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第一章 はじまり
#18
しおりを挟む迷宮鉄製の装備が完成するまで、やる事がほとんどない。例えそれが可能であろうと、さすがに武装無しで依頼に行くのははばかられる。となるとやはり訓練だろう、と身に着けた武術の型を一通りこなしていく。
そうして裏庭で訓練していると、やはりゲートルの事を思い出してしまうのだろうか。やや集中力が欠けている。
「はぁ……。今日はこれまでにしとくか……」
一応一通り済ませたところで諦めて自室に戻る事に。部屋に備え付けの椅子に座り、今度は魔力操作の訓練を始める。
魔力吸収効率増加のスキルで得た感覚を基本に、普段より少しだけ多く、魔力の上限を増やしていく。同時に、体力回復速度増加と肉体活性化を元に肉体を満たす魔力の扱いを高めていく。傍から見れば椅子に座ったまま寝ているように見えるかもしれない。
あらかじめ決めていた一日あたりのノルマをいつもの三倍ほどこなしたところで、その日の訓練を終えた。
しかしそうなると本格的にやる事がない。さすがに室内で魔術の練習をするわけにもいかないし、裏庭でも駄目だろう。いっそ素材もあるし生産系スキルでも取ってみるか…? と考えたところで、
(作ると言えば、"あれ"以来新しい魔術作ってないなあ……)
と、ふと思いいたる。
基本的に魔術はイメージ次第。誰でもイメージと必要な魔力があれば作る事もできる。だが、基本的に新しい魔術が作られる事はあまり無い。
それは何故かというと、作られたばかりの魔術は大抵馬鹿みたいな量の魔力を消費するからだ。自身の魔力を大量に注がねば発動すらしない物がほとんどである。
これは術者のイメージが曖昧であるほど消費魔力は増大していく。その点、スキルを取得すれば即座に確固たるイメージを得られるので、魔術の創造に手を出す者はほとんどいないというわけだ。
そんなわけなのだが、イメージするだけなら自由だ。護は楽しそうに様々な魔術を想像し、創造していく。もちろんすぐに使えるようになるわけではない、護は魔術師としてはまだ二流と言った所だろう。されど何度もイメージする事で、その想像はより確固とした形となっていく。
時にスキルで得たイメージをも混ぜ合わせ、改造して新たな魔術をイメージしていく。
ふと気付いた時には夕食を食べ損ねるどころか、次の日の朝になるまでそれは続けられたのだった。
腹のなる音に急かされて朝食を摂り、即座にベッドで熟睡。目が覚めたのは三の鐘(午後三時)が鳴った頃だった。
ひとまずノルマ分の訓練を終え夕食を食べ終わった頃には日が沈み、辺りは夕闇に包まれていた。
普段であれば護も雑事を済ませた後九時か十時頃には寝るところなのだが、やはり半端な時間に寝たのが祟ったのだろう、完全に目が冴えてしまっている。とはいえこの時間に出来る事など魔力関連しかないだろう。
「折角だから抜け出して昼間は出来ない魔術の実験もしてみようかな……」
日中だと気配察知で周囲を確認していても、遠くから見られる可能性もある。それを警戒して今まで規模が大きめの魔術は実験出来なかったのだ。
護は黒いローブを被り、更に影魔術で闇と同化する。更には念入りに風魔術で自らの発する音を消す。カリーナはもう寝たようだが宿の主人達はまだ起きているようで、玄関が開いていた。影に身を潜ませながら門まで移動する護。誰がどう見ても不審者である。
門まで着くが、もう扉が閉まっている。だが闇は影魔術師のテリトリーだ、『呑み込む影』を経由してあっさり扉の外へ抜ける。
闇に包まれた森に到着した護は気配察知で実験体モルモットの位置を把握。野生の獣より恐ろしいハンターが今放たれた。――さあ、実験開始だ。
ケース1 地烈槍
まず阻害魔術でゴブリンの群れを土中に埋め、拘束した。
残しておいた一体を小型の結界に封じる。
岩石魔術で石槍がゴブリンを貫通、あらかじめ設定しておいた爆発魔術で石槍が内部からゴブリンを破壊する。
本来は雑魚の群れや大型の魔獣を結界に封じ込め、複数の石槍で本来は直接爆発できない内部から攻撃する魔術だ。見事に木っ端微塵になるゴブリン。威力においては成功だ……素材も木っ端微塵だが。
ケース2 粉砕槽
埋めておいたゴブリンを一体取り出し、小型の結界に封じ込める。内部に岩石と氷塊を生み出し、高速の乱水流を発生させる。これも本来はもっと大規模な魔術だ。
見事にぐちゃぐちゃになるゴブリン。もちろん素材もぐちゃぐちゃだ。
ケース3 爆炎球
ゴブリンを取り出し、今度は少し大きめの結界に封じ込める。
結界の内部にも拳大の結界を作り、その中に極めて小さな火球と可燃性のガスを込め、擬似的に不完全燃焼状態の密室を作り上げる。
大きめの結界の中には酸素を充満させ、頃合を見計らって拳大の結界を解除。熱されたガスと酸素の化学反応で結界内は爆発と共に炎で満たされる。
あっという間に燃え尽きるゴブリン、言わずもがな素材も消し炭だ。
ここで護の魔力が切れる。魔力を急激に消費すると、それにより活性化していた肉体は衰弱してしまう。
まあ実の所、それは地球時代の肉体と代わりないのだが、活性化された肉体に慣れていた護はふらふらになってしまい、魔力充填のため休憩をとった。
ケース4 風爆球
螺旋状の風でゴブリンを打ち上げ、風を絡み付けて上空に固定する。そこへ高濃度の可燃性ガスを凝縮した風槍を全周囲から突き刺し、大きめの結界で囲ってから仕込みを爆破。
これは護が以前やった有名なRPGからの引用だ。ゴブリンは跡形もない。以下略。
ケース5 擬似加重魔術
大型の結界にひたすら空気を圧縮して、圧縮して、圧縮し、上方から圧力をかける。
するとゴブリンは濃すぎる空気の濃度に意識を朦朧とさせ、地面に押さえつけられていた。
……これ以上の加重は出来そうにない、普通に岩で押しつぶした方が早そうだ。しかも常に圧力をかけないといけないせいで常時大量の魔力を消費する。どう考えても割に合わない、失敗だ。
大量の魔力を消費したせいでまた休憩。そろそろ日が変わるころだろう、護は次を最後に宿に帰ることにした。
ケース6 爆音球
やや大きめの結界の内側に反射、増幅効果を付与、内部に小型の結界を作ってその内側にも反射、増幅を付与。最後に小型の結界の内部に風魔術を使って破裂音を出させる。
音の増幅された頃合をみて内部の結界を解除。ゴブリンは穴という穴から血を噴出して倒れた。見た感じ素材は無事のようだ。
……外側の結界を解除する前に、音を吸収する膜で覆う事を忘れてはいけない。もしそんな事があれば、今も増幅され続けている音波によって森周辺の生物どころかファスターの街の住人ほとんどの脳を蹂躙するだろう。
その危険性に気付いていない護は、最後の魔術は使えるな! などと鼻歌交じりに後始末をして、宿に帰っていくのであった。
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