魔法学無双

kryuaga

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第一章 駆け出し冒険者は博物学者

#6

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この街に来て4日目。

 真面目に冒険者をするにあたって、改めて自分の装備を見直すことにした。

 当初は戦闘系の依頼はないから、と思っていたが、セマカのような事例もある。



 現在の装備は小剣ショートソード投石紐スリング。しかし、未熟な矮躯わいくでは、小剣はとどめを刺すことくらいにしか使えず、スリングは固い甲羅こうらうろこ、またかぶとで保護された相手には通用しない(セマカは視界確保を優先したのかそれとも子ども相手に兜をかぶるのは誇りプライドゆるさなかったのか、兜を付けていなかった)。けどこれからは、相応そうおうに戦闘力を発揮出来る武具を用意しておくべきだろう。

 また、防具も考える必要があるだろうが、子供の体を最も有効に活用しようと思ったら、速さを活かすしかない。それには防具は邪魔になる。軽く、動きを妨げず、それでいて体を守れる。そんな理想的な防具があれば良いのだが。



◇◆◇ ◆◇◆



 ギルドに紹介してもらった鍛冶職人の店は、職人街の更に奥にあった。

 店に一歩踏み込むと、そこは結構整理された武具が陳列されていた。そしてカウンターの向こうでは、不機嫌そうなドワーフの親父が俺の品定めをするように睥睨へいげいしていた。



「投げナイフを見せてもらえませんか」



 そう。結局俺が選んだ武器は、投擲とうてき武器である。これも結局体格や筋力に左右されるが、それを補う方法は既に考えてある。



 と、店主はつまらなそうに店の隅を指し、

「勝手に見ろ」

とだけ言い、手元の刃物に視線を落とした。



成程なるほど。ここはこの街一番の武具を作っていると聞いていたけど、どうやらそれは間違いのようですね。農具専門店に来ていたとは」

「小僧。どういう意味だ?」

「言葉通りですよ。あそこに並んでいるのは短刀でしょ? プロなら短刀ダガー投げスローイングナイフ・ダガーの違いくらい判るはずです。そんなことさえ分からないってことは、武器は専門じゃない、農具専門だってこと」

「この俺を愚弄ぐろうする気か?」

「本当のことを言われたからっていきり立たないで下さいよ」

「出てけ。おめぇに売るナイフは一本もない」

「おお、気が合いましたね。俺もここで買いたいと思うナイフは一本もなさそうです」



 所謂いわゆる「頑固親父」。自分の仕事に誇りを持っているんだろうけれど、これじゃぁ駄目だ。どれほど腕があっても、取引の相手としては不合格。



 きびすを返し、出ていこうとした時、若い女の声がした。



「お父さん! またお客さんを追い返すつもり?」

「こんなガキは客じゃねぇ」

「お客さんも。御免なさいね、うちの父は口が悪くて。気を悪くしないでくれると助かるわ」

「いえお姉さん、気を悪くするも何も、俺と親父さんは気が合いますよ。両者合意のもとで、この店に用はないってことになったんですから」

「そんなことは言わないで。ホラお父さんも謝って」

「だが……」

「親娘喧嘩ならごゆっくり。俺は失礼しますので」

「いやだからそんな意地悪いわないでよ。ね、勉強しますから」

「そういう問題じゃないんです。俺の希望する商品は、陳列されてないし、親父さんも見せる気がない。なら俺は、売ってくれる店を探すだけです」



 そして店から一歩足を踏み出そうとした時、



「待て。投げナイフならここに何本かある」



 どうやら、ようやく商談が始まりそうである。



◇◆◇ ◆◇◆



 短刀を投げて使う。これは別に特殊な使い方ではない。

 しかし、投擲することを目的に作られた投げナイフを投げて使うのとでは、命中精度も射程も威力も、段違いである。



 店の裏庭に用意された標的ターゲット相手に、えず用意された投げナイフを投擲した。

 一度目は普通に。そして二度目は魔法を発動させながら。



☆★☆ ★☆★



 無属性魔法。この「物を動かす」魔法は、当然その物に触れず動かすことに極意がある。

 ならばその動かす速さスピード制御コントロール出来れば、それだけで攻撃力の底上げが出来る。



 そうして開発したのが「無属性魔法Lv.1【物体操作】派生02a.〔投擲エイミング〕」並びに「02b.〔穿孔ペネト投擲レイター〕」である。



 ただ、〔投擲〕も〔穿孔投擲〕も、投げる物体の形状により魔力の消費量が違ってくる。

 具体的に言うと、弾丸とする物体の形状を問わずとも同じ程度の速さまで加速することは出来る。しかし、流線型の物体の方が魔力の消費が少なく、また魔力消費量を同程度にすると、流線型の物体の方がより早くその速度に到達する。



 なら、初めからそれに相応ふさわしい形状の物であれば、最小の魔力で十分な効果が得られる、ということになる。



★☆★ ☆★☆



〔投擲〕の魔法を発動させながら投げた結果。標的は粉微塵に破砕、ナイフそれ自体も消失した(多分バラバラになった)。

 言葉を失う鍛冶師親娘に、改めて注文を出した。



「重量はこの投げナイフの二倍相当。長さは俺の中指の先から手首まで。刃身は両刃でその長さは中指の先から指の根本までくらい。重心は刃の先端から三分の二くらいの位置。柄にワイヤーを潜くぐらす穴を開けておいてくれると有り難い。

 取り敢えず1本作ってくれ。納得のいくものだったらあと20本注文を出す」



 イメージは、日本の忍者が使用していた手裏剣の一つ「苦無くない」である。

 暗器としても使える上に、〔投擲〕を併用すれば十分な威力と破壊力を確保出来る。それ以外にも柄にワイヤーを潜らせば、応用の仕方はいくらでも思いつく。万能武器である。



 ただ形状的に〔穿孔投擲〕には使えない(〔穿孔投擲〕は螺旋らせん状に回転させる為、刃物ではなく針または釘のような形状が求められる)。それ専用の武器の製造も依頼しようかと思ったが、現状で〔穿孔投擲〕を使用する機会があるとは思えない。

 今回は保留で良いだろう。



 店を出た後、親父に紹介された防具屋で、防刃性の高いマントとグローブ、そして靴を購入した。

 マントは雨天には雨具の代わりになり、また野営時には毛布の代わりになる。

 グローブは防御力よりただ皮膚を守る為という程度の物だ。防御力があってもそれを支える俺の骨がまだ育ちきっていないから、衝撃を受けたらグローブは無事でも骨が折れるくらいのことにはなる。なら防御力に期待する意味はないと思いきった訳である。

 靴は所謂安全靴である。多少重いから疲労は増すが、小指の先をぶつけて悲鳴を上げることはこれでなくなるだろう。



 その他雑貨屋でロープやその他色々なものを買い込んで、冒険者登録をして4日目にしてようやく冒険に出れる態勢が整った。
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