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ただし⑥
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「ファビアン殿下だったら、きちんとこの国を栄えさせることができるわ!」
「そうだ! 私は、クリスティアーヌ嬢がいなくとも、国を亡ぼすようなことはしない!」
ノエリア様もファビアン殿下も意気揚々と言っているけれど……根拠はどこにあるのかしら?
「皇太子教育も逃げ回り、まじめに学院の授業も受けないファビアン殿下が、この国を立派にまとめ上げていけるのか想像もできませんわ。むしろ、先行きが不安で仕方ありませんわ」
ファビアン殿下が私が1年の間、学院に来ていないことに気づいていなかったのも、私の存在に興味がなかったことと、学院の授業をさぼっていたからに違いないんだけれど。
「皇太子教育も、学院の授業も、ファビアン殿下には必要などありませんわ! そんなものがなくとも、ファビアン殿下は立派に国王としてやっていけますわ! 国王としての資質をもともと備えているのですから!」
「そうだ!」
……ノエリア様とファビアン殿下は力を込めているけれど、会場の中の空気が読めないかしら?
私が見える限りの学院生の表情は、不安そうだわ。
そうよね。こんな意味もなく自信満々の人に、自分の国の未来を託さないといけないなんて、本当に嫌よね?
「必要だから、教育はされるのだと思いますわ」
「いえ! ファビアン殿下には必要などないのです!」
「ああ。私には必要などない!」
何だか堂々巡りになってきたわ。……何の話をしていて、こうなったのかしら?
そうだわ! ファビアン殿下の素晴らしいところを教えてもらっている途中だったわ。
「ノエリア様、ファビアン殿下の素晴らしいところ、と言うのを、説明していただいても? お姿に関しても、私は同意しかねますわ」
話を戻した私に、ノエリア様が信じられないものを見るような目で見ている。
「今! 今、私が説明したではありませんか! ファビアン殿下は国王としての資質を持つ、素晴らしい方なのです!」
ああ、なるほど、それでそんな表情をしているわけですわね。
「ごめんなさい。どこに、国王としての資質があるのか、教えていただけるかしら? 私には、ファビアン殿下によって導かれるこの王国の不安な未来しか思い浮かばないのだけれど」
「クリスティアーヌ様! 私をいじめるだけでは飽き足らず、ファビアン殿下にも不名誉な傷をつけようとされるなんて! ひどいですわ!」
即座に反応するノエリア様は、反射神経はとてもいいんだと思うわ。ファビアン殿下よりも、とても反応が早いわ。ファビアン殿下は、今頃になって顔を真っ赤にしているくらいだし。先ほども同じことを言ったのに。
「クリスティアーヌ嬢! 本当に、性格がねじ曲がっている! そんな人間との婚約など破棄だ! 私に不敬を働いたことも合わせ、その罪は重い! 我が国から追放してくれる!」
わななくファビアン殿下の言葉に、会場が騒然となる。
流石に、私の悪口を言い合っていた人たちも、ここまでの厳罰を与えられることに、戸惑いの表情を浮かべている。
ざまぁみろ、と言いたそうな表情をしているのは、ファビアン殿下にしがみついているノエリア様と、ファビアン殿下の取り巻きたちだけだ。
「クリスティアーヌ嬢を、ゼビナ王国から追放するのかな?」
会場に、聞き覚えのある声が響く。
ドキリ、と私の心臓が鳴る。
その声の主がいる、会場の入り口に、皆の視線が集まる。
「レナルド殿下だわ」
女性たちのひそひそとした声は、弾んでいる。
でも、どうして、バール王国のレナルド殿下が? ……バール王国の国王はいらっしゃると聞いていたような気がしますけれど……。
「レナルド殿、クリスティアーヌ嬢は、弱きものをいじめ、それを明らかにされそうになると、私に対しても不敬を働いたのだ。国外追放が妥当なのです」
ファビアン殿下が、レナルド殿下に向かって首を横に振る。
「それは、おかしいな。私が聞いた話とは、全然違う」
冷たいレナルド殿下の声に、ファビアン殿下がたじろぐ。
レナルド殿下のこんな表情を見たのは初めてだった。
「そんなことはありませんわ! クリスティアーヌ様は、私の学が足りないと蔑み、私がファビアン殿下と親しくしているのに嫉妬をして、いじめてきたのです!」
ノエリア様が、ファビアン殿下から離れて、レナルド殿下に向かっていく。
……ノエリア様、何をしようとしているのかしら?
「この1年、バール王国で勉強に励んでいたクリスティアーヌ嬢が、どうやってこの国にいる人間をいじめると言うのだ。私はこの1年間、クリスティアーヌと勉学を共にしていた。クリスティアーヌ嬢には、勉学以外に時間を割くことなどなかったと断言できるのだが」
私を信じてくださるレナルド殿下の言葉に、じわじわと喜びが湧く。
……あまりに自然で違和感がなかったけれど、レナルド殿下は我が国の言葉を使っている。それでも、これだけ操れるなんて……。ファビアン殿下とは、全然違うわ。
「そ、それは……て、手紙を使って、人を動かして、私をいじめたのです!」
ノエリア様が涙をぬぐいながら、それでもレナルド殿下に向かっていく。
「聞いた話がコロコロと変わる人間の話など、信用に値しない」
ツカツカと会場の中を歩きながら、レナルド殿下はノエリア様を冷たく睨む。その迫力にレナルド殿下に向かっていたノエリア様が凍り付く。
会場を私たちの方へ進むレナルド殿下の後ろには、マリルー様とワルテ様がいて、私を見て微笑んだ。
どうやら、レナルド殿下を連れてきたのは、私の信頼する二人らしい。
手を打つと言って二人が会場を出ていったのは、こういうこと、だったのかしら?
「そうだ! 私は、クリスティアーヌ嬢がいなくとも、国を亡ぼすようなことはしない!」
ノエリア様もファビアン殿下も意気揚々と言っているけれど……根拠はどこにあるのかしら?
「皇太子教育も逃げ回り、まじめに学院の授業も受けないファビアン殿下が、この国を立派にまとめ上げていけるのか想像もできませんわ。むしろ、先行きが不安で仕方ありませんわ」
ファビアン殿下が私が1年の間、学院に来ていないことに気づいていなかったのも、私の存在に興味がなかったことと、学院の授業をさぼっていたからに違いないんだけれど。
「皇太子教育も、学院の授業も、ファビアン殿下には必要などありませんわ! そんなものがなくとも、ファビアン殿下は立派に国王としてやっていけますわ! 国王としての資質をもともと備えているのですから!」
「そうだ!」
……ノエリア様とファビアン殿下は力を込めているけれど、会場の中の空気が読めないかしら?
私が見える限りの学院生の表情は、不安そうだわ。
そうよね。こんな意味もなく自信満々の人に、自分の国の未来を託さないといけないなんて、本当に嫌よね?
「必要だから、教育はされるのだと思いますわ」
「いえ! ファビアン殿下には必要などないのです!」
「ああ。私には必要などない!」
何だか堂々巡りになってきたわ。……何の話をしていて、こうなったのかしら?
そうだわ! ファビアン殿下の素晴らしいところを教えてもらっている途中だったわ。
「ノエリア様、ファビアン殿下の素晴らしいところ、と言うのを、説明していただいても? お姿に関しても、私は同意しかねますわ」
話を戻した私に、ノエリア様が信じられないものを見るような目で見ている。
「今! 今、私が説明したではありませんか! ファビアン殿下は国王としての資質を持つ、素晴らしい方なのです!」
ああ、なるほど、それでそんな表情をしているわけですわね。
「ごめんなさい。どこに、国王としての資質があるのか、教えていただけるかしら? 私には、ファビアン殿下によって導かれるこの王国の不安な未来しか思い浮かばないのだけれど」
「クリスティアーヌ様! 私をいじめるだけでは飽き足らず、ファビアン殿下にも不名誉な傷をつけようとされるなんて! ひどいですわ!」
即座に反応するノエリア様は、反射神経はとてもいいんだと思うわ。ファビアン殿下よりも、とても反応が早いわ。ファビアン殿下は、今頃になって顔を真っ赤にしているくらいだし。先ほども同じことを言ったのに。
「クリスティアーヌ嬢! 本当に、性格がねじ曲がっている! そんな人間との婚約など破棄だ! 私に不敬を働いたことも合わせ、その罪は重い! 我が国から追放してくれる!」
わななくファビアン殿下の言葉に、会場が騒然となる。
流石に、私の悪口を言い合っていた人たちも、ここまでの厳罰を与えられることに、戸惑いの表情を浮かべている。
ざまぁみろ、と言いたそうな表情をしているのは、ファビアン殿下にしがみついているノエリア様と、ファビアン殿下の取り巻きたちだけだ。
「クリスティアーヌ嬢を、ゼビナ王国から追放するのかな?」
会場に、聞き覚えのある声が響く。
ドキリ、と私の心臓が鳴る。
その声の主がいる、会場の入り口に、皆の視線が集まる。
「レナルド殿下だわ」
女性たちのひそひそとした声は、弾んでいる。
でも、どうして、バール王国のレナルド殿下が? ……バール王国の国王はいらっしゃると聞いていたような気がしますけれど……。
「レナルド殿、クリスティアーヌ嬢は、弱きものをいじめ、それを明らかにされそうになると、私に対しても不敬を働いたのだ。国外追放が妥当なのです」
ファビアン殿下が、レナルド殿下に向かって首を横に振る。
「それは、おかしいな。私が聞いた話とは、全然違う」
冷たいレナルド殿下の声に、ファビアン殿下がたじろぐ。
レナルド殿下のこんな表情を見たのは初めてだった。
「そんなことはありませんわ! クリスティアーヌ様は、私の学が足りないと蔑み、私がファビアン殿下と親しくしているのに嫉妬をして、いじめてきたのです!」
ノエリア様が、ファビアン殿下から離れて、レナルド殿下に向かっていく。
……ノエリア様、何をしようとしているのかしら?
「この1年、バール王国で勉強に励んでいたクリスティアーヌ嬢が、どうやってこの国にいる人間をいじめると言うのだ。私はこの1年間、クリスティアーヌと勉学を共にしていた。クリスティアーヌ嬢には、勉学以外に時間を割くことなどなかったと断言できるのだが」
私を信じてくださるレナルド殿下の言葉に、じわじわと喜びが湧く。
……あまりに自然で違和感がなかったけれど、レナルド殿下は我が国の言葉を使っている。それでも、これだけ操れるなんて……。ファビアン殿下とは、全然違うわ。
「そ、それは……て、手紙を使って、人を動かして、私をいじめたのです!」
ノエリア様が涙をぬぐいながら、それでもレナルド殿下に向かっていく。
「聞いた話がコロコロと変わる人間の話など、信用に値しない」
ツカツカと会場の中を歩きながら、レナルド殿下はノエリア様を冷たく睨む。その迫力にレナルド殿下に向かっていたノエリア様が凍り付く。
会場を私たちの方へ進むレナルド殿下の後ろには、マリルー様とワルテ様がいて、私を見て微笑んだ。
どうやら、レナルド殿下を連れてきたのは、私の信頼する二人らしい。
手を打つと言って二人が会場を出ていったのは、こういうこと、だったのかしら?
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