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第一章 はじまり
#19
しおりを挟む「うおらあっ!」
鋭い剣閃がモンスターの脚を切り落とし、燃え盛る炎槍がその身を貫く。だが蟲型のモンスターの生命力は半端ではない。魔術に身を焼かれながらもぎちぎちとその顎を鳴らしながら大剣使いに襲い掛かる。
「くっ、さすがにしぶといっ!」
咄嗟に剣身で防ぐも、その場に押さえつけられてしまう。
「少し待って! すぐ地面に縫い付ける!」
「すまん、頼むっ!」
なんとか押さえつけられながらも、魔術師の援護までの時間を稼ぐ。
さほど時間が掛かることもなく発動した石槍の魔術がモンスターをその場に縫いとめ、大剣使いが止めを刺す事でようやくその息の根を止める。
しかしその奥では今も仲間達が同じモンスターを三体足止めしている最中だ。
「待たせたっ。今行く!!」
――そんな奮闘を見せるパーティーのいる通路の片隅。護はひっそりと影の中に潜んでその様子を眺めていた。
(いいなあ……。俺もあんな風にパーティーで協力して冒険したいなあ…………)
その日の朝、ようやく新調した装備を受け取った護は、早速ダンジョンの地下十階まで来たのだが、モンスターの群れとさあ遭遇だ、というところで後ろから複数の冒険者達が自身のいる方向に向かっているのに気付いた。
普段は出来うる限り冒険者の気配を感じた時点で迂回したり、その時相手にしているモンスターをさっさと殲滅して全速力でその場を離れるのだが、今回は冒険者達がたどり着くまでにモンスターを全滅させるにはそこまで距離が離れていない。
仕方ないので周辺で闇の濃い所を探し、影に潜んで今に至る、というわけだ。
(お。終わったかな……?)
パーティーの槍使いによる止めでしばらく続いた戦闘も終わりを見せたようだ。
宝掘師主導で解体され、支援魔術師が影に呑み込むことでようやく彼らがその場を去り、ゆらりと影が揺らめいたかと思うと、どこか疲れたようにため息を吐く護が出てくる。
「……はぁ。やっぱりああいうのを見るとパーティーに参加したくなるなあ」
今でこそ一人でダンジョンに潜っては生還する護の姿は冒険者の間でもそれなりに知れ渡っているのだが、探索当初は「荷物持ちしかできない影魔術師」などと言われ、誘う者など皆無だったし、名が知れてからはそれまでの事もあって昔患っていた対人恐怖症が軽く顔を出して誘いを断り続け、それも引っ込んだ頃には護に声を掛ける者はいなくなっていた。
ダンジョンは危険で閉鎖的な空間だ、協調性の無い者を進んで入れようとする者などそう多くいるはずもない。
そんなこんなで護はダンジョンの依頼をこなし、余った時間は資源を探したり、モンスターを狩って魔力をより増やすために今日も一人でダンジョン内を彷徨うのだった。
襲いくる普人族型モンスターの振り回す棍棒をかわしざまに、その握る手を蹴り砕き、痛みに怯む普人族を胸骨ごと折り砕きながら殴り飛ばす。
背後から殴りかかってきた普人族の攻撃を受け流し、転ばせて首を踏み折る。
最後に脇から飛び出してきた普人族はその攻撃が届くと同時に体を入れ替えて後ろに回り、組み付いて首をへし折る。
モンスターとはいえ人族型相手に全く容赦が無いように思えるが、護も初めて遭遇した時は困惑と共に逃げ出し、次に遭遇した時は反射的に撃破してその場で吐き、しばらく宿に引きこもっていた。
今でも苦々しい表情を顔に浮かべはするが、容赦無く襲い掛かってくるモンスターに自我は無い。
彼らは死者の魂の情報を記録した担当神に、あるべき魂以外の部分を再現して作られた張りぼてなのだ。それ故に、ダンジョンに行けば死んだ家族に会える。なんてあながち間違いとも言い切れない噂があったりもする。
護は心にしこりを残しながらもなんとか割り切って探索を続けていた。
「あー、気分わる……。収穫も奪った装備くらいしかないし、もう人族型は無視して逃げようかな……」
そんな風にぼやきながら歩く護は次の獲物の気配を察知し、そちらへ向かうのだった。
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