魔法学無双

kryuaga

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第一章 駆け出し冒険者は博物学者

#44

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実のところこの『おに迷宮めいきゅう』は、冒険者ぼうけんしゃたちにたいして人気にんきはない。

というのは、苦労くろうして実入みいりがすくないからだ。

小鬼ゴブリンというのは、たおしても素材そざいとして使つかえる部位ぶいはない。魔石ませき最低さいていランクで、ほかにそのゴブリンがっていた武具ぶぐ売却ばいきゃく出来できるかどうかといった程度ていどだが、ゴブリンには『手入ていれ』という習慣しゅうかんがないためくことはほとんどない。

それでいながら、迷宮ダンジョンないのゴブリンはみょう連携れんけい達者たっしゃで、一手いって間違まちがえるとあっさりむ。それでかえると「ゴブリンにやられてかえった」とわれ、またその急場きゅうばしのいでも「ゴブリンごときに苦戦くせんした」とわれるのである。やってられない、とおも冒険者ぼうけんしゃおおくても、あるいは仕方しかたのないことだろう。

だがおれにとっては、それさえも経験けいけんになる。

 ゴブリンたちは、かずかした格上かくうえりを非常ひじょう得手えてとしているのだ。

そのきもは、『おとり使つかった誘引ゆういん』と『全周包囲ぜんしゅうほういによる飽和攻撃ほうわこうげき』である。

おとりというのも、ただたん逃走とうそうえんじてさそむだけではなく、えてられることにより相手あいて冒険者ぼうけんしゃうごきをめる、ということさえやってのける。

そして飽和攻撃ほうわこうげき人間にんげんうで二本にほんしかなく、また一方いっぽうしかいていない。だから魔法まほう併用へいようしても、同時どうじ三方向さんほうこうまでしか対処たいしょ出来できないのだ。そこによん以上いじょう方向ほうこうから無数むすうってかず攻撃こうげきさらされたら、最善手さいぜんしゅでもげをつしかなくなる。

意外いがいかもしれないが、ゴブリンは魔法攻撃まほうこうげきたくみである。

これまでもべてきたが、魔法まほう基本きほん的に幻炎げんえんである。が、それにまぎれて物理的ぶつりてき実在じつざいするはなつとか、「ねつ」という物理効果ぶつりこうかけん赤熱せきねつさせてりかかるとか、様々さまざま方法ほうほう攻撃こうげきしてくる。

火属性ひぞくせいかぎらない。水属性みずぞくせい水球すいきゅう氷槍ひょうそう風属性かぜぞくせい風刃ふうじん土属性つちぞくせい岩弾がんだんなどは、物理的ぶつりてき実在じつざいする攻撃こうげきになるため適切てきせつ対処たいしょおこな必要ひつようてくる。実際じっさいのところ、風刃ふうじんなどは皮膚ひふ薄皮うすかわ一枚いちまいける程度ていど威力いりょくしかないが、そのいたみが一瞬いっしゅんすき致命的ちめいてきという場面ばめんすくなくない。

おれにとってはむしろ、多彩たさい戦術せんじゅつまなべ、つそれにたいするしょかた研究けんきゅう出来できる、機会チャンスなのである。

◇◆◇ ◆◇◆
さて。それはともかくこの迷宮ダンジョンぜん二十階層にじゅうかいそうわれている。

そうなると、第十階層じゅっかいそう突破とっぱすると、野営やえいかんがえる必要ひつようてくる。

迷宮ダンジョンないでの野営やえいは、襲撃しゅうげき危険きけん以上いじょう危険きけんがある。

ただでさえ一日中いちにちじゅう暗闇くらやみなか一旦いったんねむってしまったら、もはや完全かんぜん時間感覚じかんかんかくくるう。

緊張きんちょういられる敵中野営てきちゅうやえいでは、まず間違まちがいなく熟睡じゅくすい出来できない。そのうえで時間感覚じかんかんかくくるうと、たった10ぷん程度ていどしかねむっていないにもかかわらず5時間じかんくらいねむった|つもりになって、行動こうどう再開さいかいしてしまう。結果けっか充分じゅうぶん体力たいりょく回復かいふくっていないにもかかわらず死地しちむことになるのである。

そこでおれは、シンディさん謹製きんせいたんぽを時計代とけいがわりに使つかうことにした。

このたんぽは、熱湯ねっとうれるとおおよそ4時間じかんあつたもつづける。

勿論もちろん条件じょうけんによって時間じかん前後ぜんごするが、それでもたんぽがあつたもっているあいだ無理むりしてでもる。そうすることで、最低さいてい4時間じかん睡眠時間すいみんじかん確保かくほ出来できる、というわけだ。

野営やえいする場所ばしょも、第九階層きゅうかいそう場所ばしょつけた。

かれみちがってすこくと、直進ちょくしん左折させつ再度さいどかれる。けど、このどちらもすぐにまりになってしまうのだ。

だからこの、カタカナの『ト』のような小路こうじそのものを、野営場所やえいばしょとして改装かいそうすることにしたのだ。

まず、『ト』のあたま部分ぶぶん(最初さいしょかれみちのところ)にまくり、ここにメッセージをしるす。

冒険者ぼうけんしゃ野営中やえいちゅう

  こえかけなく場合ばあい

  てきなして攻撃こうげきします。》

そして、ワイヤートラップと連動れんどうして、クロスボウまくける。

メッセージは人間にんげん相手あいて。メッセージをまない(めない)魔物まものは、、あるのみ。

また冒険者ぼうけんしゃが、迷宮ダンジョンなかでトラブルの結果けっか人間にんげんころされる、なんてくあること。

で、『ト』の横棒よこぼう部分ぶぶんにもまくり、その横棒よこぼう部分ぶぶん野営地やえいちとした。

これでも“ないよりマシ”程度ていどなぐさめだが、えず仮眠かみん出来でき環境かんきょうととのえば、それでい。

そんなかんじで第九階層きゅうかいそう拠点きょてんもうけ、第十一階層じゅういっかいそうけ、第十二階層じゅうにかいそう突破とっぱしようとしたとき悲鳴ひめいこえた。

◇◆◇ ◆◇◆
この世界の迷宮ダンジョンには、所謂いわゆる『フロアボス』はいない。

が、つぎ階層かいそうへとつうじる階段地帯かいだんちたいは、した階層かいそうから魔物まもののぼってくる場合ばあいがあり、安全地帯あんぜんちたいどころかその階層かいそうもっと危険きけん場所ばしょになるのである。

そこで、3にん女性じょせい冒険者ぼうけんしゃが5たい豚鬼オークおそわれていた。

訂正ていせい。『おそわれて』じゃない。すでに『おかえり』されようとしていたのだ。

その女性じょせい冒険者ぼうけんしゃたちの武器ぶきはなく、防具ぼうぐられてはだ露出ろしゅつしている部分ぶぶんがかなりある。

本来ほんらい冒険者ぼうけんしゃ魔物まものたたかっているときは、――その冒険者ぼうけんしゃから救援きゅうえんもとめられた場合ばあいのぞき――すことはマナー違反いはんだ。

が、すでたたかいに決着けっちゃくいている現状げんじょう傍観ぼうかんむのはただの見殺みごろしでしかない。

こえげて突撃とつげきしながら、苦無くない投擲とうてきしたところ、丁度ちょうどこちらをいた瞬間しゅんかんのオークの顔面がんめん命中めいちゅうした。これで一体いったい

そのままのいきおいでべつのオークに〔突撃チャージング〕。二体目にたいめ

きざまにさらにべつのオークにりかかるが、これは致命傷ちめいしょうにはいたらなかった。

この三連撃さんれんげきでオークどもはおれ油断ゆだん出来できない相手あいて認識にんしきしたらしく、女性じょせい冒険者ぼうけんしゃたちをほうっておれった。し。

「そこでじっとしていてください。すぐに片付かたづけますから」

本来ほんらいなら「げろ」とうべき場面ばめんかもしれない。しかし、武器ぶき防具ぼうぐもない彼女かのじょらがここをはなれても、ただ場所ばしょわるだけだ。絶望ぜつぼうからこえはっする気力きりょくもない彼女かのじょらがこのさきどうするかは、このオークどもを始末しまつしてからかんがえればい。

そして、オークの突撃とつげき

が、一対多いったいたたたかいは、小鬼ゴブリンたちでさんざん演習えんしゅうした。小鬼ゴブリンほどの連携れんけいれないオーク相手あいてでは、じつはそれほど脅威きょういではないのだ。むしろ味方みかた複数ふくすういたほうが、相手あいて攻撃対象こうげきたいしょう見切みきることがむずかしくなるぶん面倒めんどうえる。

先頭せんとうのオークの攻撃こうげきかわし、二番目にばんめのオークのわきけ、三番目さんばんめのオークの背後はいごまわる。

そして攻撃こうげきするオークとのあいだに、つねべつのオークの背中せなかるように位置取いちどりし、戦闘コンバットナイフ苦無くない投擲とうてき応戦おうせんする。

のこった三体さんたいのオークをすべほふるまで、それほどの時間じかんようしなかった。
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