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番外編②
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「ねえ、どうして二人は、将来が誓えないのかしら?」
誰も廊下にいないから、口にできたようなものだけど。
私の疑問に、ワルテが苦笑する。
私とワルテの視線の先では、レナルド殿下と、クリスティアーヌ様の二人が、教室の片隅で朗らかに議論をされている。
どう見ても、お似合いの二人。
……あのとんでもないでき損ないの誰かさんとより、何百倍も。いえ、何千倍も!
「マリルー、それは……致し方ないと言うか……」
「……わかってるわ」
そんなこと、議論しても仕方がないことだ。
決められてしまっていること。
ゼビナ国をまともに維持するためには、仕方のないこと。
そのために、クリスティアーヌ様には、犠牲を払ってもらうしかない。
「わかってるけど! でも……」
どう見ても、クリスティアーヌ様とレナルド殿下は相思相愛なのに。
……クリスティアーヌ様の、国につかえる姿勢は素晴らしいし、尊敬しかない。
でも、まさか、バール王国に留学してきて、クリスティアーヌ様の見たこともない感情を見ることになるなんて、思いもよらなかった。
「クリスティアーヌ様の初恋が実って欲しいと思ってしまうのは、いけないことなのかしら。……私は、初恋の相手と婚約できていて、こんな風に理解しあえているって感じられるから、余計に思ってしまうのかもしれないけど……」
私の言葉に、ワルテがうなずいてくれる。
「私たちは、何もかもが恵まれているよね。……クリスティアーヌ様は、私たちの何倍も苦労して、これからも苦労する姿しか思い描けないし……」
「本当に、そうだわ! 国にクリスティアーヌ様がいない間に、更に救いようのないことになってるみたいだし……。クリスティアーヌ様は、自分の恋心を殺してまで国につかえようとしているのに! 本当に、どうにかしてあげたいわ!」
ゼイゼイ、と息を切らせる私に、ワルテが肩をすくめた。
「……手がない訳じゃないんだけど……」
「あるの?」
「簡単にはできないことだからね。ちょっと、実現できそうか考えてみるよ」
淡々と告げるワルテに、私はある可能性を思い出してハッとする。
「……クーデ」
「いや、それは流石にないよ」
私が言おうとした言葉をすぐに思い当たったらしく、ワルテが苦笑する。
「……正攻法って訳ね?」
「そうだね。だからね、マリルー」
真剣なワルテの視線が、私を射ぬく。
……その真剣な顔にまで、ドキドキ、キュンキュンするって、私ってどれだけワルテのことが好きなんだろう。
「マリルー?」
どうやら、私の意識が遠いところに行ってしまったのはバレたらしい。
「ええ。聞いているわ。いつもあなたの言葉を聞き漏らさないようにしているつもりよ?」
私の返事に、少し笑ったワルテが口を開く。
「だからね、マリルー。大変になるかもしれないけど、覚悟しておいてもらってもいいかな?」
私は即座に頷く。
「クリスティアーヌ様は、今まで頑張ってくれたんだもの。クリスティアーヌ様にも、幸せになる権利はあるはずよ。それに、ワルテの隣にいられるのなら、いくら苦労してもいいわ。……だって、私の幸せは、ワルテの隣にいることだから」
「えーっと、うん、ありがとう」
恥ずかしそうに微笑むワルテに、私まで何だか恥ずかしくなる。
……でも、本気になったワルテは容赦ないと思うんだけど……。ファビアン殿下、覚悟はいいかしら?
完
誰も廊下にいないから、口にできたようなものだけど。
私の疑問に、ワルテが苦笑する。
私とワルテの視線の先では、レナルド殿下と、クリスティアーヌ様の二人が、教室の片隅で朗らかに議論をされている。
どう見ても、お似合いの二人。
……あのとんでもないでき損ないの誰かさんとより、何百倍も。いえ、何千倍も!
「マリルー、それは……致し方ないと言うか……」
「……わかってるわ」
そんなこと、議論しても仕方がないことだ。
決められてしまっていること。
ゼビナ国をまともに維持するためには、仕方のないこと。
そのために、クリスティアーヌ様には、犠牲を払ってもらうしかない。
「わかってるけど! でも……」
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私の言葉に、ワルテがうなずいてくれる。
「私たちは、何もかもが恵まれているよね。……クリスティアーヌ様は、私たちの何倍も苦労して、これからも苦労する姿しか思い描けないし……」
「本当に、そうだわ! 国にクリスティアーヌ様がいない間に、更に救いようのないことになってるみたいだし……。クリスティアーヌ様は、自分の恋心を殺してまで国につかえようとしているのに! 本当に、どうにかしてあげたいわ!」
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「……手がない訳じゃないんだけど……」
「あるの?」
「簡単にはできないことだからね。ちょっと、実現できそうか考えてみるよ」
淡々と告げるワルテに、私はある可能性を思い出してハッとする。
「……クーデ」
「いや、それは流石にないよ」
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……その真剣な顔にまで、ドキドキ、キュンキュンするって、私ってどれだけワルテのことが好きなんだろう。
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どうやら、私の意識が遠いところに行ってしまったのはバレたらしい。
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「えーっと、うん、ありがとう」
恥ずかしそうに微笑むワルテに、私まで何だか恥ずかしくなる。
……でも、本気になったワルテは容赦ないと思うんだけど……。ファビアン殿下、覚悟はいいかしら?
完
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