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第一章 はじまり
#35
しおりを挟む魔術の訓練を始めてから数ヶ月。徐々に階層を下げながら、護は確実に魔術の腕を上げていた。
「『渦巻く風刃の嵐』」
即座に顕現した小型の竜巻が、鋭く長い牙を持つ猪型モンスターの足を止め、内部で荒れ狂う風の刃によってその身をズタズタに切り裂く。
「うし、これでLv4までの魔術はマスター出来たかな」
現在地は地下二十階。
一フロアごとにじっくりと魔術を繰り返した結果、初歩的な中規模までの魔術を安定した威力で即座に発動出来るようになっている。護は自らの成長を確認し、更なる高みを目指して訓練を再開するのだった。
――地下二十五階。ここからは魔物型のモンスターが出てくるようになる。
まず登場するのはゴブリンなのだが、これを侮ってはいけない。担当神に強化され、ダンジョンの魔力によって底上げされた肉体の性能は、野生のオーガを小型化させたかのようなものとなっている。
それが複数同時に出てくるのだ、油断など出来る場所ではない。
「『筋力補助』『硬化付与』」
まあ、増えた最大魔力値によって肉体活性化の効果が上昇し、魔術の訓練によって支援魔術の効果を大きく向上させた今の護にとっては、さほど難敵というわけでもない。
その上、今の護は格闘に加えて魔術も使用するようになっている。
「『縛れ、雷の縄』」
雷の縄によって身動きの取れなくなったゴブリン達をゆっくりと確実に仕留めていく護。
これでは格闘技術が鈍ってしまうのではないかと思うかもしれないが、一応は近接格闘のみの訓練も時々しているから問題は無い。多分。
――地下二十八階。
犬頭の魔物型モンスター――コボルトと遭遇。かなり素早いが、防御力は大したことがない。隙を見て一撃叩き込むなり、魔術で足止めするなりすれば楽な部類かもしれない。
「ボソッ(その水に触れてはならない、潜む氷蛇の意志が決してお前を放さないだろう)『水面に潜む氷の蛇』」
時々こっそり詠唱を唱えながら、徐々に下の階層へと進んでいく。
――地下三十階。
背面を鱗で覆われ、太く逞しい尻尾と蜥蜴の頭を持つモンスター――リザードマンと遭遇。
尚、獣人や魔人にも外見の似た人族が存在するが、共通語を理解せず、ひたすらに野蛮で好戦的な者達が魔物と呼ばれていて、種族的にはほとんど違いが無い。まあダンジョンでモンスターとして襲い掛かってくるならどちらも変わりが無いのだが。
リザードマンは意外と素早く、力強く、それでいて鱗もかなり頑丈だ。とはいえ、モンスターとなり思考能力の低下した彼らは鱗の未発達な前面を防御しようとしない。
「『弾ける岩の拳』」
その物理的に重い拳撃は叩き込まれると同時に爆発し、次々にリザードマンを駆逐していった。
そして地下三十三階。
ここはプラチナランクになれるか否かの分水嶺と言われている。高い生命力と、オーガにも匹敵する耐久力を持つオークが、モンスターとして大幅に強化された状態で出てくるのだ。
実際にプラチナランクになるために必要なDダンジョンオーガの討伐を成す事を考えれば、それに比べて鈍重なオークは丁度良く実力を計れる相手とも言えるだろう。ちなみに、訓練をしながらダンジョンを下るうちに護はゴールドランクになっている。
まずは以前より強化された拳を後頭部に叩きつけるも、硬い。何度も会心の打撃を叩き込めれば砕くことも出来るかもしれないが、護にそんな悠長な事をするつもりはない。
「『立ち並ぶ岩槍の大地』」
何本もの鋭い岩の槍が突き刺さるが、オークは全く堪えた様子を見せない。分厚い肉の鎧に阻まれて致命傷へと至っていないのだ。
「げ、マジかよ……となると、久々にあれ使ってみるか」
護は槍に縫いとめられたオークから大きく距離を取り、集中して魔術を発動させるためのイメージを固めていく。
「……『圧縮結界刀・不可視の魔手』」
回避にロマンを求めた護だったが、身の安全を守る事が重要だという事も分かっていた。
何より色濃く残る森狼に襲われた恐怖から結界魔術をLv8まで取得し、得られた知識から結界の形状を自由に指定出来る事を知り、閃いたのだ。Lv8の結界の強度を保ったまま切り裂けるほど鋭くすれば刃物買わなくていいんじゃね。と。
その時は一応形にはなったものの、消費魔力は高くついたうえに不安定で、一振りもすれば歪んでしまうような出来だったが、訓練を繰り返して魔術の腕を向上させた今では魔力の消費もかなり抑えられ、結界刀も安定している。
確かに発動したその魔術は、傍から見れば何の変化も無かっただろう。
だが、護の両腕の上面から伸びる不可視の刃は、オークの誇る肉の鎧を容易く切り裂き、その命を奪う。
護は久々に発動した切り札の出来に満足し、その日の探索を終えたのだった。
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