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第一章 はじまり
#12
しおりを挟む彼と初めて会ったのは十五の頃、丁度二年前だったかな。
昼を過ぎてしばらく、冒険者達が依頼やダンジョン探索に行っていてみんな暇になる時間帯、彼がギルドの建物に入ってきたの。
その格好は、一目で冒険者じゃない事が分かる程度には軽装だったわ。
歳は十歳くらい?冒険者ギルドに来るのは初めてなのか、とても興味深げにきょろきょろと中を見回してたっけ。
それから少しして、受付職員を一通り眺めてから私のところに向かってきた。
うちのギルドの受付は、みんな綺麗でスタイルのいいお姉さんばかり。そんな中で最年少の私は、十五にしては体が小さくて、……胸も小さくて。
職員や冒険者のおじさん達は子どもみたいに可愛がってくれるんだけど、
この歳でそれはちょっと複雑です。
ギルドにくる中で、女性や子どもは大体私に向かってくるのはきっと親しみが持ちやすい雰囲気だからだと信じたい。子どもに見えるから親しみが持てそうとかじゃきっとない。
「冒険者ギルドへようこそ。新規の冒険者登録ですか? それともご依頼でしょうか?」
複雑な乙女の心中はひとまず置いておいて、きちんと笑顔で少年に対応します。
初めてのギルドに緊張してたのか、やや挙動不審な少年は新規登録だったみたい。
登録する時に必要事項を用紙に書いてもらわないといけないんだけど、子どもなのに字を書けるみたいで感心した。
冒険者は大体字を書けるようになってるけど、登録する時は代筆だったって人も結構いる。
名前はマモル、歳は十二だったらしい、この頃は私と同じで年齢の割りに背が低めだった。……どうして今ではこんなに差がついてしまったのか。
出身はヤーハン村というらしい、私は聞いた事ないけど、この大陸は広い。きっとどこかにあるんだろう。
犯罪歴は無いようなので、髪の毛を一本もらって仮登録は完了だ。
その日街に来たばかりで、まだ宿を決めてなかったらしい。
安めの宿と、これから冒険者として活動するために必要な装備を揃えるお店を聞いてきたので、手頃なところを教えてあげた。
手頃とはいっても、装備一式を揃えるのにそれなりの金額がかかるけど、大丈夫よね?
次にギルドに来たのは翌日。
二の鐘が鳴った頃にやってきて、いきなりこんなことを言ってくれやがった。
「おはようございます。それにしても丁度ここの列が短くて助かりました」
それはようございましたね! どうせ私の列はいつも短いわよ!
冒険者はやっぱり男性が多い。必然的にお姉さん達に人気が出るのだ。相対的に私のところへ来る人が少なくなるのは仕方ないのだ!
ひきつりそうになる表情をなんとか笑顔に固定して、なんとか応対してやりました。さすが私。受付嬢の鑑!
説明を聞いて、嬉しそうにギルドカードを受け取ったマモル君は、施設内にある長椅子に腰掛けて、早速カードを弄り始めた。
登録したてではポイントなんて溜まってるはずもないからスキルの取りようもないんだけれど、たまにああしてスキルリストとにらめっこして将来に夢をはせる人もいる。
随分長いこと弄ってたみたいだけど、列もまばらになった頃、依頼書を片手に私のところにやってきた。
持ってきたのは『小治癒草の葉の採取』
登録したてでもブロンズ+までの依頼なら受けられる。外での依頼ということで少し心配だったけど、規定のランク内なら受けるのは自由だ。
森には近づかないよう注意して送り出した。
私の言葉には頷いてたみたいだけど、そわそわしてどこか落ち着きが無い。……大丈夫だろうか。
マモル君が戻ってきたのは、もう少しでお昼休み、という時間だった。
依頼に行く前の姿とは見るからに違っていて、服は血に染まり、所々裂けている。手に包帯が巻かれているから、手当てはしたのだろう。それなら服の血は返り血だと思われる。
受付嬢をやっていると、ぼろぼろになって帰ってくる冒険者も珍しくは無い。むしろ五体満足で帰ってこれただけ幸運だろう。
でも、初依頼でそんな目に遭ったであろう少年が少し心配だ。いつも通り依頼の応対をしたつもりだが、少し顔に出てたかもしれない。
今は人が少ない時間というのもあり、やっぱり気になるので事情を聞いてみた。
……呆れたことに、考え事をしていて森に近づいていたのに気付かず、そこで森狼に襲われたらしい。いい機会なので冒険者の心得というものを教え込むことにする。
――少々熱が入りすぎたみたいだ。
いつの間にかみんなの視線を集めてるし、私としたことが口調が崩れてしまっていた。後でお姉さん達にからかわれるし、まったく。それもこれも全部マモル君のせいだ!
私は一人っ子だけど、まるで手のかかる弟ができたみたい。
それからは懲りたのか、しばらくは街中の依頼を続けてたけど、また少しして草原の採取依頼を受けるようになった。さすがに森には近づいてはいないらしいけど。
そんなある日、いつものように草原の採取依頼から戻ったマモル君から血の臭いがした。そのことで問い詰めてみると、また遭遇した森狼を一発で蹴り殺し、解体したそうだ。
……腰の小剣は解体のためにあるの?
以前はぼろぼろになって帰ってきたのに、よくもまあ傷一つ無く勝てたものだと思ったが、初依頼以降草原に出ようとする度に足をすくませる彼を見かねて、時々門番が稽古をつけてくれるようになったらしい。親切な門番もいたものだ。
そのことをきっかけにブロンズ+ランクになり、それからは森での採取依頼を受けるようになった。ああ、心配だ。注意はしたけど獣や魔物の群れに遭わなければいいが。
案の定森狼の群れに遭遇したらしい。
何匹かに負傷を与えながらもほとんど傷つくこと無く逃げ切ったそうだ。まだスキルを取れるほどポイントが溜まってるはずもないのに、案外マモル君は戦闘の才能があったのかな。
それからは時折採取の際に獣を仕留めては、魔力の清算をするようになった。
よほど登録前の総魔力量が少なかったのか、その頃から順調に魔力を増やし、その影響ですくすく成長していき、かろうじて私の方が高かった身長も抜かされてしまった。
そんな毎日を繰り返すうちにアイアンランクになり、森での討伐依頼も受けるようになって更に成長は加速。身長の伸びは止まったみたいだけど、私より頭一つ半は高い。
別に背の事ばっかり気にしてるわけじゃないよ?戦ってるとこは見たこと無いからよく知らないだけで。
ギルドに登録してから一年、さすがに毎日顔を合わせていれば親しみを感じてこっちから話しかけることもある。他の受付嬢のところに行ったところなんて見た事無いし。
それで分かったんだけど、どうやらマモル君は人と話すのが苦手らしい。
マモル君も改善したいと考えていて、私に親しみを感じてくれているのか、何とか応えようと頑張ってる感じが伝わってくる。……あんまりうまくいってないみたいだけど。
それから半年経って、マモル君はとうとうシルバーランクになった。
登録して一年半の個人でシルバーランクなんて話、一度も聞いたことが無い。
シルバーからはダンジョンに入る許可が出る。もちろん一人で潜るなんて無謀なことは誰もしない。基本はパーティーだ。
マモル君もダンジョンに行ってみたいらしく、パーティーを探しているみたいだけど、中々声をかけようとしない。
そんな中、影魔術の使い手を捜しているパーティーがいた。影魔術は結構自力での習得が難しくて、スキルで取得する人が多い。基本的には影の中に荷物を保管する荷物持ちとして求められる。
驚いたことにマモル君は影魔術が使えるらしくて、そのパーティーに声をかけていた。
が、断られた。
登録してからの期間を知っていたようで、ポイントを全部影魔術につぎ込んだ馬鹿だと思われたらしい。いかに荷物持ちとはいえ、少しは戦闘が出来た方がいいそうだ。
登録からの期間を知っていれば、いかに短い期間でランクアップしたのかも分かっているはずなのだけど、彼らは気付いてないらしい。……マモル君ももっと主張しなよ。
気落ちするマモル君はギルドの建物から出て行った。今日はもう来ないかなあ。
翌日、やけになっているのかダンジョンの依頼を一人で受けようとした。もちろん止めたが、聞こうとしない。
結局止めきれず、送り出した。ダンジョン入り口の受付でも揉めたそうだ。
夕方ドヤ顔で帰ってきた。こっちがどれだけ心配したと思ってるのか。業腹だ。しばらく冷たく対応する私に、しょんぼりした様子が見れて少し気が晴れた。
ざまあみろだ。
――……なんだか周囲から微笑ましいものでも見たかのような視線を感じるけど、きっと気のせいだろう。
マモルはそれからも一人で依頼をこなしたり、ダンジョンに潜ったりしている。くれぐれも無茶はしないよう言い含めているけど、正直あまり信用できない。
まったく、本当に手のかかる弟ができたものだ。
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