魔法学無双

kryuaga

文字の大きさ
上 下
16 / 50
第一章 駆け出し冒険者は博物学者

#12

しおりを挟む
 小鬼ゴブリン

 現世でも前世でも、「最弱の人型魔物」の名をほしいままにするこの魔物は、しかし最も社会性に長けた魔物でもある。

 種としての上位である中鬼ホブゴブリン大鬼オーガの他、ゴブリン剣士ソードマン、ゴブリン槍兵ランサー、ゴブリン弓兵アーチャー、ゴブリン魔術師メイジ、ゴブリン騎兵ライダー、ゴブリン斥候スカウト、ゴブリンスタッフ・オフィサー、ゴブリン将軍ジェネラル、ゴブリン領主ロード、ゴブリンキング、などの役割分担を行い、中には人語を解し人間と外交交渉を行う外交官ディプロマットさえいる(実際カラン村近郊の集落のゴブリンは、カラン村と相互不可侵協定を結んでいた)。

 その為、単独の場合や小集団を相手にする場合はそれほど脅威ではないにしても、集団戦となる場合の脅威度は、かなり高いものになる。



 当時の俺は、その事実を(知識としては知っていたものの)正しく認識出来ているとは言えなかった。



★☆★ ☆★☆





 一夜明けて。

 俺とアリシアさんは、ゴブリンの集落のある森に足を踏み入れた。



 ここのゴブリンの集落が「王」をいただくほどの規模がないことは、既に分かっている。そして、その集落を構成するゴブリンの半数以上が、先日の廃坑での粉塵ふんじん爆発に巻き込まれて死亡している。つまり、残存するゴブリンの総数は、20~30匹程度と予想出来る。



 森を進んでいくと、前方にゴブリンが3匹いた。即座に〔投擲エイミング〕で苦無くない投擲とうてきし、うち2匹をほふった。しかし残り1匹が逃げ出したので、すぐさま追跡に入る。



「待てアレク。深追いするな」



 アリシアさんは警告したが、この程度の相手におくれを取るとは思わない。とはいえ確かに罠である可能性もある。付かず離れずの距離を置いて、逃走するゴブリンを追った。

 すると、逃走するゴブリンと入れ替わるように、新たなゴブリンが6匹。槍を持ち、横一列に並んで迎撃の態勢をとっていた。

 槍衾やりぶすま、にしては数が少なすぎる。たった6匹では回り込んで避けるも、正面から力任せに突破するも、どちらも容易に行える。そしてこの場合、(後方から俺を追うアリシアさんのことを考えても)強襲一択である。

 俺の主力武装が投擲武器であることから、当然彼我の距離がなくなると不利になる。そして苦無も同時に2本までしか投げられない為、最初の一投は問答無用で、第二投でも相手の回避を掻い潜り、合計4匹を倒した。最後の2匹は相手の槍の穂先が届く距離まで近付くことになった為、一瞬の差ではあったものの、これも無傷でたおすことが出来た。



 この調子なら。

 あたかもその気の緩みを待っていたかのように、斜め後方より矢が飛来した。



 慌てて振り向くと、後方の樹上に弓をたずさえたゴブリンが10匹以上。そしてつい今しがた倒した槍兵の向こうから、こちらも10匹以上のゴブリンが隊列を作っていた。

 そう。完全に包囲されていたのである。



「逃げるぞ」



 アリシアさんは、俺の手を引きそう言った。しかし遅かった。



 樹上からは文字通り雨のごとく矢がり注ぎ、その矢の対処に手を焼いていると、背後から隊列を作ったゴブリンの槍の穂先が向ってきた。



 こうなると取れる対処は強行突破しかない。ある程度の矢による被弾は仕方がないとあきらめて、急所にのみ当たらないようにかばいながら逃げ出した。

 何匹かの弓兵は樹から小剣ショートソードを構えて切りかかってきた。一方俺の苦無は、残弾4本。ここで浪費することは出来ない。

 長剣ブロードソードを抜くアリシアさんのかたわら、俺も小剣を抜剣した。

 けれど、俺の力ではゴブリンの皮膚を切り裂くのが精一杯。急所にやいばを当てることが出来れば話が違ってきたのかもしれないが、この乱戦下ではそれも難しい。



 最終的には剣を腰撓こしだめに構え、体当たり気味に剣を突き刺した。しかし今度は刃がゴブリンの筋肉に食い込んで抜けなくなってしまう。

 結局、剣を捨てただ遮二しゃに無二むに逃げるしかなくなってしまった。



◇◆◇ ◆◇◆



「何が言いたいか、わかっているか?」



 何とかカラン村まで(「無事に」とはとても言えないが)逃げ切った後。アリシアさんは、これまで見たこともないような冷たい視線と口調で、そう言った。



「お前は昨日、あたしのことを旅団パーティ・リーダーだといったな? なのに何故今日、お前はあたしの指示に従わなかった? あたしは『深追いするな』と言ったはずだ」

「勝てると、思ったんです。斃せる自信が、ありました」

「勝てると思ったかどうかを聞いたんじゃない。何故指示に従わなかったのかを聞いたんだ」

「……自惚うぬぼれてました。負ける筈がないから、消極的な戦法を採る必要がない、と」

「その結果がこれか。あたしたちは矢の雨と槍衾に囲まれ、お前は全部の武器をうしない、生きて帰って来れたのはただゴブリンどもが追撃しなかったからに過ぎない。

 ゴブリンどもの方がお前より戦術眼があるってのは、かなり皮肉だな」

「はい……」



「ゴブリンどもが何故引いたか、わかるか?」



 改めて、落ち着いて考えれば簡単にわかる。相手が知的でつ戦略をもって攻めてくるのなら。

 そもそも、昨日俺たちが村に着いた時から、俺たちはゴブリンたちに監視されていたのだろう。昨夜の襲撃はこちらの出方をうかがう為の威力偵察。

 そして今日。俺たちの戦力を削ぐことが、奴らの戦略目標だったなら。

 もしかしたら俺の主力武器が投擲武器であることから、それを消耗させることさえも目的の一つだったのかもしれない。

 なら、今夜。おそらく本格的な攻勢をしてくるだろう。



 そう告げたら、アリシアさんの表情は少し柔らかくなった。



「お前の強みは剣でもなければその投げスローイングナイフ・ダガーでもない。その頭だ。なのにロクに考えもせず先走ったら、失敗するのは当然だろう。もう二度と、同じミスをするな」



「はい。申し訳ありませんでした。今後は必ずリーダーの指示に従います」

「では今夜の襲撃に対し、どのような対処を採る?」

「今日の戦闘で、戦えるゴブリンは40匹以上いることが確認出来ました」

「40……。その数字はどこから?」

「俺たちが包囲されていた時。弓兵が左右におそらく8ずつ。正面の槍衾は6匹×3列。槍衾の後方に将軍と参謀がいるとして、その他に領主もいるでしょう。領主の側近を4匹と考えるのなら、単純計算で39匹。囮役を務めたゴブリンの生き残りが1匹いますので、合計40。最後に斥候せっこう役のゴブリンがいる筈ですから、それ以上ということです」

「対して村の防衛戦力は、あたしら二人。しかも矢傷を負っている。【治療魔法】でいやしたとしても、万全とはいえない。しかも手を打つ時間はない」

「いえ、ここは村を防衛する為の陣立てはするべきではないと思います」

「どういうことだ?」

「斥候の存在です。下手な作戦は筒抜けになるでしょう」

「ならどうする?」



「敵の想定の、裏をかきます」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

俺だけ成長限界を突破して強くなる~『成長率鈍化』は外れスキルだと馬鹿にされてきたけど、実は成長限界を突破できるチートスキルでした~

つくも
ファンタジー
Fランク冒険者エルクは外れスキルと言われる固有スキル『成長率鈍化』を持っていた。 このスキルはレベルもスキルレベルも成長効率が鈍化してしまう、ただの外れスキルだと馬鹿にされてきた。 しかし、このスキルには可能性があったのだ。成長効率が悪い代わりに、上限とされてきたレベル『99』スキルレベル『50』の上限を超える事ができた。 地道に剣技のスキルを鍛え続けてきたエルクが、上限である『50』を突破した時。 今まで馬鹿にされてきたエルクの快進撃が始まるのであった。

Brand New WorldS ~二つの世界を繋いだ男~

ふろすと
ファンタジー
桐崎 洋斗は言葉通りの意味でこことは異なる世界へと転がり込む。 電子の概念が生命力へと名前を変え、異なる進化を遂げた並行世界(パラレルワールド)。 二つの世界の跨いだ先に彼が得るものは何か———? これはありふれた日常で手放したものに気付くまでの物語。 そして、それ以上の我儘を掴むまでの物語。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ ・この小説は不定期更新、それもかなり長いスパンを経ての更新となります。そのあたりはご了承ください。 ・評価ご感想などはご自由に、というかください。ご一読いただいた方々からの反応が無いと不安になります(笑)。何卒よろしくです。 ・この小説は元々寄稿を想定していなかったため1ページ当たりの文章量がめちゃくちゃ多いです。読む方はめげないで下さい笑

2年ぶりに家を出たら異世界に飛ばされた件

後藤蓮
ファンタジー
生まれてから12年間、東京にすんでいた如月零は中学に上がってすぐに、親の転勤で北海道の中高一貫高に学校に転入した。 転入してから直ぐにその学校でいじめられていた一人の女の子を助けた零は、次のいじめのターゲットにされ、やがて引きこもってしまう。 それから2年が過ぎ、零はいじめっ子に復讐をするため学校に行くことを決断する。久しぶりに家を出る決断をして家を出たまでは良かったが、学校にたどり着く前に零は突如謎の光に包まれてしまい気づいた時には森の中に転移していた。 これから零はどうなってしまうのか........。 お気に入り・感想等よろしくお願いします!!

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

処理中です...