転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#39

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 嘆きの果てに、護は顔を上げる。そこには流せなかった涙の代わりに感情をこぼしてしまったかのように何の表情も浮かんでいない。その瞳に冷たく固まってしまったカサーギオの遺体を写し、護は魔術を発動する。



「……『輪廻へ還す白き浄炎の灯火』」



 実際カサーギオ本来の魂は輪廻の輪の中で生まれ変わっている。仮にもしも、モンスターにも魂があったとしても、命を落としたその時に魂は散って、とうに輪廻の輪の中に取り込まれている。ここにあるのはカサーギオの魂の抜け殻の、命の抜け殻だ。これは護の自己満足だ。

 真っ白な浄化の炎が固まってしまっていたカサーギオの体を暖め、ほぐすように全身に広がり、やがてその骨まで焼き尽くした。



 その結果を見届け、部屋を出ようとした護は、無意識のうちに結界を張っていたことに気付き、その雑さについ笑ってしまった。







 部屋を出た護は地上へと足を進めるが、心なしかその足取りは重い。

 人族型モンスターがその行く手を遮るが、低層のモンスターが護の相手になるはずもなく、あっさりと蹴散らされる。



「……?」



 モンスターを蹴散らした護は、何故か視界がぼやけてしまっていた。ゴミでも入ったかと思い、目をこすると、そこには涙が溢れ、こぼれて頬を濡らしていた。



「……えっ?ははっ、……なんだこれ」



 拭っても拭っても、溢れる涙は止まらない。……本当は護ももう気付いている。倒したモンスターの姿に、死んでしまったカサーギオの姿を幻視して、涙をこぼしたことに。



 カサーギオとは出会ってから三日も経っていなかったし、友人というわけでもなかった。それに彼はモンスターだ、いつかは誰かに殺されていただろう。護は、そう自分に言い聞かせて、今回の事を忘れようとしていた。

 だが、彼にはやはり無理だったのだ。三日も経っていなくとも、名を知り、言葉を交わした。モンスターとして生まれたのかもしれないが、中途半端に思い出してしまった記憶に思い悩み、モンスターとして生きるのに耐えられないと命を散らした彼は、やはり"人"だった。



 護はそこまで身近に"人"の死を迎えたことが無かった。悲しみ方が分からなかった。助けられなかった事を悔いているのだと思っていた。誰が死んでも平気だと思っていた。

 ……だが、護はようやく分かった。自分が彼の死を悲しんでいる事を、助けられなかった自らの不甲斐なさへの怒りを、思っていたよりもずっとずっと脆かった自らの心を。



「だから悪いな、……これは八つ当たりだ」



 そう言って護は周囲に冒険者がいない事を確認し、使う事が無いと思っていた『魔蟲の奏者』のもう一つの機能に切り替え、起動する。

 『魔蟲の奏者』のもう一つの機能――『魔蟲の招集』によって、続々と集まる魔蟲型モンスターを前に、護は涙を拭うことをやめた。



「ほら、早く来てくれ。じゃないと、……じゃないと、俺の心が耐えられそうに無い」



 集まったモンスター達は、護に怯えるかのように、一定の距離から近付こうとしない。



「……来てくれないのか?なあ?……でも、悪いな。俺はもう、我慢の限界なんだ。無理矢理でも、付き合ってもらう……!」



 護は流れる涙をそのままに、魔蟲の群れに襲い掛かる。そこには普段の流麗な動きなど少しもない。ただ荒々しくがむしゃらに、悲しみをぶつけるように、怒りをぶつけるように、軋む心を誤魔化すように、モンスター達に叩きつける。

 もちろんそんな戦い方をしていては、護も無傷で済むはずもない。肉体活性化によって肉体は頑強さを増しているが、いくら低層の、とはいえモンスターなのだ。徐々に傷が増えていくが、護は更に自らを痛めつけるように群れの奥へ奥へと突き進んでいく。



「うっ、ぐっ、あぁっ!ああ、あああああっ!!」



 モンスター達に彼は止められない。集まった魔蟲達をことごとく撃墜し、湧き直した魔蟲達も粉砕し、僅かな時間だが、とうとうそのフロアに魔蟲型モンスターは一切いなくなった。

 護は全身の傷をそのままに、荒い呼吸でその場に座り込み、『魔蟲の奏者』の機能を止める。



「はぁ……はぁ、ははっ。さすがにこれ以上は無理かな」







「……ごめん、カサーギオ。お前に答えをやれなくて」



「ごめん、カサーギオ。お前を助けてやれなくて」



「ごめん、カサーギオ。すぐに悼んでやれなくて」



「ごめん……カサーギオ、ごめんな」



 地べたに座り込み、顔を伏せた護は懺悔するかのようにカサーギオへ謝罪を繰り返す。



 ……やがて、ようやく顔を上げた護は、襲い掛かりつつあったモンスターを魔術で粉砕し、立ち上がる。



「なあ、カサーギオ。冒険者だったお前の代わり、なんてとても言えないけど、俺はこれからたくさんの冒険をしてみせるよ」



 その顔に、悲しみはもう僅かにしか残していない。護は自らの心に整理をつけ、ようやくその足を踏み出し、地上へと帰っていく。







 ……そのずたぼろの姿を見たラーニャにひどく心配されたのは言うまでも無い。



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