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第一章 はじまり
#42
しおりを挟む「はぁ……」
ふとした拍子に、護の口からため息がこぼれる。……あの一時加入以来、やはりどこかのパーティーに参加したい。と、つい考えてしまうのだが、どうすれば参加出来るのか、というところに考えが至るとどうしてもため息がこぼれてしまう。
どうすれば参加出来るか?そんなことは決まっている。冒険者ギルドで支援術師を探しているパーティーを見つけて声を掛ければいい。あるいは受付嬢に頼んで斡旋してもらう、という事も出来る。支援術師はどこも不足していて、影魔術は全員で分担して取得したり、結界は消耗品の魔道具で済ませたり、高価なヒーリングポーションを常備したりと、色々出費がかさむ。支援術師がフリーなら普通は放っておかれない。
だが護はそれをしない。既に出来ている輪の中にうまく溶け込める自信が欠片も無い。仮にパーティーに入ったとしても、まるで地球時代の仕事のように依頼の時だけ同行して、地上に帰れば他のメンバーだけで仲良く酒盛りに行く。なんてことになりそうで怖いのだ。
そして参加するパーティーのランクも問題だ。
護が登録してからの期間は割と知られている。三年半で取得出来るスキルLvとなると、シルバーランクくらいが丁度良く、魔術の腕が良ければシルバー+ランクと言った所だろうか。ゴールドランクの[戦場の宴]に参加出来たのは、彼らがさほど無理をするつもりが無かったのと、とりあえずの代役だったからだ。いかに支援術師が足りなかろうと、ゴールドランクのパーティーに声を掛けても参加出来るかどうかは難しい所だろう。
かといって、シルバーランクのパーティーに入れてもらう、というのも難しい。護にもプライドというものがある。初めの内は実力の合わない者達を見て優越感を感じたり、もしかすれば楽しいかもしれない。しかし、それをいつまでも続けていれば不満が溜まり、自身に比べて遥かに実力の劣る者達に対して攻撃的な態度を取るようになるかもしれない。
護はそういった状況で傲慢になる自らの悪癖を自覚している。スキルLvを低く偽っている事が現状を招いているという事は分かっているが、かといって本来の取得スキル量は完全に異常だ。護にはスキルポイントの入手方法を問われてうまく答えられる自信が無かった。
どれだけ考えても結論は同じ、どん詰まりだ。
「……はぁ」
「――あのねえ、マモル君。女の子の目の前で何度もため息を吐くのは失礼じゃない?」
鬱陶しい空気を放つ護に、むっとした顔でそう言ったのは冒険者ギルドの受付嬢、ラーニャだ。
「へっ?あ……す、すみません」
護は今、冒険者ギルドの受付カウンターで完了させた依頼の報告をし、処理が終わるのを待っている所だった。目の前でこれ見よがしにため息を吐く護に、ラーニャは辛抱ならなかったのだろう。
「もう。この間ようやくパーティーを組んだかと思ったら一度限りだって話だし、あれからなんか暗いよ、何かあったの?」
「えと……いえ、なんでもないです。大丈夫ですから」
あれから一人の食事がどことなく淋しくて、パーティーに入りたいけどプライドが邪魔して入れないなどと言えず、誤魔化す護。
「そんな顔して言ったって説得力ないわよ。無理して言えとは言わないけど……そうだ、私もこれからお昼休みだし、気晴らしにどこか一緒に食べに行かない?」
「えっ?一緒に食事、ですか」
「うん、近くに変わってるけどおいしい料理が出てくるお店があるんだ。行ってみない?」
「う……ぅん、そう、ですね。行ってみたいです」
いつもなら女性と二人きりの食事など断固拒否の構えを取る護なのだが、他人との食事に飢え、相手がいつも世話になっているラーニャということもあり、今の護にとっては彼女との食事というものがとても魅力的なものに思えた。
「よし、それじゃあ決まりねっ。はいこれ報酬。すぐ支度してくるから、椅子にでも座って待ってて」
「はい」
護の返事と共にラーニャは裏へ引っ込み、いつも一緒に昼食を食べている先輩に断りをいれて手荷物を取りに行った。
ラーニャの去った後、先輩のギルド職員から瞬く間に話が広まる。この三年半、全然仲の進展しない二人に彼女達は諦めかけていたが、ようやくラーニャに春が来たか。と投げ込まれた話の種に盛り上がる冒険者ギルドであった。
「お待たせ。じゃあ行こっかっ」
カウンター裏から出てきたラーニャはギルド職員の制服のままだったが、肩に小さな鞄を下げていた。護は財布だけあればいいのでは無いかと思うのだが、女性には色々あるのだろう。
いつもはカウンターの下に隠れてしまっている白を基調にした臙脂色のスカートを弾ませるラーニャは、並んで歩くとかなりの身長差が浮き彫りとなる。実際年齢的には年上なので間違っていないのだが、いつもお姉さんぶるラーニャが、背伸びする子供のように見えて癒される護であった。
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