転生したらぼっちだった

kryuaga

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第一章 はじまり

#17

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 そこは音で満ち溢れていた。



 金鎚で鉄を叩く音、鑿で木を削る音、織機で糸を織る音、もはや音というよりも騒音だろう。一般人が長時間ここにいたら気が触れかねないほどの場所、工業地区。



 護はその一角にある目的の鍛冶工房の前を通り過ぎては周囲の道を大回りし、また通り過ぎる、そしてまた大回りしては通り過ぎる、を繰り返していた。



 これは別に工房周辺の道を探索しているわけではない。地球での価値観で、"店"として客を迎えるわけではない"工房"に足を踏み入れる事を尻込みして、別にここは通りかかっただけですよー。という風に装っていた。

 町に来た当日は色んな場所にあっさり入ったじゃないかと思うかもしれないが、異なる世界に興奮していた事と、異世界トリップ系小説で得た知識から、初めての街に来た時はその行動が当然という先入観からだ。今は生活も安定して心に余裕も生まれ、本来の性格が顔を出していた。





 何度目になるだろうか、いっそ花占いでもしてみようか。などと頭を悩ませながらまた工房の前を通り過ぎようとした瞬間、



「うわあっ!?」



 中から飛んできた金鎚が護の頭すれすれを通り過ぎていった。直前には空間把握で当たらない事は分かっていたが、怖いものは怖いのだ。



「さっきから工房の前を行ったり来たり……。なんなんだい、あんた。盗っ人か?」



 そんなセリフと共に、中から一人の女性が出てくる。

 背は護より頭二つ分は高く、赤土にも似た色の髪は頭巾に隠されている。褐色の引き締まった鋼のような筋肉は、比喩でなく鋼と同等の頑丈さと筋肉の柔軟性を持ち、一瞬とはいえ、まるで小型のオーガだ。などと非常に失礼な事を護が思ってしまった彼女は、この工房で武器の製造を専門にしている山人族の鍛冶師だ。



「えっ! ち、違います!」



「ああん? なら誰かの注文の使いか……いや、その格好からするとあんた自身の注文かい?」



「あ、はいっ。そうなんです。迷宮素材で作った装備が欲しくて……」



「帰んな。うちじゃあ駆け出しのガキが買えるような値段の品は作っちゃいないよ」



「え、あの……」



 今の護はほとんど武装していない。外見を見ただけでは駆け出しにしか見えないだろう。咄嗟に説明する事もできず、護は彼女の背を見送ることしかできなかった。







 とぼとぼと宿に帰った翌日、護はまた工房の前に来ていた。昨日は彼女の冷たい反応にあっさり心折られ逃げ帰ってしまったが、迷宮武具はこれから必要になるし、駆け出しと誤解されてたから仕方ないんだ! と、なんとか奮起してきた次第である。



「あの……、すみません」



 なけなしの勇気を振り絞り、声をかけながら護はそっと中に入る。実は今日も三周してたりする。

 中には金鎚で何かの刃を調節する昨日の彼女の姿があった。作業に集中しているらしく、護には気付いていないようだ。

 その真剣な様子に水を差す事もできず、一通り作業が終了するまで待たせてもらう事にした。



 ――しばらくして、納得の笑みを浮かべ、事を終えた彼女が護に気付く。



「……ん? なんだ、昨日の駆け出し小僧か」



「あ、いえその、違うんですっ。これを見てください!」



 慌てて誤解を解くべく、銀縁になったギルドカードにプロフィールを表示して彼女に渡す。



「ほお、十四でシルバーか、中々将来有望だね。……ん、悪かったね。昨日は背伸びして迷宮武具を買おうとするガキにしか見えなかったからさ」



「あはは……」



 悪意の無い口撃と共に返ってきたギルドカードを護は苦笑いで受け取る。



「まだ少しやる事があるんだけど……。ま、作業中おとなしく待ってたみたいだし、先に注文を聞いてやるよ。たまに大事な作業中だってのに、こっちの都合はお構いなしに大声で呼びかけてくるバカもいるからね」



「あ、ありがとうございますっ」



「んで、お望みの武装は? よほど特殊な物でもない限りうちの工房は大抵の物は作れるよ」



「はい、えっと、格闘用の手甲と脛当て、それから最低限急所を守れる防具をお願いします」



「おや、あんた格闘家かい、珍しいやつもいたもんだ。……ああ、問題ない。うちでも作れるよ。素材は何にする? 迷宮鉄製なら二日あれば全部用意できるよ」



「あ、それなら、これを使ってもらっていいですか?」



 そう言って護は影の中から迷宮鉄鉱を取り出して手渡す。



「まだ低ランクだってのに影魔術持ちの格闘家かい? いよいよ変なやつだよ。

 まあそれはいいとして……これは迷宮鉄鉱かい。素材分は値引き出来るけど、鉄も鍛え直さないと駄目だからね。一日伸びることになる、それでもいいかい?」



「はい、それで構いません。よろしくお願いします」



 話がまとまったところで護は各部の採寸をしてもらい、前金を払って工房を後にした。





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