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第一章 駆け出し冒険者は博物学者
#29
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注文の服も規定数に達し、【ミラの店】に連絡する日を調整しようとしていた時。
鍛冶師ギルドから使者が来た。【リックの武具店】に注文していたモノが一通り完成したという。ただその受け渡しは、店ではなくギルドを指定された。
◇◆◇ ◆◇◆
「もしかして、随分待ってもらっちゃったかしら、アレク君?」
「そんなことはありませんよ。今来たばかりです、シンディさん」
「おい、俺の目の前で逢引の待ち合わせでもしていたのか?」
「あ、そう言えばシンディさんの余所行き用の服もそろそろ出来ている筈ですから、取りに行きましょうか。ついでにその服に似合うアクセサリーかなにかも見繕いましょう」
「まあ、それは素敵。すぐに行く?」
「そうですね。こんなところで山妖精どもの顔を眺めていても、潤いがありませんし」
「……よっぽど死にたいようだな」
さておき。
「で、注文の品が出来上がったって?」
「……何事もなかったように流す気か、貴様は」
「何顔を赤くしてるんだよ。いつもの挨拶だろ?」
「……貴様は…………。まあ良い。
これがお前の注文の品だ」
そしてリックは製品を並べ始めた。
「まずは苦無。20本の注文だが、25本作っておいた。
多すぎて困ることはないのだろう?」
「あぁ、助かる」
「取り敢えず試してみろ」
ギルド内に用意された標的に対し、苦無を〔投擲〕で投擲したところ、苦無は深々と突き刺さった。
「前のより少し大きいか? あと重さも少し重いな」
「お前の体も成長しているからな。今後のことを考えれば、一回り大きな方が使い勝手が良いと思ってな。もし前のが良ければ作り直すぞ」
「いや、これで・良い。じゃなく、これが・良い」
「次いで鉄串。これはシンディが作った」
「誰かさんのおかげで、生活用品専門鍛冶師になりつつあるから。
ただ、もしかしたら武具を打つより儲かりそうだから怖いわ」
「有り難うございます」
「取り敢えず、今用意したのは250本。これからも作れるだけ作って良いのね?」
「えぇ、1,000本でも2,000本でも。あるだけ買い取ります」
「いや、一般の商店に売る分があるから、全部は無理よ」
「でも屋台で使う鉄串よりは短いでしょ?」
「その辺はほら、キミのは大体屋台用の半分の長さだから。
屋台用を作っておいて、あとで切って研げばキミ用のが完成するって訳」
「成程。納得しました」
「試してみて」
「わかりました」
鉄串もまた、標的まとに向かって今度は〔穿孔投擲〕で投擲した。
ら、標的をあっさり貫通し、その向こうの柱に半ばまで突き刺さった。
「な……」
「いくら何でも、これは驚いたわ」
「いえ、この鉄串は初めから、破壊力より貫通力特化で使うつもりでしたから。
希望通りの出来です。有難うございます」
「貴様は全く、俺とシンディで態度が違いすぎるぞ」
「中年頑固親父と、若い女性とで、同じ態度をとる男がいたら、その方が気持ち悪いと思うが?」
「フン、どうでも良いわい。
で、三つ目。この包丁は俺が打ち、シンディが仕上げた」
「受け取ります」
「四つ目。贈答用として注文を受けた小剣だ。
硬化の魔力を持つ魔石を埋め、紐を通す輪も柄頭に付けた。
鞘の装飾は見ての通り。後は重量とバランスは、貴様が確認しろ」
「拝見しよう。
……うん、重さも重心も丁度良い。柄も太過ぎず細過ぎない。
これも注文通りの品物だ。さすがこの街一番と謂われる【リックの武具店】の製品だな」
「今更煽てるな。
で、最後。貴様の注文は両刃の小剣だったが、片刃のナイフになったことは詫びよう」
それは確かに、剣(反りはなく両刃)ではなく刀(反りを持つ片刃)だった。
いや、前世知識に照らすと、更に具体的なものがある。
大ぶりの戦闘用ナイフ。背の側に刃折りを仕込んだような中途半端な代物ではなく、単純に斬ることと突くことに特化した、小ぶりな山刀ほどのサイズの戦闘用刃物。
「貴様の注文の通り、刃金は鋼鉄、心金は錬鉄、棟金は銑鉄で作り、銑鉄の側金で脇を固めた。
ついでに刃金は神聖金剛石でコーティングしてある」
……アダマンタイト、だと!
「ちょっと待て、親父。
アダマンタイト製の剣なんか、買える訳ないだろ?」
「これは俺の、というよりギルドの意地だ。
貴様に一矢報いたい、とな。
いかな貴様とて、神聖金属の加工法など知りはしないだろう?」
この世界にある魔石の類は、大きく分けて三つある。
ひとつは、そのまんま魔石である。これは魔獣や魔物の体内で生成される。
二つ目は、精霊石。宝石に魔力を封入することで出来る、人工の魔石である。
そして三つ目が、神聖金属。神聖金剛石、神聖金、神聖銀、神聖鉄などが有名だ。
この神聖金属の中で、最も多く見つかると謂われるのが、アダマンタイトであるが、同時に最も加工が難しい神聖金属であるとも謂われる。
「そうか、鍛冶師ギルドの五つ目の秘匿事項が、アダマンタイトの加工方法、か」
「そういうことだ。さすがの貴様も、知らないことがあるようだな」
「あぁ、知らなかった。けど、今わかった」
「何?」
「親父は今、『アダマンタイトでコーティング』って言ったろ?」
☆★☆ ★☆★
アダマンタイトは、謂うなればダイヤモンドの魔力同位体である。
そしてダイヤモンドは、炭素の単分子結晶である。
前世地球の漫画やアニメでは、ダイヤモンドの組成が炭素(木炭や石炭と同じ)であるということから、「ダイヤモンドを燃やして燃料にする」というネタがあったが、現実にはコスト面の問題を無視してもあまり効率的とは言えない。
しかしアダマンタイトはおそらく、迷宮内の石炭層が魔力に触れ、魔石(神聖金属)化したことによって生じるもの。だとするのなら、ダイヤモンドよりはるかに容易に入手出来る。
そしてこの世界での鋼の製法、滲炭法は、鉄を木炭とともに密封(無酸素状態に)して加熱することにより、銑鉄は脱炭され、逆に錬鉄は吸炭し、鋼鉄が出来る。
その際木炭ではなくアダマンタイトを使えば、滲炭の過程でアダマンタイトの魔力が鉄に塗布される。
それが鍛冶師ギルドの秘匿事項である、アダマンタイトの加工法、なのであろう。
★☆★ ☆★☆
「その一言で、アダマンタイトの加工方法がわかったというのか?」
「おおよそな。但し、俺のは知識だけだ。それで俺の手で加工出来る訳じゃない」
「貴様の場合、そんな言葉は慰めにもならんよ」
「じゃぁアダマンタイト・コーティングの礼に、もう一つ鍛冶技術を提供しよう」
鍛冶師ギルドから使者が来た。【リックの武具店】に注文していたモノが一通り完成したという。ただその受け渡しは、店ではなくギルドを指定された。
◇◆◇ ◆◇◆
「もしかして、随分待ってもらっちゃったかしら、アレク君?」
「そんなことはありませんよ。今来たばかりです、シンディさん」
「おい、俺の目の前で逢引の待ち合わせでもしていたのか?」
「あ、そう言えばシンディさんの余所行き用の服もそろそろ出来ている筈ですから、取りに行きましょうか。ついでにその服に似合うアクセサリーかなにかも見繕いましょう」
「まあ、それは素敵。すぐに行く?」
「そうですね。こんなところで山妖精どもの顔を眺めていても、潤いがありませんし」
「……よっぽど死にたいようだな」
さておき。
「で、注文の品が出来上がったって?」
「……何事もなかったように流す気か、貴様は」
「何顔を赤くしてるんだよ。いつもの挨拶だろ?」
「……貴様は…………。まあ良い。
これがお前の注文の品だ」
そしてリックは製品を並べ始めた。
「まずは苦無。20本の注文だが、25本作っておいた。
多すぎて困ることはないのだろう?」
「あぁ、助かる」
「取り敢えず試してみろ」
ギルド内に用意された標的に対し、苦無を〔投擲〕で投擲したところ、苦無は深々と突き刺さった。
「前のより少し大きいか? あと重さも少し重いな」
「お前の体も成長しているからな。今後のことを考えれば、一回り大きな方が使い勝手が良いと思ってな。もし前のが良ければ作り直すぞ」
「いや、これで・良い。じゃなく、これが・良い」
「次いで鉄串。これはシンディが作った」
「誰かさんのおかげで、生活用品専門鍛冶師になりつつあるから。
ただ、もしかしたら武具を打つより儲かりそうだから怖いわ」
「有り難うございます」
「取り敢えず、今用意したのは250本。これからも作れるだけ作って良いのね?」
「えぇ、1,000本でも2,000本でも。あるだけ買い取ります」
「いや、一般の商店に売る分があるから、全部は無理よ」
「でも屋台で使う鉄串よりは短いでしょ?」
「その辺はほら、キミのは大体屋台用の半分の長さだから。
屋台用を作っておいて、あとで切って研げばキミ用のが完成するって訳」
「成程。納得しました」
「試してみて」
「わかりました」
鉄串もまた、標的まとに向かって今度は〔穿孔投擲〕で投擲した。
ら、標的をあっさり貫通し、その向こうの柱に半ばまで突き刺さった。
「な……」
「いくら何でも、これは驚いたわ」
「いえ、この鉄串は初めから、破壊力より貫通力特化で使うつもりでしたから。
希望通りの出来です。有難うございます」
「貴様は全く、俺とシンディで態度が違いすぎるぞ」
「中年頑固親父と、若い女性とで、同じ態度をとる男がいたら、その方が気持ち悪いと思うが?」
「フン、どうでも良いわい。
で、三つ目。この包丁は俺が打ち、シンディが仕上げた」
「受け取ります」
「四つ目。贈答用として注文を受けた小剣だ。
硬化の魔力を持つ魔石を埋め、紐を通す輪も柄頭に付けた。
鞘の装飾は見ての通り。後は重量とバランスは、貴様が確認しろ」
「拝見しよう。
……うん、重さも重心も丁度良い。柄も太過ぎず細過ぎない。
これも注文通りの品物だ。さすがこの街一番と謂われる【リックの武具店】の製品だな」
「今更煽てるな。
で、最後。貴様の注文は両刃の小剣だったが、片刃のナイフになったことは詫びよう」
それは確かに、剣(反りはなく両刃)ではなく刀(反りを持つ片刃)だった。
いや、前世知識に照らすと、更に具体的なものがある。
大ぶりの戦闘用ナイフ。背の側に刃折りを仕込んだような中途半端な代物ではなく、単純に斬ることと突くことに特化した、小ぶりな山刀ほどのサイズの戦闘用刃物。
「貴様の注文の通り、刃金は鋼鉄、心金は錬鉄、棟金は銑鉄で作り、銑鉄の側金で脇を固めた。
ついでに刃金は神聖金剛石でコーティングしてある」
……アダマンタイト、だと!
「ちょっと待て、親父。
アダマンタイト製の剣なんか、買える訳ないだろ?」
「これは俺の、というよりギルドの意地だ。
貴様に一矢報いたい、とな。
いかな貴様とて、神聖金属の加工法など知りはしないだろう?」
この世界にある魔石の類は、大きく分けて三つある。
ひとつは、そのまんま魔石である。これは魔獣や魔物の体内で生成される。
二つ目は、精霊石。宝石に魔力を封入することで出来る、人工の魔石である。
そして三つ目が、神聖金属。神聖金剛石、神聖金、神聖銀、神聖鉄などが有名だ。
この神聖金属の中で、最も多く見つかると謂われるのが、アダマンタイトであるが、同時に最も加工が難しい神聖金属であるとも謂われる。
「そうか、鍛冶師ギルドの五つ目の秘匿事項が、アダマンタイトの加工方法、か」
「そういうことだ。さすがの貴様も、知らないことがあるようだな」
「あぁ、知らなかった。けど、今わかった」
「何?」
「親父は今、『アダマンタイトでコーティング』って言ったろ?」
☆★☆ ★☆★
アダマンタイトは、謂うなればダイヤモンドの魔力同位体である。
そしてダイヤモンドは、炭素の単分子結晶である。
前世地球の漫画やアニメでは、ダイヤモンドの組成が炭素(木炭や石炭と同じ)であるということから、「ダイヤモンドを燃やして燃料にする」というネタがあったが、現実にはコスト面の問題を無視してもあまり効率的とは言えない。
しかしアダマンタイトはおそらく、迷宮内の石炭層が魔力に触れ、魔石(神聖金属)化したことによって生じるもの。だとするのなら、ダイヤモンドよりはるかに容易に入手出来る。
そしてこの世界での鋼の製法、滲炭法は、鉄を木炭とともに密封(無酸素状態に)して加熱することにより、銑鉄は脱炭され、逆に錬鉄は吸炭し、鋼鉄が出来る。
その際木炭ではなくアダマンタイトを使えば、滲炭の過程でアダマンタイトの魔力が鉄に塗布される。
それが鍛冶師ギルドの秘匿事項である、アダマンタイトの加工法、なのであろう。
★☆★ ☆★☆
「その一言で、アダマンタイトの加工方法がわかったというのか?」
「おおよそな。但し、俺のは知識だけだ。それで俺の手で加工出来る訳じゃない」
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