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シェリ嬢の回想4

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 あれは、夏が近づいてきた頃だったろうか。
 シェリが席につくと、マディーとマットの会話が耳に入ってきた。
 最近は聞こうと思っていなくても、二人の声をすぐに拾ってしまう。

「好きな人とかいるの?」
 マットがマディーに尋ねていた。
 マディーが驚いていた。シェリだって驚いている。二人は両想いだったはずだ。
 どうしてこんな会話が始まったのか、シェリは不思議でしょうがない。

 マディーはしばらく考えたあと、おもむろに口を開いた。
「いる」
 マディーは、言った。言い切った。
 どうやら第三者的には両思い認定できているが、本人たちはまだお互いに理解できていないのかも知れなかった。
 シェリはハラハラしながらマディーを応援する。

「えーっと、誰?」
 マットの声にマディーが目を見開いた。シェリは、マットのことだと心のなかで念じた。が、マットには伝わっている気がしなかった。
「それは、言えない」
 マディーは濁した。シェリは、マディーの気持ちを思って何だか悲しくなった。どうしてマットがわかってくれないのか、もどかしかった。

「僕たち、友達だろ?」
 マットの潤んだ瞳に見上げられて、マディーはうつむいている。
 マットの言葉に、ショックを受けたに違いない。
「いや、ただの同級生だろ」
 え、と危うくシェリは声を漏らしかけた。

 マットがうなずいた。
 どうも、シェリが思っている話とは違う気がする。
 あ、とシェリは気づく。
 これは周りに対するカモフラージュなのかも知れなかった。

 そう考えれば、この会話の流れは、何らおかしいことはない。
 シェリはこの二人の主張を最大限尊重しようと決める。
 二人は関係を二人だけの秘密にしておきたいのだ。 
 なんか尊い。
 そう思ったシェリが二人から意識をはずした瞬間だった。

「僕に焼きもちを焼いて欲しいんだね。かわいらしい」
 マットの言葉に、シェリは耳を疑った。
 マディーが首を振っている。
 なるほど、マットは隠すつもりはあまりないのかもしれない。だが、マディーは秘密にしておきたいのかも知れない。

 いや、そもそも、これは二人の駆け引きだったのかもしれない。
 シェリは単なる二人のイチャイチャを耳にしただけだったのだ。
 会話のちぐはぐさは、二人の言葉の裏を読めなかったシェリが理解できなかっただけに違いない。

 やっぱり、尊い。
 シェリは心のなかで頷いた。
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