50 / 62
シェリ嬢の回想4
しおりを挟む
あれは、夏が近づいてきた頃だったろうか。
シェリが席につくと、マディーとマットの会話が耳に入ってきた。
最近は聞こうと思っていなくても、二人の声をすぐに拾ってしまう。
「好きな人とかいるの?」
マットがマディーに尋ねていた。
マディーが驚いていた。シェリだって驚いている。二人は両想いだったはずだ。
どうしてこんな会話が始まったのか、シェリは不思議でしょうがない。
マディーはしばらく考えたあと、おもむろに口を開いた。
「いる」
マディーは、言った。言い切った。
どうやら第三者的には両思い認定できているが、本人たちはまだお互いに理解できていないのかも知れなかった。
シェリはハラハラしながらマディーを応援する。
「えーっと、誰?」
マットの声にマディーが目を見開いた。シェリは、マットのことだと心のなかで念じた。が、マットには伝わっている気がしなかった。
「それは、言えない」
マディーは濁した。シェリは、マディーの気持ちを思って何だか悲しくなった。どうしてマットがわかってくれないのか、もどかしかった。
「僕たち、友達だろ?」
マットの潤んだ瞳に見上げられて、マディーはうつむいている。
マットの言葉に、ショックを受けたに違いない。
「いや、ただの同級生だろ」
え、と危うくシェリは声を漏らしかけた。
マットがうなずいた。
どうも、シェリが思っている話とは違う気がする。
あ、とシェリは気づく。
これは周りに対するカモフラージュなのかも知れなかった。
そう考えれば、この会話の流れは、何らおかしいことはない。
シェリはこの二人の主張を最大限尊重しようと決める。
二人は関係を二人だけの秘密にしておきたいのだ。
なんか尊い。
そう思ったシェリが二人から意識をはずした瞬間だった。
「僕に焼きもちを焼いて欲しいんだね。かわいらしい」
マットの言葉に、シェリは耳を疑った。
マディーが首を振っている。
なるほど、マットは隠すつもりはあまりないのかもしれない。だが、マディーは秘密にしておきたいのかも知れない。
いや、そもそも、これは二人の駆け引きだったのかもしれない。
シェリは単なる二人のイチャイチャを耳にしただけだったのだ。
会話のちぐはぐさは、二人の言葉の裏を読めなかったシェリが理解できなかっただけに違いない。
やっぱり、尊い。
シェリは心のなかで頷いた。
シェリが席につくと、マディーとマットの会話が耳に入ってきた。
最近は聞こうと思っていなくても、二人の声をすぐに拾ってしまう。
「好きな人とかいるの?」
マットがマディーに尋ねていた。
マディーが驚いていた。シェリだって驚いている。二人は両想いだったはずだ。
どうしてこんな会話が始まったのか、シェリは不思議でしょうがない。
マディーはしばらく考えたあと、おもむろに口を開いた。
「いる」
マディーは、言った。言い切った。
どうやら第三者的には両思い認定できているが、本人たちはまだお互いに理解できていないのかも知れなかった。
シェリはハラハラしながらマディーを応援する。
「えーっと、誰?」
マットの声にマディーが目を見開いた。シェリは、マットのことだと心のなかで念じた。が、マットには伝わっている気がしなかった。
「それは、言えない」
マディーは濁した。シェリは、マディーの気持ちを思って何だか悲しくなった。どうしてマットがわかってくれないのか、もどかしかった。
「僕たち、友達だろ?」
マットの潤んだ瞳に見上げられて、マディーはうつむいている。
マットの言葉に、ショックを受けたに違いない。
「いや、ただの同級生だろ」
え、と危うくシェリは声を漏らしかけた。
マットがうなずいた。
どうも、シェリが思っている話とは違う気がする。
あ、とシェリは気づく。
これは周りに対するカモフラージュなのかも知れなかった。
そう考えれば、この会話の流れは、何らおかしいことはない。
シェリはこの二人の主張を最大限尊重しようと決める。
二人は関係を二人だけの秘密にしておきたいのだ。
なんか尊い。
そう思ったシェリが二人から意識をはずした瞬間だった。
「僕に焼きもちを焼いて欲しいんだね。かわいらしい」
マットの言葉に、シェリは耳を疑った。
マディーが首を振っている。
なるほど、マットは隠すつもりはあまりないのかもしれない。だが、マディーは秘密にしておきたいのかも知れない。
いや、そもそも、これは二人の駆け引きだったのかもしれない。
シェリは単なる二人のイチャイチャを耳にしただけだったのだ。
会話のちぐはぐさは、二人の言葉の裏を読めなかったシェリが理解できなかっただけに違いない。
やっぱり、尊い。
シェリは心のなかで頷いた。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
実は、悪役令嬢で聖女なんです。【スカッと】
三谷朱花
ファンタジー
栗原南17才。ネット小説ではよく読んだシチュエーションだった。だから、自分がそうだとわかった時、覚悟をした。勇者か聖女か悪役令嬢か。はたまた単なるモブか。
与えられた役割は、サリエット・フィッシャー公爵令嬢。
悪役令嬢、なのに聖女。
この二つの役割は、南にとっては成立する気がしない。しかも、転生してきた世界は、大好きで読み込んでいた物語。悪役令嬢であるサリエットのほかに聖女が別にいるはずだった。けれど、サリエットは間違いなく聖女としての力も持っていて……。だが、悪役令嬢としての物語は進んでいく。
この物語、一体どんな物語になるのか、南にはさっぱりわからない。
※アルファポリスのみの公開です。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして
夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。
おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子
設定ゆるゆるのラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる