転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#36

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 家に帰るまでが遠足、とはよく言ったものだ。

 Dダンジョンオークを倒してひとまず満足した護は、ほどよい訓練相手となったモンスター達を適度にあしらいながら上へ上へと戻ってきていた。



『(くっ……うぅっ、ぐすっ、ぐうぅ……)』



 地下十七階にさしかかった時だ、微かにそんな声が聞こえてきたのは。



(うえっ、まさか幽霊!? ……ってそんなわけないか、冒険者、だよな?)



 内心とは裏腹に、心臓をバクバクさせながらゆっくりと声のする方向に近付く護。

 普段なら当然冒険者は避けていくが、聞こえてくる泣き声らしきものから察するに、パーティーからはぐれた冒険者が危機的状況にある可能性も否めない。

 安全な街中で見かけた迷子ではないのだ、見て見ぬふりでも何の問題も無いのだが、もし声の主が危機的状況にあるのならば、見殺しにしてしまったという罪悪感は護の胸にしこりとなって残ってしまうだろう。

 どれだけ強くなろうとも、やはり護は地球で育った小市民の一人なのだ。







 ようやく声の主らしき気配を捉える護。



(お、いたいた。やっぱり冒険者……? だよな? なんか気配がおかしい気がするけど)



 そのどこか奇妙な気配に首を傾げつつも、近付いて周辺の気配も探っていく。



「って! モンスターがすぐ後ろに来てるし! ええいっ、間に合え! 『磔の岩槍』!」



 距離はまだ離れているが、声の主の周辺に即座に発動できる強度の結界を展開し、次いですぐ近くまで来ていたモンスターを岩の槍で串刺しにする。



「……ふぅ、良かった。何とか間に合ったみたいだな」



 ひとまず危機を脱した事に安堵の息をこぼす護。

 それとは裏腹に、間近で串刺しにされたモンスターの死骸を見せられた声の主は混乱しているようだ。とりあえず結界を解いてみるが、声の主は動こうとしない。

 時折自らに近付くモンスターを片手間に掃除しながら、声の主のいる方へ向かうモンスターを護は遠くから魔術で始末し続ける。



「……埒が明かん」



 さすがにいつまでも動かない人のお守りをしていられない。

 声の主が自発的に地上に帰ろうとしたり、パーティーメンバーが迎えに来る、といった護にとって都合のいい展開を諦め、事情を聞いてメンバー探しを手伝うなり、地上に戻る手伝いなりをする事にした。







「うげ……」



 現場に着いた護はその惨状に顔を顰める。それもそのはず、同じ場所で後始末もせずにひたすらモンスターを殺し続けたのだ。辺り一面が血と肉片で満たされるのは当然、ただでさえすすり泣いていた声の主の怯え方が尋常でなくなったのも仕方のないことだろう。



「えっと。おおい、君、大丈夫か?」



「ヒィッ!!」



 膝に頭を埋めてガタガタと震えていた魚人族らしき子供が、護の声に反応して怯えに固定された顔を勢いよく上げる。

 そのたたずまいから冒険者と判断したのか、怯えと警戒を含んだ眼差しで護を見詰め、口を開いた。



「*****、***?」



「え? ……今なんて?」



「……*****、***?」



 うまく聞き取れず、聞きなおしてみるが、やはり分からない。むしろ聞きなおした途端、怯えと警戒が深まったのが分かった。



「えーと……。俺の言葉は分かるかな?」



「**?」



 何かを問いかけているのは分かるようだが、やはり護の言葉を理解できないらしく、不思議そうな表情を見せている。



「むう、どうすれば……ってああ、そうか。ちょっと待っててね」



 そう言われても理解出来ないのだが、護はギルドカードを取り出してスキルリストから目的のスキル、人族共通語の中から[人族語:ウェヌディーテ大陸共通語]をLv2まで取得する。



(まずはこれからかな)

『私の言葉が分かりますか?』



 覚えたてでややぎこちないが、はっきりと異大陸の言葉で問いかける。……が、違う大陸の言葉だったらしい。子供に不審そうな顔で見られて護は挫けそうになる。



(ぐぬ、ならこっちだ)



 今度は[人族語:ルーマレス大陸共通語]をLv2まで取得し、再度問いかける。



『わしの言葉が分かるか?』



 やはりぎこちない異大陸の言葉に、今度は反応を見せた。縋るような目つきとなった子供に、ゆっくりとルーマレス大陸の言葉を繰り返す。



『わしの言葉が分かるか?』



『はい、……はい! 分かります! あぁ、良かった、ようやく話が出来る人に会えた……!』



 嬉しそうに涙を流した魚人族の子供は緊張の糸が切れたのか、ふ、と気を失って崩れ落ちる。

 血の海の中に倒れこみそうになるのを慌てて受け止め、護は仕方ないとばかりに軽くため息をついて安全な場所を確保するべく移動を始めた。





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