転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#28

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 人の噂も七十五日、というのだろうか。

 『永遠なる影炎を駆るシャドウフレイム漆黒の貴公子プリンス』の噂も、道を歩けばその名が聞こえてくる。が、耳を澄ませば時々耳に入る。程度には落ち着きを見せていた。

 護はその間も精力的に依頼をこなし続け、早くもシルバー+ランクとなっていた。……依頼をこなし続けていた理由が、街にいると『永遠なる影炎を駆る漆黒の貴公子』の名が耳に入ってくるから。というのが情けない限りだが。







「むう、雨か……」



 その日、護はオーク討伐の依頼に来ていた。

 オークは豚頭で人型の魔物だ。体長は平均で160cmほどだが、その身は分厚い脂肪と鍛えられた筋肉で覆われていて、高い生命力を持っている。ちなみに意外と綺麗好きだ。



 朝に依頼を受け、オークの生息する谷に向かった時は雨の降る気配など感じられなかったのだが、森を抜けた頃には空が曇り始め、谷に到着したと思えば大雨だ。こうなってしまうと空間把握も気配察知も役立たず同然となってしまう。

 仕方なく護は魔力感知で周囲の状況を確認する。こちらはまだ完全に習熟しているとは言い難く、あやふやにしか把握することができない。植物や大気にも魔力は含まれているのだ、魔力の濃淡から地形を把握する事すらそう簡単な事ではない。



(まいったな、これじゃあ無事に帰れるかどうかも分からない……)



 オークが単体であればそう難しい話ではないかもしれないが、この谷に棲んでいるオークは最低でも三体以上で行動している。

 護の回避能力を支えるのは体捌きだけではない、気配察知と空間把握が十全に機能していてこそ複数の敵からの攻撃も捌くことができるのだ。

 それが今の曖昧な状況把握では、死角からの攻撃に対応しきれずに怪我を負うかもしれない。冒険者であれば、本来怪我を負うことはそう珍しくないだろう。だがソロの冒険者がひとたび怪我を負ってしまえば、敵対者は調子を崩した獲物をあっという間に袋叩きにしてしまうだろう。



 そんなわけで、護は無茶をするわけにはいかない。

 あるいは魔術で雨雲を強引に吹き飛ばす事も出来るかもしれないが、そんな規模の魔術を使っては魔力をほとんど消費して肉体が衰弱してしまう。

 ただ、不幸中の幸いか雨雲の向こう、やや遠くに青空が見える。小一時間ほど雨宿りでもしていれば雨が止むだろう。



(と、なると、ここは定番の洞窟雨宿りかな。……自然洞窟だと魔獣でも棲んでそうだから魔術で掘るか)



 崖の高さ3mほどの位置に丁度よく台地状の出っ張りを発見し、滑らないよう慎重に登って出っ張りの奥に魔術で腰をかがめる程度の穴を作る。勿論水が入り込まないよう入り口に傾斜をつけ、影で隠蔽しておくのも忘れない。雨が止むまでは消費した魔力の回復でもしながら待つしかないだろう。







「そろそろ晴れたかな……?」



 護は身動きできない退屈さに欠伸を噛み殺しながら暗幕から顔を出す。すると眼下には見覚えのある顔が揃っていた。



「……ん? あ、あんた! いつぞやの覗き魔術師じゃない!」



 地上3mから顔を出した所で、そうそう危険など無いだろうと完全に油断していたようである。

 不名誉なあだ名と共に護を迎えたのは声の発生源であるレーナと、彼女の所属するパーティー[迷宮の薔薇]の面々であった。

 護より頭半分ほど低い身長で、深緑の髪をボブカットにし、勝気そうな瞳で睨むレーナ。

 身長はレーナより更に低く、薄緑の長髪でやや興味深そうに護を見る森人族エルフのシエーヌ。

 イーシャと同程度の身長でメリハリのついた体型、日に焼けた肌、くすんだ金の髪をおおざっぱに纏めたクシー。

 そしてリーダーのイーシャ。どうやら彼女達も依頼で近くに来ていたらしい。



「こんなところにまで覗きに来たってわけっ?」



「な、ち、違います! ここには依頼で来たんですよ!」



 『永遠なる影炎を駆る漆黒の貴公子』と『覗き魔術師』、どっちの方がましかなあ。などと考えていた護は慌てて否定する。



「ふん、どうだかっ」



「あはは、まあまあ。……こんにちは、マモル君。君もオーク退治かな?」



 イーシャがレーナをなだめ、護の目的を尋ねる。



「あ、こんにちは。そうです、その依頼で来たところで雨に降られて、雨宿りしてたところです」



「そっか、私達は今来たところでね、これから狩りを始めるところなんだ。……良かったら君も一緒に行く?」



「ちょっとイーシャ! 何言ってるのよ!」



「ほら、ソロで探索を続けるあの子の腕にも興味あるしさ。……どうかな?」



「あ、えっと、お誘いは嬉しいんですけど、パーティーの連携を乱したらまずいですし……すみません、遠慮させてもらいます」



「ま、それもそうよね。それじゃあ私達は行くね、機会があればまた話しましょ」



 それを最後に、不機嫌そうな顔のレーナと、黙って話を聞いていた二人を連れてイーシャは谷に向かおうとする。



「……あ、あの、すみませんっ。レーナさん、ちょっと待ってください!」



「あ゛ぁ? …………なによ」



 名前を呼んだ途端、凄まじい顔で睨んでくるレーナになけなしの勇気を吹き散らされそうになるが、護はなんとか持ち直し、言葉を振り絞る。



「ひっ。……あ、こ、この間はすみませんでした! 結果的にとはいえ、その、覗くような形になってしまって……」



(高い性能の結界と影の魔術……まさかこいつ? …………なわけないか)

「……ふん。まあこっちにも落ち度はあったし、謝るなら許してあげるわ」



 何か引っかかる事があるのか、レーナは頭を下げる護を頭から足の爪先までジロジロと観察していたが、思索に区切りをつけたようで、自身らの非を認めながらもむっとした顔をしながら謝罪を受け入れた。



「あ、ありがとうございますっ」



「ただし、次同じ事があれば容赦しないわよ! ……それじゃあね」



 慌てて頷く護を尻目に、彼女は待ってくれていたメンバーと共に谷へと去っていくのだった。











「……なによっ?」



 護と別れてから、レーナはメンバー達から珍しい物でも見るかのような視線を向けられ続け、堪えきれなくなってとうとう爆発した。



「くくっ、いやなに、あれだけ気にしていた割に、案外あっさり許したもんだな、と思ってさ」



「同じく」



「別に。謝ったんだから許したっておかしくないでしょ」



 茶化すような仲間の言葉に努めて冷静に返そうとするレーナだったが、



「そう? いつものレーナならどれだけ謝られようと許したりしなさそうだけど」



 イーシャの一言であっさりと崩されてしまうのだった。



「うぐ……。あたしはそんなに器の小さな女じゃないわよっ」



 苦し紛れに否定したものの、残念ながら身に覚えがありすぎた。レーナ自身説得力の無さが自覚出来る程である。慌てて言い訳を重ねようと口を開こうとするレーナだったが、幸か不幸かそれが言葉になる事は無かった。



「はいはい、とりあえずこの話はそこまでな。どうやらオーク共のお出ましみたいだよ」



 言い出したのはクシーなのに。なんて文句を飲み込みながらも内心ほっと一息、しっかりと戦闘体勢ををとるレーナ。

 きちんと依頼をこなしながら、どこか和気藹々と狩りを続ける彼女達だった。







若干無理矢理に容姿の説明。わ、忘れてたわけじゃないんですよ……!
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