、そんな事実はないもの。
私はまだ、クリスティアーヌ様と会ったことさえないんだから。
「いいえ、大丈夫ですわ。私にはファビアン殿下が味方になって下さるとわかっているから、クリスティアーヌ様の言葉に耐えられるのです」
「……ノエリア嬢……なんていじらしい……。クリスティアーヌ嬢も、これくらい殊勝な態度があれば……可愛げがあるのに」
「クリスティアーヌ様には、素晴らしい気品が備わっていますもの……」
私がまた首を振ると、ファビアン殿下は私の目元をぬぐう。
「本当に、ノエリア嬢はいじらしい。……行こう」
……本当に、ファビアン殿下は御しやすい。授業を聞かなくていいのかしら?
まあいいわ。この1年で私に夢中になってもらわなきゃいけないんだから。
もっともっと、私に夢中になってもらわなくっちゃ。
◇
「ファビアン殿下……このようなところで二人きりでいると、また言われてしまいますわ」
私は中庭のベンチに並んで座りながら、困ったように告げる。当然、私がかわいく見える角度で。
「ノエリア嬢、クリスティアーヌ嬢の言うことなど、気にするな。私が守ると言っただろう?」
ファビアン殿下が、私の髪を愛おしそうになでる。
「……そんなことを言われると……気持ちを抑えられなくなってしまいますわ……」
私が目を伏せると、ファビアン殿下の手が私の頬に触れた。
私はそっとファビアン殿下を見上げた。
「ノエリア嬢、それは、どういう意味かな?」
真剣なファビアン殿下の瞳に、私は自分がファビアン殿下の気持ちをつかんでいると確信した。
「申し訳ございません。聞かなかったことにしてくださいませ」
私は首を横に振る。
「なぜだ?」
「……ファビアン殿下が、よくご存じではないですか……学院を卒業すれば、ファビアン殿下はクリスティアーヌ様と結婚されるのです」
そう言いながら、私は涙をこぼした。
「……ノエリアの件で、クリスティアーヌ嬢のことは、ほとほと嫌気がさしているんだ。だから」
「ですが、ファビアン殿下は、公爵家のクリスティアーヌ様との結婚が望まれております。私の気持ちなど、捨てておいてくださいませ」
「それはできぬ!」
ファビアン殿下が、私をギュッと抱きしめてきた。
私は慌てたふりをして、ファビアン殿下を押し返す。
「ダメです! 王になる者として、国に望まれる結婚をしていただかなければ!」
「人として最低な人間を王妃に据えるつもりはない! 王妃にするのならば、ノエリア嬢のような健気な人間を選ぶ!」
ファビアン殿下の力が、更に強まった。
私は心の中で笑いながら、それでも必死に首を振ってみた。
「それは、国として望まれない結婚になってしまいますわ!」
「いや、私が認めさせよう。だから、ノエリア嬢……いや、ノエリア。私の妃となってくれぬか?」
私は涙でぬれた目を、ファビアン殿下に向ける。
ファビアン殿下の顔が、私に近づいてきた。
私はそっと目を閉じた。
触れた唇は、何だか生ぬるくて気持ち悪かった。
だけど、これは勝利の証だから。
私は心の中の気持ちに目をつぶった。
教室の中を見たファビアン殿下が、呆れたように肩をすくめる。
「私が罪を追及すると知って、逃げまわるなど、卑怯者のやることだ。悪かった、ノエリア嬢。昨日も私の目の届かぬところで、またクリスティアーヌ嬢と対峙させてしまったな」
私はファビアン殿下の制服の裾をつかみながら、小さく首を横に振る。
だって、そんな事実はないもの。
私はまだ、クリスティアーヌ様と会ったことさえないんだから。
「いいえ、大丈夫ですわ。私にはファビアン殿下が味方になって下さるとわかっているから、クリスティアーヌ様の言葉に耐えられるのです」
「……ノエリア嬢……なんていじらしい……。クリスティアーヌ嬢も、これくらい殊勝な態度があれば……可愛げがあるのに」
「クリスティアーヌ様には、素晴らしい気品が備わっていますもの……」
私がまた首を振ると、ファビアン殿下は私の目元をぬぐう。
「本当に、ノエリア嬢はいじらしい。……行こう」
……本当に、ファビアン殿下は御しやすい。授業を聞かなくていいのかしら?
まあいいわ。この1年で私に夢中になってもらわなきゃいけないんだから。
もっともっと、私に夢中になってもらわなくっちゃ。
◇
「ファビアン殿下……このようなところで二人きりでいると、また言われてしまいますわ」
私は中庭のベンチに並んで座りながら、困ったように告げる。当然、私がかわいく見える角度で。
「ノエリア嬢、クリスティアーヌ嬢の言うことなど、気にするな。私が守ると言っただろう?」
ファビアン殿下が、私の髪を愛おしそうになでる。
「……そんなことを言われると……気持ちを抑えられなくなってしまいますわ……」
私が目を伏せると、ファビアン殿下の手が私の頬に触れた。
私はそっとファビアン殿下を見上げた。
「ノエリア嬢、それは、どういう意味かな?」
真剣なファビアン殿下の瞳に、私は自分がファビアン殿下の気持ちをつかんでいると確信した。
「申し訳ございません。聞かなかったことにしてくださいませ」
私は首を横に振る。
「なぜだ?」
「……ファビアン殿下が、よくご存じではないですか……学院を卒業すれば、ファビアン殿下はクリスティアーヌ様と結婚されるのです」
そう言いながら、私は涙をこぼした。
「……ノエリアの件で、クリスティアーヌ嬢のことは、ほとほと嫌気がさしているんだ。だから」
「ですが、ファビアン殿下は、公爵家のクリスティアーヌ様との結婚が望まれております。私の気持ちなど、捨てておいてくださいませ」
「それはできぬ!」
ファビアン殿下が、私をギュッと抱きしめてきた。
私は慌てたふりをして、ファビアン殿下を押し返す。
「ダメです! 王になる者として、国に望まれる結婚をしていただかなければ!」
「人として最低な人間を王妃に据えるつもりはない! 王妃にするのならば、ノエリア嬢のような健気な人間を選ぶ!」
ファビアン殿下の力が、更に強まった。
私は心の中で笑いながら、それでも必死に首を振ってみた。
「それは、国として望まれない結婚になってしまいますわ!」
「いや、私が認めさせよう。だから、ノエリア嬢……いや、ノエリア。私の妃となってくれぬか?」
私は涙でぬれた目を、ファビアン殿下に向ける。
ファビアン殿下の顔が、私に近づいてきた。
私はそっと目を閉じた。
触れた唇は、何だか生ぬるくて気持ち悪かった。
だけど、これは勝利の証だから。
私は心の中の気持ちに目をつぶった。
26
お気に入りに追加
1,227
あなたにおすすめの小説
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?
築地シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。
……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。
ほらやっぱり、結局貴方は彼女を好きになるんでしょう?
望月 或
恋愛
ベラトリクス侯爵家のセイフィーラと、ライオロック王国の第一王子であるユークリットは婚約者同士だ。二人は周りが羨むほどの相思相愛な仲で、通っている学園で日々仲睦まじく過ごしていた。
ある日、セイフィーラは落馬をし、その衝撃で《前世》の記憶を取り戻す。ここはゲームの中の世界で、自分は“悪役令嬢”だということを。
転入生のヒロインにユークリットが一目惚れをしてしまい、セイフィーラは二人の仲に嫉妬してヒロインを虐め、最後は『婚約破棄』をされ修道院に送られる運命であることを――
そのことをユークリットに告げると、「絶対にその彼女に目移りなんてしない。俺がこの世で愛しているのは君だけなんだ」と真剣に言ってくれたのだが……。
その日の朝礼後、ゲームの展開通り、ヒロインのリルカが転入してくる。
――そして、セイフィーラは見てしまった。
目を見開き、頬を紅潮させながらリルカを見つめているユークリットの顔を――
※作者独自の世界設定です。ゆるめなので、突っ込みは心の中でお手柔らかに願います……。
※たまに第三者視点が入ります。(タイトルに記載)
【完結】本当の悪役令嬢とは
仲村 嘉高
恋愛
転生者である『ヒロイン』は知らなかった。
甘やかされて育った第二王子は気付かなかった。
『ヒロイン』である男爵令嬢のとりまきで、第二王子の側近でもある騎士団長子息も、魔法師協会会長の孫も、大商会の跡取りも、伯爵令息も
公爵家の本気というものを。
※HOT最高1位!ありがとうございます!
父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
旦那様、離婚しましょう
榎夜
恋愛
私と旦那は、いわゆる『白い結婚』というやつだ。
手を繋いだどころか、夜を共にしたこともありません。
ですが、とある時に浮気相手が懐妊した、との報告がありました。
なので邪魔者は消えさせてもらいますね
*『旦那様、離婚しましょう~私は冒険者になるのでお構いなく!~』と登場人物は同じ
本当はこんな感じにしたかったのに主が詰め込みすぎて......
悪役令嬢がキレる時
リオール
恋愛
この世に悪がはびこるとき
ざまぁしてみせましょ
悪役令嬢の名にかけて!
========
※主人公(ヒロイン)は口が悪いです。
あらかじめご承知おき下さい
突発で書きました。
4話完結です。
【完結】悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?
冬月光輝
恋愛
私ことアレクトロン皇国の公爵令嬢、グレイス=アルティメシアは婚約者であるグラインシュバイツ皇太子殿下に呼び出され、平民の中で【聖女】と呼ばれているクラリスという女性との「真実の愛」について長々と聞かされた挙句、婚約破棄を迫られました。
この国では有責側から婚約破棄することが出来ないと理性的に話をしましたが、頭がお花畑の皇太子は激高し、私を悪女扱いして制裁を加えると宣い、あげく暴力を奮ってきたのです。
この瞬間、私は決意しました。必ずや強い女になり、この男にどちらが制裁を受ける側なのか教えようということを――。
一人娘の私は今まで自由に生きたいという感情を殺して家のために、良い縁談を得る為にひたすら努力をして生きていました。
それが無駄に終わった今日からは自分の為に戦いましょう。どちらかが灰になるまで――。
しかし、頭の悪い皇太子はともかく誰からも愛され、都合の良い展開に持っていく、まるで【物語のヒロイン】のような体質をもったクラリスは思った以上の強敵だったのです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる