転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#26

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 希少個体の一件が収束してから三日。冒険者ギルドのマスコット的存在、ラーニャの曇り顔は未だ晴れていない。ダンジョンに篭る護ばかちんがその日数を延長したからだ。

 その暗い雰囲気は彼女を可愛がる職員達にも伝染して、表情には表れないものの、どこかギルド全体の活気がなくなっていた。



「はぁ……」

(マモル君がダンジョンに入ってから四日。……やっぱり、駄目、なのかなぁ)



 これまでに一週間以上帰ってこなかった事もあったが、護がソロであることに対する不安、事件が収束するタイミングが際どいものであったことに対する不安から、ラーニャの想像は悪い方へ悪い方へと陥ってしまう。

 悪い想像というのは思いのほか、簡単に振り払えないものだ。



 他の職員に気遣われながらも三日、いつも通りに受付の業務をこなす。



 一際大柄な冒険者の男が去った時、ようやく待ち望んでいた人物が何食わぬ顔でラーニャの前に姿を見せた。



「あ、どうもラーニャさ「マモル君……! 良かった、無事だった……!」……へ?」



 これまで胸に沈殿し続けていた不安から解放され、ラーニャは花が咲いたような笑顔を浮かべながらも、一筋の涙をこぼした。

 ……が、護にとってはわけがわからない。

 希少個体を倒して、こつこつ魔力を回復させて、ようやく帰ってきたと思えば世話になっている受付嬢が顔を見るなり笑顔で涙だ。もちろんこの護スカポンタンに女性の涙の鎮め方など分からない。完全に固まっている。



 周囲では彼女の復調を喜ぶ者、二人の様子にやっかむ者、涙を流させた事に憤る者、不甲斐ない護の様子に呆れる者。など、ようやくギルドはいつも通りの雰囲気を取り戻そうとしていた。



「……あ、ごめんね、驚かせて。マモル君が無事かずっと不安だったから……」



「……う、いえ、その、なんだか心配をおかけしたみたいですみません……」



「もう、ほんとだよっ。群れにやられちゃったんじゃないかってずっと心配してたんだから……!」



「でも、希少個体がいるのは地下十三階でしょう? 約束通り地下十階より下には下りてませんよ」



「……えっ。調査隊の人に会わなかったの?」



「調査隊……ですか? 何かを探すような冒険者達は見かけましたけど、動きが不審に思えて見つからないように隠れちゃってました」



 あらかじめ用意していた嘘をすらすらと話す護。……それを日常会話にも応用すればいいのだが。



「隠れてた、って……仮にも索敵重視の編成だったはずなんだけど……」



 その無駄な陰身技術に半ば呆れながらも感心するラーニャであった。



「はぁ……。それがね、希少個体率いる群れが地下十階まで上ってきてたって話なの。丁度そこで誰かに討伐されたらしいんだけどね」



「へえ、そうなんですか……。俺が地下十階に着いた時はいつも通りだったんですけど……」



「うん、……そうだよね。まったくっ、心配して損したよ!」



「あはは……、すみません」



「そうそう、そういえばね。この間マモル君が覗いた[迷宮の薔薇]の人達も地下十階に行ってたらしくて、群れに巻き込まれたんだって。

 四人とも生きてて、怪我は負ったらしいんだけど、今は治ってて、宿で療養中みたい。

 マモル君、まだ謝れてないんでしょ? お見舞いついでに行ってみたらどうかな」



 どこかいたずらめいた笑みを浮かべながら見舞いを勧めるラーニャ。



「うぅん……。それはそうなんですけど、どこに泊まってるのか知りませんし……」



「んー……、私が場所知ってるけど、さすがに女の子の宿を勝手に教えるわけにもいかないかあ」



 結局、そこで話が終わってしまい、いつも通り依頼を処理するラーニャ。――その顔にもいつも通りの愛らしい笑顔が戻ってきていた。







 素材の売却を終えた護は、工業地区にある鍛冶工房に来ていた。無論、以前迷宮武具を作ってもらった工房である。中では丁度休憩中なのか、前回世話になった鍛冶師――カズィネアと数人の鍛冶師達が卓を囲んでいた。



「あ、あの……、休憩中すみません……」



 楽しげに話すグループに声を掛ける事にひどく躊躇った護だが、なんとか声を出す。



「うん? ……ああ、こないだの小僧……マモル、だったか? どうした、まさかもう武器が破損したってわけじゃないだろうね?」



「あ、いえ、そうではなく……その、ちょっと珍しい素材を手に入れたので、何か作れないかと思いまして」



 言いながら護は影から残しておいた女王蟻の素材を取り出す。



「これは……。迷宮蟻、……とはどこか違うね。特に頑丈ってわけでもないみたいだけど……これはなんなんだい?」



「えっと、……その、俺が出したって事は黙ってて欲しいんですけど、いいですか?」



「なんだい、やけに慎重だね……。ま、見たことのない素材を弄れるんだ、こっちは構わないよ。……あんたたちもそれでいいね?」



 幸いにもカズィネアは了承してくれた。後ろで話を聞いていた彼らも構わないようだ。



「す、すみません、ありがとうございます。……それで、これなんですけど――」





「――……へえ、魔蟲型モンスターを呼び集めて統率する女王蟻、ねえ。少なくとも武器には使えなさそうだけど、あんたたちはどうだい?」



 当然耐久性の低い素材を武器に使えるわけもなく、周囲で素材を検分していた担当の違う鍛冶師達に尋ねるカズィネア。……すると一人の男が手を挙げた。魔道武具ではなく、魔道具を専門にしている鍛冶師である。

 彼の言うところによると、統率は出来ないだろうが、魔蟲型モンスターを呼び寄せたり、逆に近寄らなくすることができる魔道具が作れるかもしれない、とのことだ。



 相談の結果、護は余った素材を料金代わりに魔道具を作ってもらう事にした。

 特に必要というわけではないが、オンリーワンの希少個体の素材だ。影の中で腐らせておくのも勿体無い。足を運んで良かった。と、満足しながら帰路に就く護であった。







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