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シェリ嬢の回想9

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 2年の卒業式の日、マットが大泣きしている時があった。
 なぜ泣いているのか、シェリもマディーとマットの会話が漏れ聞こえなければ、わからなかっただろう。
 
「行くか?」
 べそべそと泣いているマットに、マディーが困ったように告げた。
 聞こえた言葉に、シェリは首を傾げる。意味が分からなかったからだ。

 マットがぽかん、と涙に濡れた顔で口を開いた。
 まさかマディーからそんなことを言われるとは思わなかったのかもしれない。
 照れ臭そうにマットが微笑んだ。
「いや、いいよ」
 マディーが目を見開いた。
「えーっと、何でだ?」

「だって、家族水入らずのところに、僕が邪魔しちゃ悪いから!」
 シェリはなるほど、と思う。そう言えば今日はマディーの姉が高等部を卒業する日で、家族が来ている日だった。
 もしかしたら、マットはマディーの家族に紹介されないことを悲しんでいたのかもしれない。
 だが、マットは健気だ。家族水入らずだからと遠慮している。
 遠慮しなくていいのに、とシェリは口を出しそうになって留まる。

「……マットは……?」
 マディーがボソボソと尋ねている。シェリは二人の尊い会話を聞いてはいけないと、意識を逸らす。
 マットがにこりと笑う。
「唯一無二の夫だよ!」
 その声は大きくて、聞く気がなくても耳に入った。
 なるほど、シェリの想像では、ネコはマットだと思っていたが、まさかのタチがマットでネコがマディーだった。
 いやでも、現実とはそう言うものかもしれないと、シェリは納得する。

 どうやらマディーが行こうと説得している様子だ。
「大丈夫! 僕たちはいつでも会えるから! 実家の家族と水入らずで過ごすのも、あんまりないだろうし!」
 マットは健気に断っている。
 やはり、マディーの家族にいい印象を与えたいのかもしれない。
 健気だ。

 やはり、尊い。
 シェリは今日もいいことがありそうな気がした。
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