【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件

三谷朱花

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マディー・ガリヴァの憂鬱③

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「ねえ、マディー。我が弟よ」
 休暇明け、教室に来るなり親しげにマットに話しかけられて、マディーは意味がわからなかった。

 まず、マットとは2週間前から距離をとっていたはずで、親しげに話しかけられるはずもないと思うのだ。むしろあれだけ避けたのだ、遠慮してほしい。
 それに、マディーはマットの弟になった記憶はない。
 例えそれがマットがマディーの姉レイーアにロックオンしたからの結果だとしても、まだ13才。結婚するには早すぎる。

 それから、昨日までの休暇中、実家で姉に念のため聞いてみたが、マットと接触した様子は全くなかった。
 だから、一体何をもってしてマットがマディーを弟と言っているのかわからなかった。
 
「弟になったつもりはない」
 マディーはきっぱりと告げた。
 この1ヶ月で、マットの頭が悪くないことは理解している。それだけ言えば十分だろうと思っている。

「あ、レイーアさんをとられたことに拗ねてるんだね!」
 マディーにはマットの言葉が全く理解できなかった。
「姉上に昨日聞いたが、マットとは会ったこともないと言っていた」
 マットが顔を伏せる。

 事実を突きつけられて、マットもあり得ない事実を言えなくなったんだろうと、マディーは理解した。
 マットが顔を上げた。その顔が、微笑んでいた。
 マディーは、意味がわからなかった。

「レイーアさんの口から、僕の名前が出るなんて!」
「いや、出たわけじゃないから。俺が名前出しただけだから!」
 マディーは否定した。だが、マットは微笑んだまま首をふる。
「レイーアさんの話題になったってことが重要だよ!」
「いや、そんな人知らないって言われてただけだぞ!」

 マディーの言葉に、マットが満面の笑みになる。
「僕のことを意識してくれてるってことだよね!」
 こいつ、やべぇ。
 マディーはまともに会話することを諦めた。

「それでね、我が弟に報告したいことがあって」
 マディーは返事をしなかった。とりあえず目をそらした。嫌な予感しかしなかった。
 マットはそんなマディーの様子を気にした様子もなく、口を開く。

「父上と母上に、レイーアさんと婚約したいって言ったら、覚悟を問われたんだ!」
 マディーは眩暈がした。
 全く意味がわからなかった。

「か、覚悟って?」
 とりあえず、気になったのでマディーは尋ねた。
 マットが遠くを見る。
「まだ婚約には早いんじゃないかって」
 まともな内容でマディーはホッとした。マットの両親は間違いなくまともらしい。

「で、それのどこが覚悟を問われたことになるんだ?」
 マディーの問いかけに、マットが悲しい目をマディーに向けた。
 美少年が目を潤ませていると、マディーは自分が悪いことをしているような気分になる。
「だって、愛し合っている僕らをすんなりとは認めないってことでしょう?」
 こいつ、やべぇ。
 マディーは、再度確信した。
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