44 / 72
第一章 はじまり
#40
しおりを挟む
「え、……俺、ですか?」
いつものように依頼を受けに冒険者ギルドに入ったところ、護は掲示板に向かう途中で呼び止められた。
「そう、マモル。君だよ君」
呼び止めたのは二十代前半の男で、護も見た覚えがある。いつも五人組でいて、いかにも仲が良さそうなのだが、今日は一人足りないようだ。
「えっと、俺に何の用ですか」
警戒をあらわに、距離を残して近付く護。
「うん、それなんだけど。君、今ゴールドランクで、影魔術を取った後は支援魔術に集中してポイントを使ってるって聞いたんだけど、それで合ってる?」
「それは……確かに、そうですけど。そんな事誰から聞いたんですか?」
護はギルドに、というかラーニャには、まあ実際の取得スキルとは全く違うのだが、大体どういう風にポイントを振って戦っているのかを話しており、対外的には自己支援と訓練で身に着けた近接格闘術によって肉弾戦闘をする支援術師、ということにしている。……どこか日本語がおかしい気がするが、おそらく気のせいだろう。
「ああ、君、あのちっちゃい受付嬢ちゃんとよく色々話してるだろう?そういうのって案外周りも聞いてるもんでさ。君の話だけに限らないんだけど、冒険者としての能力や性格の情報とか、依頼に関する重要な情報なんかは割とすぐに冒険者達の間で広まるもんなんだよ。……君は人と関わろうとしないから、そうでもないみたいだけどね」
懇切丁寧に理由を説明し、……親切にも護がそれを知らない理由も苦笑いで説明してくれた。説明された護は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「それで、君に何の用かって話なんだけど。俺達はいつも五人で[戦場の宴]ってゴールドランクのパーティーを組んでるんだけど、今日は事情があって支援術師が来られなくてね。それで代わりの支援術師に一時的に入ってもらおうって話になったんだけど……どうかな?」
「一時加入……ですか」
護も本格的な勧誘は何度かされたことがあるが、一時的な参加、というのは今回が初めてだ。いずれはパーティーに入ってみたいと思っているが、うまく馴染めるか不安で気後れし、護はいつも勧誘を断っている。だが、一時的に、ということなら少しはパーティーの雰囲気が分かるかもしれない。と思い、参加を決めることにした。
「分かりました、今回だけという話でしたら、俺でよければ」
「お、ほんとかい?いつも勧誘を断ってるって話だったから、正直駄目元だったんだけど、誘ってみるもんだね。そうと決まればこっちに来てくれ、うちのメンバーを紹介するよ」
向かった先で紹介されたのは全員男で、屈強な大剣使いのテッド、引き締まった肉体で短槍使いのアッシュ、やや細身で双剣を使う宝掘師のドルアーデ、そして護に声をかけた優男の攻魔術師のリーダー、ヴォルケンだ。
「よろしく、マモル。支援術師は中々いないから、入ってくれて助かるよ」
「支援術師とは言っても、影魔術以外はまだスキルLvも低いので、そこまで期待しないでください」
「ああ、俺達も今回は無茶するつもりはないから、ある程度の効果があれば大丈夫だよ。基本は補助魔法を掛けてもらって、休憩時の結界張りと影魔術での荷物持ちだけしてもらおうと思ってるけど、ゴールドランクって事はそれなりに魔物型も倒してるだろうし、一応戦闘もいけるよね?」
「あ、はい。阻害魔術と格闘術でそれなりに戦えます」
「そっか。うーん、いつもはうちの支援術師に阻害魔術をしてもらってるんだけど、急ごしらえの連携は危ないし、後方警戒を代わってもらってドルアーデを遊撃に出そうかな」
「そうですね、複数の他人に対する補助魔術の維持も初めてですし、それくらいなら大丈夫だと思います」
補助魔術は掛けて終わり、ではない。ほんの極僅かではあるが、維持に魔力を注がねばならない。護はいつも自分一人だけなので大した苦労をしていないのだが、自分を含め五人となれば、あまりに集中を乱すと補助魔術が解除されてしまうのだ。
「うん、大まかな探索の方針はこんな感じでいいかな。それで、後は報酬の話なんだけど、依頼の報酬と素材の売り上げの五分の一で構わないかな。素材で欲しい物があった場合は買い取ってもらうけど」
「はい、それで構いません」
やや自分の働きよりも報酬が多い気がするが、護は口に出さない。それよりも昔やっていたMMORPGの臨時パーティーでの分配方式にそっくりで、昔を懐かしんでいた。
「よし、それじゃあ決まりだ。マモルは今日ダンジョンに行くつもりだったかい?違ったなら準備が整うまで待ってるよ」
「いえ、俺も今日はダンジョンの依頼を受けるつもりだったので、準備は出来てます」
「分かった。じゃあ依頼を受けてくるから、少し待っててくれ」
そう言ってヴォルケンが受けてきたのは、[Dオークの肉の収集]だ。Dオークの肉は普通のオークの肉に比べ、魔力の影響によるものなのか、味が熟成されたように深みを増し、討伐難易度も相まってかなりの高級肉となっている。
ゴールドランクパーティー[戦場の宴]はその場で肉を食べる事を好み、最近になってDオークの肉を食べてやみつきになり、今ではほぼDオーク専門のパーティーとなっている。
護はそんな話を聞きながら、そういえばDオークの肉はうまかったな。と喉を鳴らすのだった。
いつものように依頼を受けに冒険者ギルドに入ったところ、護は掲示板に向かう途中で呼び止められた。
「そう、マモル。君だよ君」
呼び止めたのは二十代前半の男で、護も見た覚えがある。いつも五人組でいて、いかにも仲が良さそうなのだが、今日は一人足りないようだ。
「えっと、俺に何の用ですか」
警戒をあらわに、距離を残して近付く護。
「うん、それなんだけど。君、今ゴールドランクで、影魔術を取った後は支援魔術に集中してポイントを使ってるって聞いたんだけど、それで合ってる?」
「それは……確かに、そうですけど。そんな事誰から聞いたんですか?」
護はギルドに、というかラーニャには、まあ実際の取得スキルとは全く違うのだが、大体どういう風にポイントを振って戦っているのかを話しており、対外的には自己支援と訓練で身に着けた近接格闘術によって肉弾戦闘をする支援術師、ということにしている。……どこか日本語がおかしい気がするが、おそらく気のせいだろう。
「ああ、君、あのちっちゃい受付嬢ちゃんとよく色々話してるだろう?そういうのって案外周りも聞いてるもんでさ。君の話だけに限らないんだけど、冒険者としての能力や性格の情報とか、依頼に関する重要な情報なんかは割とすぐに冒険者達の間で広まるもんなんだよ。……君は人と関わろうとしないから、そうでもないみたいだけどね」
懇切丁寧に理由を説明し、……親切にも護がそれを知らない理由も苦笑いで説明してくれた。説明された護は苦虫を噛み潰したような顔をしているが。
「それで、君に何の用かって話なんだけど。俺達はいつも五人で[戦場の宴]ってゴールドランクのパーティーを組んでるんだけど、今日は事情があって支援術師が来られなくてね。それで代わりの支援術師に一時的に入ってもらおうって話になったんだけど……どうかな?」
「一時加入……ですか」
護も本格的な勧誘は何度かされたことがあるが、一時的な参加、というのは今回が初めてだ。いずれはパーティーに入ってみたいと思っているが、うまく馴染めるか不安で気後れし、護はいつも勧誘を断っている。だが、一時的に、ということなら少しはパーティーの雰囲気が分かるかもしれない。と思い、参加を決めることにした。
「分かりました、今回だけという話でしたら、俺でよければ」
「お、ほんとかい?いつも勧誘を断ってるって話だったから、正直駄目元だったんだけど、誘ってみるもんだね。そうと決まればこっちに来てくれ、うちのメンバーを紹介するよ」
向かった先で紹介されたのは全員男で、屈強な大剣使いのテッド、引き締まった肉体で短槍使いのアッシュ、やや細身で双剣を使う宝掘師のドルアーデ、そして護に声をかけた優男の攻魔術師のリーダー、ヴォルケンだ。
「よろしく、マモル。支援術師は中々いないから、入ってくれて助かるよ」
「支援術師とは言っても、影魔術以外はまだスキルLvも低いので、そこまで期待しないでください」
「ああ、俺達も今回は無茶するつもりはないから、ある程度の効果があれば大丈夫だよ。基本は補助魔法を掛けてもらって、休憩時の結界張りと影魔術での荷物持ちだけしてもらおうと思ってるけど、ゴールドランクって事はそれなりに魔物型も倒してるだろうし、一応戦闘もいけるよね?」
「あ、はい。阻害魔術と格闘術でそれなりに戦えます」
「そっか。うーん、いつもはうちの支援術師に阻害魔術をしてもらってるんだけど、急ごしらえの連携は危ないし、後方警戒を代わってもらってドルアーデを遊撃に出そうかな」
「そうですね、複数の他人に対する補助魔術の維持も初めてですし、それくらいなら大丈夫だと思います」
補助魔術は掛けて終わり、ではない。ほんの極僅かではあるが、維持に魔力を注がねばならない。護はいつも自分一人だけなので大した苦労をしていないのだが、自分を含め五人となれば、あまりに集中を乱すと補助魔術が解除されてしまうのだ。
「うん、大まかな探索の方針はこんな感じでいいかな。それで、後は報酬の話なんだけど、依頼の報酬と素材の売り上げの五分の一で構わないかな。素材で欲しい物があった場合は買い取ってもらうけど」
「はい、それで構いません」
やや自分の働きよりも報酬が多い気がするが、護は口に出さない。それよりも昔やっていたMMORPGの臨時パーティーでの分配方式にそっくりで、昔を懐かしんでいた。
「よし、それじゃあ決まりだ。マモルは今日ダンジョンに行くつもりだったかい?違ったなら準備が整うまで待ってるよ」
「いえ、俺も今日はダンジョンの依頼を受けるつもりだったので、準備は出来てます」
「分かった。じゃあ依頼を受けてくるから、少し待っててくれ」
そう言ってヴォルケンが受けてきたのは、[Dオークの肉の収集]だ。Dオークの肉は普通のオークの肉に比べ、魔力の影響によるものなのか、味が熟成されたように深みを増し、討伐難易度も相まってかなりの高級肉となっている。
ゴールドランクパーティー[戦場の宴]はその場で肉を食べる事を好み、最近になってDオークの肉を食べてやみつきになり、今ではほぼDオーク専門のパーティーとなっている。
護はそんな話を聞きながら、そういえばDオークの肉はうまかったな。と喉を鳴らすのだった。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる