転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#24

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 結局、護はあれから彼女達に会う事もなく二日が過ぎた。



 その間、簡単な依頼をこなしながら、またダンジョンに潜る準備を整えていた。

 依頼を受けるため冒険者ギルドを訪れた護だったが、心なしか冒険者達が騒がしい。



「あ、おはようございます、ラーニャさん。何かあったんですか?」



「おはよう、マモル君。えっとね、マモル君の言ってた大規模な群れに関して、ギルドから調査の依頼が出たんだけど。やっぱり希少個体だったみたいで、今討伐隊が組まれてるところなの」



「え、ほんとにそうだったんですか?」



「うん、群れが解散する様子も無くて、少しずつ大きくもなってるらしいの。ギルドからも討伐隊に参加していない人は極力地下十三階には近付かないように。って勧告が出てるわ」



「そうですか……」



「マモル君、今日行くの? せめて明日にした方がいいよ」



「うーん……。地下十階までなら大丈夫じゃないですか? それ以上は降りませんから」



「そう……。くれぐれもそれ以上は降りちゃ駄目だよ? 絶対だからねっ?」



「はい、約束します」



「うん。気をつけてね……?」



 心配そうな視線を背に受けながらギルド内の喧騒を抜けてダンジョンに向かう護。準備を整えれば希少個体も倒せるだろうが、討伐隊も組まれている事もあり、約束を破るつもりはない。







 数時間ほど掛けて地下十階に辿り着いた護だったが、



(なにか……おかしい?)



 どことなくフロア内の雰囲気に違和感を覚える。警戒を強めながら探索を続ける護だったが、



(モンスターがいない?)



 地下十階のうち四分の一ほども歩いたが、気配察知にもモンスターが一匹たりとも引っかからない。明らかに異常だ。

 しかし、少し歩いたところでようやくモンスターの気配を感知する。



「――多い、……多すぎる!? 何だこの数は……!」



 群れ、などと言える数ではない。もはや軍隊ではなかろうか、その数七百。先日の教訓もあり、護はすぐに気配を消していつでも結界が張れるように準備する。



(まさか、希少個体……? でもあいつらは十三階にいたはず、っ上ってきたのか!?)



 理由は分からない。だが希少個体というのはそもそも特異な行動をするモノ達が多い。



今では蟻だけに限らず、蜘蛛、蟷螂、蛾に芋虫など、あらゆる魔蟲型モンスターで群れを大きくしながら、ダンジョンを上ってきていた。



(これは、まずい……! 急いでギルドに知らせないと!!)



 確かに準備を整えれば一人でも倒せるし、ヒーロー願望も無いわけではない。しかし、咄嗟に七百対一などという非常識な戦力差での戦闘に思い至るほど、護に勇ましい心は宿っていない。

 それに実のところ護は虫は苦手だったりする。視界を埋め尽くすほどの大きな蟲型モンスターの群れに突っ込めというのは酷というものだろう。





 地上に戻る前に念のため、群れの規模を再確認しようとした護は、気付く。



(――人!? どうしてあんなところに……! しかもこの気配、覚えがある……)



 群れのやや自分寄りの位置にある小部屋に、五人の人の気配があった。うち二人は動かないが、気配がするところをみるとまだ生きているのだろう。



 [迷宮の薔薇]の面々はギルドの勧告に従い、地下十階で狩りをしていた。しかしそこへ群れを監視していた冒険者がぼろぼろになって、群れが上ってきている事を警告したのだ。

 彼女達はその情報に青ざめながらも、監視役と共に退却を始めた。



 ……しかし、それは遅かったのだ。すぐに群れに追いつかれ、逃走の中、レーナと監視役が倒れ、近くにあった小部屋に飛び込んで結界を張り、篭城する事となった。

 ポーションを飲ませ、シエーヌが必死に治療するも、監視役の状態は落ち着いたが、レーナの容態は芳しくない。彼女はパーティーの盾だ、必死に仲間を守り続けたのだろう、体のあちこちを切り裂かれ、肉を食いちぎられていて、血を失いすぎている。



 結界を維持しながら治療魔術を掛け続けていては、討伐隊が来るまでに魔力が尽きてしまうだろう。結界の維持はそれほどでもないが、治癒魔術とはそれだけ多くの魔力を消費するものなのだ。



(このままじゃ……間に合わない?)



 護は躊躇する。たった一度、それも良好とは言えない出会いをした人達。

 このままギルドに知らせに言っても、救助よりも準備を整える事を優先するだろう。彼女達が助かるとは思えない。

 ……だが、自分なら助ける事が出来る。それに元より徹底してスキルを隠していたわけでもない、



(――なら、行くっきゃないよな)



 どこか諦めにも似た心境で、準備していた結界を張る。――彼女達のいる小部屋に。



「!? ……これは、結界? 一体誰が! それもなんて強固な……!」



「! ……これなら治療に専念できる。今はそれでいい……!」





(これで四分の一くらい持ってかれたかな……? まあいいや、今日は大盤振る舞いだ!)



 護は改めて自分に球体の結界を張り、その表面に魔術を付与する。



「『移動結界』『付与 絡みつく影炎』」



 そして護は群れに向かってゆっくりと歩き始める。







 すぐに護に気付いた蟲達は競い合うように殺到した。

 ――だが、護の髪一本ですら傷つけられない。護を守る結界に触れた瞬間、その身に燃え尽きるまで消える事の無い黒い炎が絡みつき、悶え苦しみながら蟲達はその数を減らしていく。

 余談ではあるが、この魔術を初めて発動した時「闇の炎に抱かれて○○○ピーー!」などと叫んだとか叫んでないとか。



 『絡みつく影炎』は結界に触れた蟲だけでなく、燃えている蟲に触れた蟲達にも次々に燃え移ってゆく。

 これだけでも群れを全滅させられるかもしれないが、念のためだ。護は群れの中心にいると思われる希少個体を目指して奥へ奥へと進んでいった。



「……こいつか?」



 そこにいたのは、やはり女王蟻なのだろうか、羽を持ち、大型犬ほどのサイズをした蟻型のモンスターが、顎を鳴らして威嚇していた。



「よっ、こい、しょっと!!」



 周囲を守る蟻達を燃やし尽くしながら速攻で距離を詰め、女王蟻の頭部を叩き潰す。



「……あれ? いや、特殊型ならこんなもんか……?」



 あっさり止めを刺せた事に拍子抜けする護だったが、実際希少個体と言っても強化型でなければさほど強くは無い。

 今回は『蟲型のモンスターを集め、統率する』能力を持った特殊型だ。能力自体は極めてやっかいだが、女王蟻本体の戦闘能力は大したことがないのである。



 群れの半分以上が炎に呑まれ、統率を失った事で蟲達は散り散りになっていく。







「……なんだ、あれ。黒い……炎?」



「状況がよく分からないけれど、これはチャンスよ。シエーヌ、レーナの状態は?」



「ひとまず危険な状態は脱した、戦闘は無理だろうけど、動かす事は出来る」



「分かった。……誰が助けてくれたのか分からないけど、またいつ蟲達に囲まれるかも分からない。危険だけど今のうちに地上に戻りましょう。クシー、悪いけどレーナを運びながら索敵をお願いできる? 私はこの人を運ぶわ」



 出来ればシエーヌにレーナを任せたいところだったが、彼女は小柄で華奢だ。

 蟲達が燃え尽き、炎が消えると同時に、タイミングよく結界が解かれる。最悪シエーヌが内側から打ち破るつもりだったが、好都合だ。



 無論、遠くから隠れながら様子を伺っていた護がタイミングを合わせたのだが、彼女達に知る由も無い。護は後ろから密かに見守りながら、彼女達と共に地上へと足を向けた。

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