転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#50

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 祭りで賑わう昼下がり、ファスターの街に時を告げる鐘の音が響き渡る。



「……?」



 しかし多くの者達が首を傾げた。昼を示す八の鐘は小半時ほど前に鳴ったばかりで、仮に八の鐘だったとしても、四回ずつ鳴らされるはずの高音と低音の鐘が交互に、それも何度も鳴らされている。

 だが、疑問に染まっていた表情は、徐々に驚愕へと彩られていく。



「まさか……襲撃?」



 その何度も打ち鳴らされる鐘の音は、一部の都市を除いて、場合によっては百年以上も使われていない、主に魔物、魔獣の襲撃を知らせる緊急時の警報なのだ。ほとんどの者が知識として知っているだけで、実際に聞く事になるとは夢にも思っていなかっただろう。ましてや子供となれば、知っている者を見つける事の方が困難だ。



 襲撃がどの程度の規模なのか、どの方角から来るのかさえ分からないうちから、"逃げなければならない"という意識に囚われた一部の者達が人波を掻き分けて走り出し、群集はそれに釣られるように東、西、南にある門へと殺到した。当然だが門は閉じられている。

 また、一部の冒険者達は情報を求めて冒険者ギルドへと詰め掛けた。何事かあった時はギルドへ緊急依頼として持ち込まれる事がある。受けるか否かは別にしても、より正確な情報を手に入れるならば一番の近道だろう。







 広間に集った冒険者達の前に、奥の部屋から出て来たギルド職員の男が数枚の資料を手に立ち、頃合を見て彼らに通達する。



「冒険者の皆様にお知らせします!つい先程、ファスターの領主より緊急依頼がなされました。アイアンランク以上の方達にはギルドから依頼の受諾要請が出ています!……繰り返します、つい先程――」



 アイアンランク以上、と聞いて微かに動揺の声が上がる。警報が鳴らされるほどの緊急事態だと言うのに、ようやく半人前と言えるアイアンランクの冒険者すら駆り出すとはどれだけ大規模な襲撃なのか、と。



 通達に出てきたギルド職員は一度場が静まるのを待ち、依頼内容の説明を始める。それは、その場にいる冒険者達の予想を裏切る、拍子抜けしそうになるほどの内容であった。

 アイアンからシルバー+ランクまでの者には恐慌に陥った群集の抑制、ゴールドランク以上の者は今は待機、とのことだ。

 当然、今すぐ領軍と連携して襲撃に備えなくて良いのか、といった声が上がる。

 それに対するギルド職員の返答はこうだ。



 ギルドへと集められた情報によると、警報を発したのは東門の警備兵達で、オークの谷方面にある森から押し寄せる百体以上の魔獣を確認し、慌てて門を閉じて警報を発したのだそうだ。が、ここから話は変わってくる。

 警報が鳴らされてからしばらくして、領軍に所属する結界魔術師が十数人がかりで街全体に結界を張ったのだが、魔獣達は門や外壁に攻撃を加えるでもなく周囲に広がり、あわや包囲されるのでは、と思った頃には後続が続くわけでもなくファスターの街を無視し、山脈の連なる北方面以外へと散っていったのが確認されたのだという。







「――既にパニックを起こした群衆が事故を起こし、死傷者が出ています。シルバー+ランクまでの方達はすぐに各門へと向かって下さい。配置はギルドから指示が出ます。ゴールドランク以上の方達は――っ!?」



 冒険者達への説明を続けるギルド職員だったが、その言葉は街の東から轟いた凄まじい破砕音によって遮られる事となり、次いで発生した激しい揺れに耐え切れず、ごく一部の者を除いたファスターにいる者達は地面へと叩きつけられた。



「っぐ、つぅ……一体何が……?」











「は、ははは……なんだよあれ」



 転倒の痛みにやや足をふらつかせながらも、何人かが外の状況を見に行ったのだが、その様子がおかしい。



「おい、どうした…………っ!?」



 残った者達がその様子を不審に思い、外に出て目にした光景に絶句する。



 そこで彼らが目にしたのは、四肢を踏ん張らせてゆっくりと体を持ち上げる、小さな山のごとき魔獣だった。――そう、掃討要請を受けた護達冒険者の目撃した、重岩殻下等竜ヘヴィロックシェルドレイクである。

 背までの高さだけでも二階建て住居の四倍近くあり、こね合わせた岩塊を造形したかのように重量のある巨体は、足踏みをする度に大地を揺らす。



 ドレイクはその巨躯をもって飛行の勢いのままに突進し、結界を容易くぶち抜いて外壁もろとも進路上の何もかもを巻き込んで蹂躙した。

 不運なのは東門に詰めかけた群衆だろう、東門のやや北側から若干斜めに横断したドレイクによってそのほとんどが押し潰され、あるいは通り過ぎる際の暴風に巻き込まれて叩き落され、またあるいは飛散した瓦礫によって命を落としている。



 突進の勢いで中央広場の南東辺りにまで進んだドレイクは、視界の端に大量の獲物を見つける。南門に押し寄せ、ここ一週間の地震の原因でもあるドレイクの着地時の地揺れによって転倒し、ようやく起き上がる者が出てきた人族の群れだ。

 重岩殻下等竜の走りはその巨躯相応に遅い。ある程度距離が離れていれば、魔獣達にもそうされたようにかなりの数に逃げられてしまう。だが、ドレイクもただ逃げられてばかりいたわけではない。



 ドレイクが首を反らし、大きく息を吸い込んだかと思うと、大きく開け放たれた口腔から灰色の吐息ブレスが放たれた。

 迫る危機に気付いた者達は当然逃げようとするのだが、未だ倒れ伏している群衆の中でろくに身動きをする事も出来ない。運良く逃げられた大通りの端にいた者達を除いて、南門周辺にいた群集は全てが灰色の靄に包まれた。

 岩石系の魔獣でブレスを放つ者はそう多くない。その光景を見ていた者達の一部は逃げる事も忘れ、靄が晴れた後にどのような惨状が待ち受けているのかと、固唾を飲んで眺めていた。



 靄の晴れた先にあったのは、無残にも破壊されつくした光景――などではない。

 ブレスを受けた辺り一面、人も、物も、大地も、全てが灰一色に染まっている。だが違っているのは色だけで、ブレスに覆われる直前の光景と何一つ変わらない。……ただし、何らかの影響を受けねば、今後もその光景が変わることはない。

 魔術的な要素を含んだ灰色の吐息は触れた物の内部へと浸透し、それが生物ならば物言わぬ石像へと変えてしまう。だが岩石系の魔獣であれば岩でも食べられることは珍しくないのだ、炎熱系のブレスで炭にしたり、暴風のブレスで全てを吹き飛ばす事無く捕食できる、言わば"逃がさない"ブレスで、鈍重な重岩殻下等竜に相性は抜群だといわざるを得ないだろう。



 ブレスを吐き終えたドレイクは次の獲物を探し、首を巡らせる。するとどうだろう、すぐ右側で大勢群れているではないか。

 ぱっと見て獲物を判断できない住居の密集地区の逆――冒険者ギルドから出てきていた者達を見つけ、ドレイクはゆっくりと体の向きを変え、自然と大岩を連ねたような尾によって背後の建造物がなぎ払われる。



「……っ!まずい!皆、東へ走れええええ!」



 我に返った冒険者が、一瞬の判断でドレイクの注意を引きつけながら東へと先導する。それは民衆を守るには良い判断だったのかもしれない。西へ向かえば西門に集う群集もろともブレスで石像にされていただろうし、北へ向かってもやはり方向転換を終えたドレイクに背後からブレスを食らうだろう。

 かといって東と南に分かれれば、まだ中にいる冒険者や職員を狙われる可能性がある。自らの命を重要視する冒険者としては二流かもしれないが、これにより、多くの命を救う事となった。

 ただし、自身らの首を絞める結果にもなったのだが。







群集の動き考えるの難しいいいい!



ちなみにドレイクのブレスですが、土石流を吐き出す、という案もありました。ビジュアル的にゲ○みたいなんでやめておきましたが。
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