16 / 62
マディー・ガリヴァの憂鬱⑬
しおりを挟む
「そうか、君が」
マディーは戸惑っていた。
なぜか、2つ上のハースという先輩に握手をされている。しかもガッチリ。
「ええ、そうなんです」
マットが笑ってしっかりと頷く。
ハースの隣にいるアリスとマディーは目が合った。アリスは困惑している様子だ。
勿論、マディーも困惑している。
マディーは、その気持ちはよくわかります、と言いたくなったが、すぐにアリスから目を逸らした。
ハースから目をつけられると、学園生活に支障が出るに違いない。
「俺は応援しているから」
大きく頷かれても、マディーには何のことかさっぱりわからない。
「ありがとうございます」
そしてなぜ、それにマットが返事をするのかもさっぱりわからない。
マディーは首を傾げるのが精いっぱいだった。
「ねえ、ハース。何の話をしているの?」
アリスの疑問は、当然の疑問だった。
マディーは心の中で、アリス先輩ありがとうございます! と告げた。勿論怖くて口にはできない。
「やだな、アリス。これは男同士の秘密の話だよ」
ふふ、とハースは笑ったし、マットは大きく頷いたが、マディーには一向に理解できそうになかった。
「だって、こっちの方、戸惑ってるわ」
アリスの視線に、ハースの手の力が更に込められる。
マディーは痛いと思ったが、ハースの笑顔の笑っていない目に、苦情を言えそうな気はしなかった。
ギリギリと手がへし折られるかと思うくらいに力が入っている。
「いえ、戸惑ってませんよ」
ニコリと笑って見せるのが、マディーの精一杯だった。
「そう? ……それならいいんだけど」
アリスの言葉の後、ハースの手の力が緩んでマディーはホッとする。
どうやら正答を選んだらしい。
まさか会話一つで命がけとは、マディーはハースの注意事項と噂が嘘ではなかったんだと納得した。
「本当に、応援しているから」
しっかりとマディーの目を見てくるハースに、マディーは内心を隠したまま頷いた。
理解はできていない。
「有難うございます!」
そして、満面の笑みなのはマット。やっぱりマディーにはさっぱりわからない。
ハースとアリスが去って行くのを見送って、ようやくマディーはホッと息をついた。
「よかったね!」
なぜかマットが満面の笑みでマディーを見る。
「えーっと、全然意味が分からないんだけど」
マディーは首を横にふった。
マットがショックを受けたように目を見開く。
「どうして、あのハース先輩の言葉が理解できないの!?」
「……悪い、あの場では言えそうにもなかったんだけど、マットが理解してるなら教えてくれ」
はぁ、とマットがため息をついた。
「レイーアさんと僕との交際を応援してるってことだよ!」
「……いや、それなら、俺に握手求めて来るっておかしくないか?」
もう一度マットがため息をついた。
「いつもレイーアさんと僕の関係をよりよいものにするために尽力しているなんてすばらしい、ってことだよ!」
そんな事実など、一切ない。
「いや、してない」
マディーはむしろ、マットの気持ちがどこかで立ち消えないかな、と思っているくらいだった。
だが、マットはニッコリ笑う。
「マットもレイーアさんと一緒で照れ屋だね! ハース先輩もよく理解してるよね!」
こいつら、やべぇ。
マットはハースに握られていた手をさすりながら、遠くを見た。
マディーは戸惑っていた。
なぜか、2つ上のハースという先輩に握手をされている。しかもガッチリ。
「ええ、そうなんです」
マットが笑ってしっかりと頷く。
ハースの隣にいるアリスとマディーは目が合った。アリスは困惑している様子だ。
勿論、マディーも困惑している。
マディーは、その気持ちはよくわかります、と言いたくなったが、すぐにアリスから目を逸らした。
ハースから目をつけられると、学園生活に支障が出るに違いない。
「俺は応援しているから」
大きく頷かれても、マディーには何のことかさっぱりわからない。
「ありがとうございます」
そしてなぜ、それにマットが返事をするのかもさっぱりわからない。
マディーは首を傾げるのが精いっぱいだった。
「ねえ、ハース。何の話をしているの?」
アリスの疑問は、当然の疑問だった。
マディーは心の中で、アリス先輩ありがとうございます! と告げた。勿論怖くて口にはできない。
「やだな、アリス。これは男同士の秘密の話だよ」
ふふ、とハースは笑ったし、マットは大きく頷いたが、マディーには一向に理解できそうになかった。
「だって、こっちの方、戸惑ってるわ」
アリスの視線に、ハースの手の力が更に込められる。
マディーは痛いと思ったが、ハースの笑顔の笑っていない目に、苦情を言えそうな気はしなかった。
ギリギリと手がへし折られるかと思うくらいに力が入っている。
「いえ、戸惑ってませんよ」
ニコリと笑って見せるのが、マディーの精一杯だった。
「そう? ……それならいいんだけど」
アリスの言葉の後、ハースの手の力が緩んでマディーはホッとする。
どうやら正答を選んだらしい。
まさか会話一つで命がけとは、マディーはハースの注意事項と噂が嘘ではなかったんだと納得した。
「本当に、応援しているから」
しっかりとマディーの目を見てくるハースに、マディーは内心を隠したまま頷いた。
理解はできていない。
「有難うございます!」
そして、満面の笑みなのはマット。やっぱりマディーにはさっぱりわからない。
ハースとアリスが去って行くのを見送って、ようやくマディーはホッと息をついた。
「よかったね!」
なぜかマットが満面の笑みでマディーを見る。
「えーっと、全然意味が分からないんだけど」
マディーは首を横にふった。
マットがショックを受けたように目を見開く。
「どうして、あのハース先輩の言葉が理解できないの!?」
「……悪い、あの場では言えそうにもなかったんだけど、マットが理解してるなら教えてくれ」
はぁ、とマットがため息をついた。
「レイーアさんと僕との交際を応援してるってことだよ!」
「……いや、それなら、俺に握手求めて来るっておかしくないか?」
もう一度マットがため息をついた。
「いつもレイーアさんと僕の関係をよりよいものにするために尽力しているなんてすばらしい、ってことだよ!」
そんな事実など、一切ない。
「いや、してない」
マディーはむしろ、マットの気持ちがどこかで立ち消えないかな、と思っているくらいだった。
だが、マットはニッコリ笑う。
「マットもレイーアさんと一緒で照れ屋だね! ハース先輩もよく理解してるよね!」
こいつら、やべぇ。
マットはハースに握られていた手をさすりながら、遠くを見た。
0
お気に入りに追加
116
あなたにおすすめの小説
実は、悪役令嬢で聖女なんです。【スカッと】
三谷朱花
ファンタジー
栗原南17才。ネット小説ではよく読んだシチュエーションだった。だから、自分がそうだとわかった時、覚悟をした。勇者か聖女か悪役令嬢か。はたまた単なるモブか。
与えられた役割は、サリエット・フィッシャー公爵令嬢。
悪役令嬢、なのに聖女。
この二つの役割は、南にとっては成立する気がしない。しかも、転生してきた世界は、大好きで読み込んでいた物語。悪役令嬢であるサリエットのほかに聖女が別にいるはずだった。けれど、サリエットは間違いなく聖女としての力も持っていて……。だが、悪役令嬢としての物語は進んでいく。
この物語、一体どんな物語になるのか、南にはさっぱりわからない。
※アルファポリスのみの公開です。
美人すぎる姉ばかりの姉妹のモブ末っ子ですが、イケメン公爵令息は、私がお気に入りのようで。
天災
恋愛
美人な姉ばかりの姉妹の末っ子である私、イラノは、モブな性格である。
とある日、公爵令息の誕生日パーティーにて、私はとある事件に遭う!?
美形王子様が私を離してくれません!?虐げられた伯爵令嬢が前世の知識を使ってみんなを幸せにしようとしたら、溺愛の沼に嵌りました
葵 遥菜
恋愛
道端で急に前世を思い出した私はアイリーン・グレン。
前世は両親を亡くして児童養護施設で育った。だから、今世はたとえ伯爵家の本邸から距離のある「離れ」に住んでいても、両親が揃っていて、綺麗なお姉様もいてとっても幸せ!
だけど……そのぬりかべ、もとい厚化粧はなんですか? せっかくの美貌が台無しです。前世美容部員の名にかけて、そのぬりかべ、破壊させていただきます!
「女の子たちが幸せに笑ってくれるのが私の一番の幸せなの!」
ーーすると、家族が円満になっちゃった!? 美形王子様が迫ってきた!?
私はただ、この世界のすべての女性を幸せにしたかっただけなのにーー!
※約六万字で完結するので、長編というより中編です。
※他サイトにも投稿しています。
【完結】傷物令嬢は近衛騎士団長に同情されて……溺愛されすぎです。
早稲 アカ
恋愛
王太子殿下との婚約から洩れてしまった伯爵令嬢のセーリーヌ。
宮廷の大広間で突然現れた賊に襲われた彼女は、殿下をかばって大けがを負ってしまう。
彼女に同情した近衛騎士団長のアドニス侯爵は熱心にお見舞いをしてくれるのだが、その熱意がセーリーヌの折れそうな心まで癒していく。
加えて、セーリーヌを振ったはずの王太子殿下が、親密な二人に絡んできて、ややこしい展開になり……。
果たして、セーリーヌとアドニス侯爵の関係はどうなるのでしょう?
姉の身代わりで冷酷な若公爵様に嫁ぐことになりましたが、初夜にも来ない彼なのに「このままでは妻に嫌われる……」と私に語りかけてきます。
夏
恋愛
姉の身代わりとして冷酷な獣と蔑称される公爵に嫁いだラシェル。
初夜には顔を出さず、干渉は必要ないと公爵に言われてしまうが、ある晩の日「姿を変えた」ラシェルはばったり酔った彼に遭遇する。
「このままでは、妻に嫌われる……」
本人、目の前にいますけど!?
迷子の会社員、異世界で契約取ったら騎士さまに溺愛されました!?
ふゆ
恋愛
気づいたら見知らぬ土地にいた。
衣食住を得るため偽の婚約者として契約獲得!
だけど……?
※過去作の改稿・完全版です。
内容が一部大幅に変更されたため、新規投稿しています。保管用。
ついうっかり王子様を誉めたら、溺愛されまして
夕立悠理
恋愛
キャロルは八歳を迎えたばかりのおしゃべりな侯爵令嬢。父親からは何もしゃべるなと言われていたのに、はじめてのガーデンパーティで、ついうっかり男の子相手にしゃべってしまう。すると、その男の子は王子様で、なぜか、キャロルを婚約者にしたいと言い出して──。
おしゃべりな侯爵令嬢×心が読める第4王子
設定ゆるゆるのラブコメディです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる