転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#46

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 メタルタートルが討伐されてからしばらく経った頃、護はカズィネアのいる鍛治工房でいつものように武具の点検をしてもらっていた。



「んー、こりゃあ大分傷んできてるね」



「え、ほんとですか」



「ああ。あんまり酷使するようだと、近いうちにどっかイカれちまうだろうね」



 迷宮鉄製の武具をこの工房で作ってもらってから一年と半年。防具は未だに傷一つ無いものの、手甲に脛当て、更には格闘戦用に補強してもらったブーツまでも二度、三度と作り直されている。



(最近は攻撃魔術もよく使うようになったから、まだしばらくは持つと思ってたんだけどなあ)

「また作り直しですか……」



「戦闘中に武器がぶっ壊れるよりはいいだろう?それで、今回も迷宮鉄製にしとくかい?」



「うーん……ちなみに迷宮鉄よりお勧めの素材ってあります?」



「ん、そうだねえ……剣や槍ならここのモンスターの素材でも色々作れるんだけどね。格闘具となると、Dオーガの骨でもなけりゃ迷宮鉄ほども持ちゃあしないよ」



「Dオーガですか……取ってくるのは俺にはまだまだ厳しいでしょうね」



「プラチナランクでも手を焼くって話だからねえ、打撃主体のあんたじゃ尚更厳しいだろうね。魔獣の素材なんかだと一部の魔闘技やら付与魔術と相性のいい武具が作れたりもするけど、この街じゃあ魔獣の素材なんて滅多に出回らないし、買おうと思ってもオーガの骨以上に破格の値段がするだろうさ」



「この間メタルタートルが討伐されましたよね。あれの素材はどうでした?」



「ああ、あれかい。あたしも一応見には行ったけど、ありゃあうちみたいな工房じゃあおいそれと手を出せる金額じゃあ無かったね。迷宮鉄と比べてもやや硬く、結構な軽量化が出来そうだったよ。それでいて地、岩石系の魔闘技の威力の増幅が見込めたからね、はっきり言って値段相当とは言えないが、素材としては中々いいモノだったさ」



「へえ、モンスターでも無いのに、やっぱり魔獣はランクが高いだけあってうまみも大きそうですね」



「ま、この街じゃ魔獣なんて年に一度出ればいい方だからね、気にしたって仕方ないさ。で、それ以外となると金属の素材なんだが……あんたが取って来れそうなのなら迷宮銀も悪くは無いね。迷宮鉄にやや強度は劣るし、魔獣素材ほど魔闘技の威力は上がらないが、一部に特化しない代わりにおおよそ全ての魔闘技に威力の向上が見込める」



「確かに迷宮銀は取ってこれると思いますけど、俺ソロですからあんまり魔闘技使わないんですよね……」



「ふうん、そういうもんかね。となると、手に入りそうなのはもう魔宮鉄くらいしか思い当たらんねえ」



「魔宮鉄?」



「ああ、聞いた事無いかい?一定量以上の魔力が馴染んだ鉄の事がそもそも迷宮鉄と呼ばれていて、更に魔力値の限界を上回って変質した物が魔宮鉄と呼ばれてるんだ。なんでも、ミスリルランクの冒険者がいた街じゃあその魔宮鉄すら上回る獄宮鉄なんてのが出回ったなんて与太話もあるらしいけどね」



 確かに過去、ミスリルランクの冒険者がいた街では獄宮鉄が出回る事もあった。が、残念ながらファスターのダンジョンは世界中に点在するダンジョンの中でもかなり浅く、そこまで高品質な素材が手に入る事は無い。



「魔宮鉄に獄宮鉄ですか、それはやっぱりダンジョンの深層で取れるんですかね」



「Dオーガの出る地下四十階前後から取れるって話だから、運が良ければあんたでも取ってこれるんじゃないかい?」



「なるほど。すぐには無理だと思いますけど、地下三十五階までなら行った事があるので、もうしばらくすればなんとかなるかもしれません」



「でもまあ、さすがに今の装備じゃあそれまで持ちそうにないね。魔宮鉄を手に入れるにしても、それまでのつなぎに一通り作り直しといた方がいいと思うよ」



「そうですね。じゃあこれ、次の分の迷宮鉄です」



 カズィネアの提案に、念のためストックしておいた迷宮鉄鉱を取り出し、カウンターの上に並べていく。



「あいよ、じゃあまたいつも通り、何日か後に受け取りに来な」



 護は前金を払って工房を後にし、真っ直ぐ宿へと帰っていった。







「おかえりなさい、マモルお兄さん」



「ただいま、カリーナちゃん」



 二年近くダンジョンに通い続け、それなりに稼いでいるはずの護がいつまでもこの安宿を利用しているのは、やはりカリーナの存在が大きいだろう。

 今年で十二になるカリーナは、魔力による影響でめきめきと成長し、護としては非常に残念な事に地球での女子高生くらいの体格になっていた。

 とはいえ、心はいまだ十二歳の子供である事に変わりは無い。年頃の女の子が親しげに話しかけてくるようで護は内心戸惑いながらも、若干デレッとしつつ、なんとか今まで通りに接していた。







「マモルお兄さん、少し髪が伸びてきてますね。伸ばしてるんですか?」



 会話の途中、カリーナがふと伸ばしっぱなしになっていた護の髪を見て、尋ねる。



「ん、ああいや、自分で切るのは手間だからさ、ついつい後回しにしちゃうんだよ。これから暑くなってくるし、そろそろ切ろうかな……」



「あ、それなら……もし良かったら、私が切りましょうか?」



「え、カリーナちゃんが?」



「はいっ!うちはいつもお母さんが切ってくれるんですけど、お母さんの髪はお父さんが切っちゃうので、私も一度やってみたかったんです」



「そ、そっか。うぅん……」



「……う、やっぱり一度もやったことないんじゃ駄目ですよね。ごめんなさい、マモルお兄さん」



 言いよどむ護に、しょんぼりするカリーナ、そして厨房から護を睨みつける宿の主人。



「あ、いやいや!そうじゃなくて、受付を空けちゃって大丈夫かなって!自分で切るのは難しいからむしろお願いしたいくらいだよ!」



「……ほんとですかっ?それなら大丈夫です!今の時間ならお母さんに代わってもらえますから」



「そっか、じゃあお願いしていいかな?」



「はいっ、任せてください!それじゃあすぐ代わってもらいますから、マモルお兄さんの部屋で待っててください」



 そう言い残してカリーナは女将のいるであろう裏庭へ向かった。護の部屋ですると聞いて、ますます厨房からの視線が強まり、気のせいか歯軋りも聞こえる。護は逃げるようにして部屋に引き上げた。







「ふんふんふー」



 鼻歌交じりにカリーナは櫛と鋏を動かしていく。その手つきは護が思っていたよりも幾分と滑らかだ。



「そういえばもうすぐ肉祭りだけど、カリーナちゃんは今年はどうするの?」



「肉祭りですかー。今年もマモルお兄さんと一緒なら行ってもいいよって言ってくれたんですけど、そう何度もマモルお兄さんにご迷惑をおかけするわけにもいきませんし……それに私ももう十二なんですから、一人でも大丈夫って言ったんですけど、むしろ成長したから駄目なんだ。ってよく分からない事を言われました」



「あはは……俺なら今年も構わないよ?」



「ありがとうございます。でも、それだけじゃなくて、うちにもあんまり負担をかけたくないんです。うちを利用してくれるお客さんは結構たくさんいますけど、安さが自慢の宿ですからそんなに儲かってないんです。それなのに祭りの日に人を雇ったらすごく負担になるはずなんです……それに、私はここの看板娘ですからっ」



 未練を振り払うように明るく振舞うカリーナに、護は頷く事しか出来ない。



「そっか……そうだね、カリーナちゃんがいないと酒場はむさくるしいおじさんばっかりになっちゃうしね」



「ふふっ、そうですよ……あっ!」



「ん、どうかした?」



「い、いえ、その、あの……な、なんでもありません」



 なんとなく予想は出来ているのだが、あまりに挙動不審なカリーナの様子にそっとため息を吐いて護は気づかないふりをした。







 その夜、凍結魔術を駆使して鏡を作った護は、頑張って隠そうとした痕跡のある一部禿げた後頭部に苦笑を漏らすしか無かったという。





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