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マット・クーンの確信④

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「えーっと……はじめ、ましてかしら?」
 首をかしげるレイーアに、マットは愕然とする。
 もう3回は会っている。
 いや、正確に言えば、3日連続で顔をあわせている。
 にも拘らず、レイーアはこの様子だ。

 マットは、これは早急にどうにかしないといけないと思う。
 そして、マディーのことを思い出して、安堵する。
 どうして使える人間がいたのに、それを使おうとしなかったのか。自分でも呆れてしまう。
 マディーは、レイーアの弟だ。
 きっと、レイーアの印象に残る方法を教えてくれるに違いない。
 マットは次の作戦は成功するだろうと確信した。


 次の瞬間、ハッとする。
 なにか目的を履き違えているような気がした。
 確か、レイーアは、人脈のきっかけにするつもりだったのだ。
 なのになぜか今、マットはレイーアに覚えてもらおうと必死なのか。

「あの……何の用事かしら?」
 レイーアの声に、マットは我に返る。
「いえ、その庭園にある花の名前をご存じかな、と思って」
 マットが指差した先には、珍しい八重咲きの薄紫の花が咲き誇っていた。
 花の名前を全く知らないわけではないが、マットはその花を初めて見たのだ。

「ああ、あの花は、学名ダケリグリエル・バーニャ・ホラントッテ・ガデイルデメスのメディリアエイアという種類の花よ」
 にっこりと笑うレイーアの口から出てきたのは、呪文のような名前だった。
「ダケリ……グリエル? バーニャ……」
 マットは戸惑う。いくつかの花の名前は知っていても、学名など知らない。

「えーっと、よく見かけるレウェルト・ブレミエンテ・ブルワール・デシャンテの花と同じ種類の花よ?」
 マットは全くその名前に思い至らなかった。
「そ、そうなんですか……お花、お好きなんですね?」
 花が何か印象づけるきっかけになるかもしれないと、マットは頭を切り替えた。レイーアの情報を引き出そうと、マットは必死だった。

「え? きれいだとは思うけど、特に興味はないわ」
 マットは愕然とする。
 興味もないのに、学名まで説明できるレイーアに。
 なのに、3日連続で会っているにも拘らず、自分がまだ覚えてもらえない事実に。

「ありがとうございます」
 そう言うと、マットはきびすを返した。
 きっと、天使のようだと言われる自分が、レイーア一人に覚えてもらえないのがプライドのせいで癪なのだ。
 絶対何か覚えてもらえるきっかけを作る。
 マットはマディーにそのヒントをもらおうと、心に固く誓った。
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