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番外編⑨
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遠い空に向かって、小さく息を吐く。
「気がかりなことでもあるかな?」
レナルド様の声に、私は振り向いて首を振った。
「いいえ」
でも、レナルド様は困ったように微笑むと、私の頬を撫でた。
「何もないって顔じゃないと思うよ」
気づかれないようにしたつもりなのに。
……きっと、他の人には気づかれないと思うのに。
どうして、気づかれてしまうのかしら。
「気がかりと言うわけではないんだけど……きっと仕方のない終わり方なのよね」
私の言葉に、レナルド様が目を見開く。
「クリスティアーヌ、聞いたのか?」
「その言い方だと、私の耳に入らないようにしていたのは、レナルド殿下ね?」
私の言葉にレナルド様がバツが悪そうな表情になる。
「……知らないほうがいいと思って」
「いいえ。これは、私が知らなければいけないことだわ」
「クリスティアーヌには、責任はないよ」
「私がこの結末の引き金を引いたんだから、結末を知っておくべきだと思うわ」
レナルド様が苦笑する。
「責任感が強いね」
「いいえ。本当に責任感が強ければ、もっと他の道を取る選択肢だってあったと思うわ」
「それは、ファビアン殿の婚約者のままでいるってことになるのかな?」
私は何も言えずに目を伏せた。レナルド様が、私の手を取る。
「クリスティアーヌの責任感は素晴らしいと思うよ。だけどね、これが一番いい結末だったのだと思うよ」
「……一番、いい?」
私はそう思えなくて、レナルド様を見る。
「ああ。きっと、あの一族がそのままにされていたら、ゼビナ王国はカッセル王国にいいようにされるかもしれない。それに、似たようなことをしようとする別の貴族もいるかもしれない。あの女がいなくなっても、ファビアン殿はまた他の女に同じように騙されたかもしれない。仮定の話だ。だが、その可能性をつぶさなければ、クリスティアーヌの望むゼビナ王国の未来はやってこないだろう。違う? あの国に明るい未来が来ない元凶は、残念ながらファビアン殿の存在だった。次期国王をワルテ殿に変えることで、ゼビア王国には明るい未来が見えた。違うかな?」
「……そうね。それ以外には、選択肢はなかったのよ」
レナルド様の言葉に私は頷く。
確かにあの時、私はそう思って、覚悟を決めたんだった。
「こういう風になるってことも、覚悟しておかなければならなかったのよね」
私は目を閉じて、そして、にじんでいた涙をのみこんだ。
目を開けると、レナルド様が困ったように笑っている。
「強いクリスティアーヌも好きだけどね。私に頼ってくれてもいいんだよ?」
「でも……」
私が小さく首を横に振ると、レナルド様が私を抱き寄せた。
「もう、夫婦なんだよ」
「……まだ、です。結婚式は、明日ではありませんか」
「……じゃあ、明日夫婦になれば、私に頼ってくれるのかな?」
長い間ファビアン殿下を支えなければと思えば思うほど、誰かを頼ることはできなくなっていた。
私も、誰かを頼ってもいいのだろうか?
「……がんばってみますわ」
クスリ、と笑うレナルド様に、私は心がむずがゆくなった。
完
「気がかりなことでもあるかな?」
レナルド様の声に、私は振り向いて首を振った。
「いいえ」
でも、レナルド様は困ったように微笑むと、私の頬を撫でた。
「何もないって顔じゃないと思うよ」
気づかれないようにしたつもりなのに。
……きっと、他の人には気づかれないと思うのに。
どうして、気づかれてしまうのかしら。
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私の言葉に、レナルド様が目を見開く。
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私の言葉にレナルド様がバツが悪そうな表情になる。
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「私がこの結末の引き金を引いたんだから、結末を知っておくべきだと思うわ」
レナルド様が苦笑する。
「責任感が強いね」
「いいえ。本当に責任感が強ければ、もっと他の道を取る選択肢だってあったと思うわ」
「それは、ファビアン殿の婚約者のままでいるってことになるのかな?」
私は何も言えずに目を伏せた。レナルド様が、私の手を取る。
「クリスティアーヌの責任感は素晴らしいと思うよ。だけどね、これが一番いい結末だったのだと思うよ」
「……一番、いい?」
私はそう思えなくて、レナルド様を見る。
「ああ。きっと、あの一族がそのままにされていたら、ゼビナ王国はカッセル王国にいいようにされるかもしれない。それに、似たようなことをしようとする別の貴族もいるかもしれない。あの女がいなくなっても、ファビアン殿はまた他の女に同じように騙されたかもしれない。仮定の話だ。だが、その可能性をつぶさなければ、クリスティアーヌの望むゼビナ王国の未来はやってこないだろう。違う? あの国に明るい未来が来ない元凶は、残念ながらファビアン殿の存在だった。次期国王をワルテ殿に変えることで、ゼビア王国には明るい未来が見えた。違うかな?」
「……そうね。それ以外には、選択肢はなかったのよ」
レナルド様の言葉に私は頷く。
確かにあの時、私はそう思って、覚悟を決めたんだった。
「こういう風になるってことも、覚悟しておかなければならなかったのよね」
私は目を閉じて、そして、にじんでいた涙をのみこんだ。
目を開けると、レナルド様が困ったように笑っている。
「強いクリスティアーヌも好きだけどね。私に頼ってくれてもいいんだよ?」
「でも……」
私が小さく首を横に振ると、レナルド様が私を抱き寄せた。
「もう、夫婦なんだよ」
「……まだ、です。結婚式は、明日ではありませんか」
「……じゃあ、明日夫婦になれば、私に頼ってくれるのかな?」
長い間ファビアン殿下を支えなければと思えば思うほど、誰かを頼ることはできなくなっていた。
私も、誰かを頼ってもいいのだろうか?
「……がんばってみますわ」
クスリ、と笑うレナルド様に、私は心がむずがゆくなった。
完
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