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マディー・ガリヴァの憂鬱⑧

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「うぅ」
 マディーは想像はしていたものの、ドン引きしていた。
 目の前で、マットが号泣している。
 とうとう、レイーアは卒業となる。明日が卒業式だ。
 そして、マディーが寮に帰ろうとしていたら、マットに捕まり、泣かれ始めた。

 ここ数週間マットに捕まることがなかったので、完全に油断していた。
 もし捕まるとしても、明日だろうと思っていた。思い込みはいけない。油断大敵だ。
「どうして、どうしてレイーアさんは、僕を置いて……」
 ずっとマットがくり返している。
「マットはまだ中等部2年だからだろうな」
 マディーも勿論繰り返している。他の言葉を選ぶ元気など、ない。

「僕はまだ学院に居るんだよ?」
 ようやく次のセリフが出た、とだけマディーは思う。
「そうだろうな。まだ中等部2年だからな」
 だが、返せる返事など、それ以外にない。
「僕が、居るんだよ?」
 涙に濡れた瞳でマディーを見るマットの表情は、まるで迷子になった子供のようだった。
 マディーはなぜか、悪いことをしている気分になる。

 だが、マディーは我に返る。
 ほだされてはいけない。おかしいことを言っているのは、マットなのだから。
「関係ないからな」
「関係なくないよ! レイーアさんは、僕の唯一の人なんだよ?」
「……まあ、そうだろうな」
 少なくとも2年間レイーアのことを言われ続ければ、そこは認めざるを得ない。
 なぜかパッと花が咲くように、マットが笑顔になった。

 マディーはギクリとした。
 イヤな予感しかしない。マディーは自分が言ったことを反芻してみたが、過ちはなかったはずだ。……たぶん。
「そうだ! 結婚式をしよう!」
「できないから! そもそも、姉上と一回も話したことないだろ!」
 マディーのツッコミに、マットが一瞬でシュンとなる。
「どうして、僕らの結婚には、障害が多いんだろう」
 マットがハラハラと涙を零す姿は、可憐にも見える。が、それは気のせいだ。

 こいつ、やべぇ。
 マディーはとりあえず暴走を止められたことに、ホッとした。
 せめてレイーアと一度くらい会話して欲しいと、マディーは本気で思う。
 そしたらもしかしたら、マットのレイーアに対する執念のような憧れは、消えてなくなる……かもしれない。
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