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レイーアの戸惑い⑨

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 クーン男爵家の応接間にある一人の肖像画を、レイーアはじっと見る。
 どこかで見たような気がする人物だった。
「レイーア、どうかしましたか?」
 マットの言葉に、レイーアは絵を指差す。
「彼女は、どなた?」

 マットが苦笑する。
「あれは、僕が幼少の頃の肖像です。幼い頃は、よく女の子に間違われたものですけれど」
「ごめんなさい。……とても可愛らしかったから。それに……」
「それに?」
 マットの問いかけに、レイーアは遠い目をする。

「昔、会ったことのある女の子に良く似ている気がして」
 あ、とマットが声を漏らす。
「えーっと、レイーア。その女の子には、いつ会ったのか覚えてる?」
 んー、と考え込んだレイーアが、顔をあげた。
「たぶん、高等部の時だわ。……でも、どうして会ったのかしら?」

「それは、まだ中等部だった僕が、レイーアに会いに行ったんだ」
 マットの言葉に、レイーアは目をぱちぱちと瞬かせる。
「どうして?」
「オッホン」
 クーン男爵の咳払いに、レイーアは視線をクーン男爵に向けた。

「それはそうと、レイーアさんはどんなドレスが好みかしら?」
 レイーアはクーン男爵婦人の言葉に慌てる。
「あ、あの……ドレスは私が自分で作りますので!」
 クーン男爵夫妻が目を丸くする。
 レイーアだって、いっぱしの令嬢が言う台詞じゃないことは重々理解している。
 でも、これがレイーアの生活だった。だから、もしドレスを着るとしても、自分で作ろうと思っていた。

「レイーア。ドレスは僕が用意するよ」
 マットの言葉に、レイーアはうつむく。
「私の家で用意しなければいけないものですから……」
「いいえ! レイーアさんはもう我が家の娘だわ! だから、クーン家で用意させてちょうだい! もし、作りたいドレスの形があるのなら教えてちょうだいね?」
 クーン男爵夫人がレイーアの手を取ると、レイーアの目に涙が浮かぶ。

「ありがとうございます、お義母様」
「いいえ。……どうか末長く、マットをコントロールして……」
 クーン男爵夫人の言葉に、クーン男爵がまた咳払いをした。
「えーっと、お義母様、今何と?」
「いいえ! 何でもないわ! 何色のドレスが似合うかしら?」
 フフフ、と微笑むクーン男爵夫人に、レイーアは曖昧に首をかしげた。自分に似合う色などあまり考えたこともなかった。

「白だよ。ピュアなレイーアには白が似合う」
 マットの言葉に、クーン男爵夫妻が確かに、と頷いた。
 レイーアはピュアと言われたことに、戸惑いしかなかった。
 何しろガリヴァ家の状況のせいで、現実的に生きてきたつもりだったからだ。
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