転生したらぼっちだった

kryuaga

文字の大きさ
上 下
34 / 72
第一章 はじまり

#30

しおりを挟む

「試作型魔道具の実験依頼、ですか……?」



 その日、護はカズィネアの鍛冶工房へ装備の修理点検に来ていた。無論自分でも手入れはしているのだが、それでも素人目には見えないところで少しずつ消耗するものだ。いざ戦闘中にガタが来ては困るので、定期的に専門家に見てもらっている。

 問題無しと判断され、装備を返してもらったところでカズィネアが件の提案をした。



「ああ。他にも何人かの冒険者に頼んでるんだが、出来るだけ多くの資料が欲しくてね。

 勿論報酬も払うし、試作品に問題が無くて、あんたが気に入るようだったら完成品をいくらか安く売ることも出来るよ」



「えっと、話は分かりましたけど、その試作品ってのはどんな魔道具なんです?」



「前にあんたが持ってきた素材で『魔蟲の奏者』っての作ったろ? さすがにあれは同じ素材が無けりゃ無理なんだが、今回のは割と出回ってる素材でも作れる劣化版でね。少ない魔力で発動できる虫除け結界ってところさ」



 この世界の虫達は魔力による活性化のせいで繁殖力がやばい。

 街には専門の魔術師が定期的に虫除けの結界を張り直しているが、春から夏にかけての繁殖期には爆発的に増える事があり、その場合山が禿げるのは序の口。肉食の虫が大量発生した際には魔獣ですら食い殺されることもあるという。まあそこまで大量発生する事は非常に稀だが。

 今の季節は春、これから虫が徐々に増えてくることだろう。街の外の依頼を受けるなら、少ない魔力で虫除けが出来る魔道具は持っていて損は無い。



「へえ、『魔蟲の奏者』だと魔蟲はともかくただの虫には効果ありませんし、あると嬉しいですね」



「だろう? あたしらじゃ草原でも万が一があるし、受けてくれるとありがたいんだが、どうだい?」



「分かりました。その依頼、受けさせてもらいます」



「助かるよ。じゃあこれ、何回か場所を変えて試してみておくれ」



 カズィネアから渡された試作型魔道具は金属製の杭の形をしている。地面に突き刺して魔力を込めるとドーム状で直径5mほどの結界が張られるのだそうだ。結界内部にいた虫は活動を停止し、結界の周囲には虫が近づきにくくなるらしい。







 工房を辞した護はギルドに寄って西の森での簡単な採取依頼を受け、さくっと依頼を達成させて森の中に開けた場所を見つけ、そこで試作型魔道具を試してみることにした。



「さてと、効果のほどはいかがかな……」



 ドスッと地面に突き刺し、ほんの少し魔力を流し込む。











 ――ザザ、ザザザ、ザザザザザザザ



「……えっ?」



 虫除け……などと間違っても言えない。試作型魔道具を中心に、森の半分以上の虫が迫ってきていた。アリ、ムカデ、カマキリ、バッタ、コオロギ、蝶、蜂、蛾、蜘蛛に……「ゴキげんよう、おひさしブリ」



「え、ちょ、ちょっと……これどういうこと!?」



 どういうこともこういうことも、間違いなく失敗作だ。

 普段は食らいあう虫同士でも気にすることもなく、こぞって虫達は魔道具に近づこうとする。

 幸いにも結界は多少なりとも物理的な衝撃に耐えられるものであり、内部に侵入してくることはない。

 しかし想像してみてほし……いや、しなくてもいいのだが、透明な壁の向こうにびっしりと生きた虫達が張り付いてる光景など、虫が嫌いではない人間でも卒倒しかねないだろう。ましてや護は虫嫌い。



「ひっ、ひいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃっ!」



 辛うじて失神はしていないが、完全にパニック状態だ。

 虫の群れ、という状況に触発されたのか、



「かっ『絡みつく影炎』おおおおおお!!」



 全魔力中の八割以上を使って結界の外を焼き払う。

 燃え広がる黒い炎はまるで爆発するかのように虫達を炭に変え、尚も集まり続ける後続の虫にも次々と飛び火していく。

 ……勿論燃やすのは虫だけではない。草木を焼き尽くし、森に住む獣や魔物達もあっという間に消し炭へと変えていく。



 我に返った護によって消火されたが、最終的に西の森の面積は四分の一ほどに縮小していた。まあこの世界の魔力の恩恵を受ける植物ならば一月もすれば元に戻っているだろうが。







「あっはははは! 悪い悪い! 出力逆になってたわー!」



「笑い事じゃないですよぉっ! あやうく気絶しそうになりましたよ!」



 どうやら他の冒険者達の物も同様だったらしく、多くのパーティーでは何人か、特に女性などは災難にもほとんどが全身に鳥肌を立てて気を失っていた。



 当然試作型魔道具は全て回収され、改めて正常に出力された改良版の試験を依頼されたが、受ける者は誰もいなかったという。

 ……余談だが、逆出力の試作品を求める変態がいたとかいなかったとか。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...