【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花

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シェリ嬢の回想2

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 シェリが二人の会話を初めて耳にしたのは、入学してわりにすぐの頃。
 爽やかな日だった、と記憶している。

「な、何で?」 
 裏返ったマディーの声が、通りかかったシェリの耳に入る。
 そこには、マディーとマットの二人がいた。
 会話を聞くつもりなどシェリにはなかった。だが意識がそちらに向いた。

「嫌だな、理由なんて一つしかないだろ」
 マットが顔を赤らめていた。マットに見惚れていたマディーが、ハッと我に返っている。シェリはその光景に、心がなぜかときめいた。
「いや、全然わからない」

 マディーが首をふる。その顔には戸惑いがあった。
 マットが悲しそうに肩をすくめる。
「マディーは、色恋ごとにうぶなんだな。……」
 風が吹き抜けた。
 シェリはハッとする。

 これは他人が見てはいけない秘め事だ。
 シェリは足早に立ち去った。 
 まだシェリが知らない世界に、マディーとマットはいるんだと思う。
 ただ、シェリの胸は高鳴っていた。
 何だか、二人が尊かった。
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