転生したらぼっちだった

kryuaga

文字の大きさ
上 下
46 / 72
第一章 はじまり

#42

しおりを挟む


「はぁ……」



 ふとした拍子に、護の口からため息がこぼれる。……あの一時加入以来、やはりどこかのパーティーに参加したい。と、つい考えてしまうのだが、どうすれば参加出来るのか、というところに考えが至るとどうしてもため息がこぼれてしまう。



 どうすれば参加出来るか?そんなことは決まっている。冒険者ギルドで支援術師を探しているパーティーを見つけて声を掛ければいい。あるいは受付嬢に頼んで斡旋してもらう、という事も出来る。支援術師はどこも不足していて、影魔術は全員で分担して取得したり、結界は消耗品の魔道具で済ませたり、高価なヒーリングポーションを常備したりと、色々出費がかさむ。支援術師がフリーなら普通は放っておかれない。

 だが護はそれをしない。既に出来ている輪の中にうまく溶け込める自信が欠片も無い。仮にパーティーに入ったとしても、まるで地球時代の仕事のように依頼の時だけ同行して、地上に帰れば他のメンバーだけで仲良く酒盛りに行く。なんてことになりそうで怖いのだ。



 そして参加するパーティーのランクも問題だ。

 護が登録してからの期間は割と知られている。三年半で取得出来るスキルLvとなると、シルバーランクくらいが丁度良く、魔術の腕が良ければシルバー+ランクと言った所だろうか。ゴールドランクの[戦場の宴]に参加出来たのは、彼らがさほど無理をするつもりが無かったのと、とりあえずの代役だったからだ。いかに支援術師が足りなかろうと、ゴールドランクのパーティーに声を掛けても参加出来るかどうかは難しい所だろう。

 かといって、シルバーランクのパーティーに入れてもらう、というのも難しい。護にもプライドというものがある。初めの内は実力の合わない者達を見て優越感を感じたり、もしかすれば楽しいかもしれない。しかし、それをいつまでも続けていれば不満が溜まり、自身に比べて遥かに実力の劣る者達に対して攻撃的な態度を取るようになるかもしれない。

 護はそういった状況で傲慢になる自らの悪癖を自覚している。スキルLvを低く偽っている事が現状を招いているという事は分かっているが、かといって本来の取得スキル量は完全に異常だ。護にはスキルポイントの入手方法を問われてうまく答えられる自信が無かった。

 どれだけ考えても結論は同じ、どん詰まりだ。



「……はぁ」



「――あのねえ、マモル君。女の子の目の前で何度もため息を吐くのは失礼じゃない?」



 鬱陶しい空気を放つ護に、むっとした顔でそう言ったのは冒険者ギルドの受付嬢、ラーニャだ。



「へっ?あ……す、すみません」



 護は今、冒険者ギルドの受付カウンターで完了させた依頼の報告をし、処理が終わるのを待っている所だった。目の前でこれ見よがしにため息を吐く護に、ラーニャは辛抱ならなかったのだろう。



「もう。この間ようやくパーティーを組んだかと思ったら一度限りだって話だし、あれからなんか暗いよ、何かあったの?」



「えと……いえ、なんでもないです。大丈夫ですから」



 あれから一人の食事がどことなく淋しくて、パーティーに入りたいけどプライドが邪魔して入れないなどと言えず、誤魔化す護。



「そんな顔して言ったって説得力ないわよ。無理して言えとは言わないけど……そうだ、私もこれからお昼休みだし、気晴らしにどこか一緒に食べに行かない?」



「えっ?一緒に食事、ですか」



「うん、近くに変わってるけどおいしい料理が出てくるお店があるんだ。行ってみない?」



「う……ぅん、そう、ですね。行ってみたいです」



 いつもなら女性と二人きりの食事など断固拒否の構えを取る護なのだが、他人との食事に飢え、相手がいつも世話になっているラーニャということもあり、今の護にとっては彼女との食事というものがとても魅力的なものに思えた。



「よし、それじゃあ決まりねっ。はいこれ報酬。すぐ支度してくるから、椅子にでも座って待ってて」



「はい」



 護の返事と共にラーニャは裏へ引っ込み、いつも一緒に昼食を食べている先輩に断りをいれて手荷物を取りに行った。

 ラーニャの去った後、先輩のギルド職員から瞬く間に話が広まる。この三年半、全然仲の進展しない二人に彼女達は諦めかけていたが、ようやくラーニャに春が来たか。と投げ込まれた話の種に盛り上がる冒険者ギルドであった。





「お待たせ。じゃあ行こっかっ」



 カウンター裏から出てきたラーニャはギルド職員の制服のままだったが、肩に小さな鞄を下げていた。護は財布だけあればいいのでは無いかと思うのだが、女性には色々あるのだろう。

 いつもはカウンターの下に隠れてしまっている白を基調にした臙脂色のスカートを弾ませるラーニャは、並んで歩くとかなりの身長差が浮き彫りとなる。実際年齢的には年上なので間違っていないのだが、いつもお姉さんぶるラーニャが、背伸びする子供のように見えて癒される護であった。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...