18 / 72
第一章 はじまり
#14
しおりを挟む依頼を終え、報告に戻ってくる冒険者達で心なしか賑やかさを増す時間帯。
街に鳴り響く三の鐘の音と共に護もまた戻ってきた。
「おかえり、マモル君。情報ではオーガが主って話だったけど、大丈夫だった? 怪我してない?」
もはや周囲にも完全に護担当(――一応言っておくが専属ではない)と認識されている受付嬢、ラーニャが護の全身を隅から隅まで注視する。
「だ、大丈夫です、ラーニャさん。どこも怪我してませんよ」
「それならいいけど…。オーガの討伐なんて普通はシルバー+のパーティーが受けるものよ? マモル君もシルバーではあるけどソロなんだから、いい加減ランクに合った依頼を受けるようにしなよ。依頼の達成率が高いのはよく知ってるけど、いつ何が起こるか分からないんだから。お金だってもう結構溜まってるでしょ?」
この世界に来た当日から二年間、ほぼ毎日護は自分のところに来るのだ、よく知ってるのも当然だろう。そして二年もあれば親しみも感じる。心配するのもまた、当たり前の事だろう。
「あう、え、っと、お金は溜まってますけど……」
「というか! 毎日毎日依頼ばっかりじゃない! ダンジョンの踏破を目指してるわけでもあるまいし、もう少しペース落としなよ」
「うぅん……」
護は一応最終目標として踏破を目指しているのだが、それを聞けば大部分の冒険者は現実的でないと一笑に付すだけだろう。それほどまでにダンジョンの踏破とは困難な事なのだ。
彼としてはようやく最近一般成人男性と同程度の魔力値になったところなので、それこそこれから更に最大魔力を高めるために連日ダンジョンに潜ろうと考えていたのだが、ラーニャが自身の身を案じて言ってくれている事も分かるので、どうにも煮え切らない返事を返してしまう。
「お金に余裕があるなら服でも買いに行きなよ。マモル君いつも似たような服着てるし。……あ、そうだ。なんなら今度私が選んであげようかっ」
さり気なくひきこもりがちな人間に大ダメージを与えかねない発言をしながら、人によってはデートの誘いにも聞こえる言葉を吐く。残念ながら本人にその気は無い。
「え…………、は!?」
女の子と一緒に買い物、という状況を考えた瞬間半ば思考が停止した護はそんな意味を想像することも出来ず、慌てて拒否しようとする。
「いやいや、その「あ、依頼の報告がまだだったわね。討伐証明の部位とギルドカード出してっ」あ、はい」
反射的に報告を完了する護。再度口を開こうとするも、長く話しすぎたようだ。列の後ろから急かす声が聞こえる。結局いつの間にか、数日後護は買い物に付き合ってもらうことになっていた。
「おは、ようございます」
話が決まってから待ち合わせの場所に到着するまで、どうにか話を無かった事にできないか。とひたすら考え続けていた護だが、事ここに至ってようやく諦める。
「おはよう、マモル君。よく眠れた……みたいだね。あははっ、寝癖ついてるよ」
ベッドで悩んでいたせいか、なんだかんだでしっかり眠れた護だった。
「さ、いこっかっ。お金はちゃんと多めに持ってきた? マモル君は影魔術使えるんだし、今日はいくつかお店を案内するつもりだけど、色々買っても大丈夫だよね。その代わりと言ったらなんだけど、お昼は私が奢ってあげるね!」
「あ、えと、はい。その、今日はよろしくおねがいします」
ラーニャの先導を受けて、いくつかどころではないたくさんの被服店をまわる護。数店舗ほどやたら高級なところもあったが、それ以外は今の貯金額からすればおおよそ手頃と言える値段だろう。
「あ、これなんか普段着にいいんじゃないかな。マモル君によく似合いそうだよ」
「どれどれ……って、高っ!?」
「ふふっ、まあそっちは冗談として、これなら値段も手頃だし、どうだろ?」
「これくらいなら、まあ……」
とはいえ、いくらなんでも服だけで未だそれほど大きくはない影の空間をいっぱいにするわけにもいかない。不満げなラーニャに必死に弁解して、護は厳選した数通りの衣類を手に入れたのだった。
「今日は中々いい服が買えて良かったね。……他にも色々いいのあったのになあ」
朝の三の鐘(午前七時)に待ち合わせて、今は八の鐘(正午)。露店の集中する中央広場周辺、約束通りラーニャの奢りでゆっくりと昼食を摂る二人の姿があった。
「あはは……。一応冒険者ですから、荷物を服だけでいっぱいにするわけにもいかないですよ。選んでくれたラーニャさんには申し訳ないですけど。」
「それは仕方ないかあ。なら次買い物する時までに『呑み込む影』大きくしといてね!」
「(え、次あるの……)ええと、……善処します。……んんっ。あの、ラーニャさん、今日はその、ありがとうございました」
「ううん、気にしないで。今はちょっと強引だったかなって思ってたの」
「そんな……」
「でもまあ、懲りずにまた誘うと思うから、その時もよろしくね?」
「……はい。こちらこそよろしくお願いします」
人との関わりを中々持とうとしない自分を気にかけてくれる、そんなラーニャの存在に、護は胸の内で深く感謝した。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる