11 / 72
第一章 はじまり
#7
しおりを挟む翌日、一の鐘の音と共に、護は目を覚ました。
昨夜は慌てて底を突きかけた財布を片手に店じまい寸前の道具屋に滑り込み、いくつかの生活必需品を購入した。
代えの服はとりあえず依頼を受けてからだ、今はそこらの露店で串の一本も買えないだろう。
部屋を出て階段を下り、受付の子供とおはようの挨拶を交し合う。
朝食を済ませた護はギルドカードを受け取りに冒険者ギルドへ向かった。
昨日は半端な時間帯だった事もあり人をあまり見かけなかったが、今日は今から仕事や依頼に向かうのだろう、大通りは行き交う人で賑わっている。
ギルド内に入ると、これから受ける依頼を仲間と話し合う冒険者や、依頼書を片手に受付の前に並んでいる冒険者達で、昨日は広く感じたギルド内を窮屈なものとしていた。
護は昨日の受付嬢を探すと、数えるほども並んでいない列の先に、その姿を見つけた。
他の受付嬢達の所にはやや長い列が出来ているのだが、これはやはり人気の差だろう。
小柄な彼女は、職員達にマスコット的存在として可愛がられているが、冒険者達はやはりスタイルのいい美人がいいのだろう、毎日のように目当ての受付嬢の所へ並び、少しでも長く話して仲良くなり、あわよくば、と考えているようだ。
「おはようございます。それにしても丁度ここの列が短くて助かりました」
順番が来て開口一番、護は失礼な事を言うが、言った本人は気付いていない。
「……おはようございます。ギルドカードの受け取りですね?」
心なしか声と表情が硬くなったが、後半のセリフはスルーし、仕事に専念しようとなんとか気を取り直す受付嬢。
是。と答えた護にギルドの仕組みと、ギルドカードの説明がなされた。
ギルドの掲示板に貼り付けられている依頼にはギルドにより難易度が設定されており、冒険者はランクに対応した依頼までしか受ける事ができない。
冒険者のランクは全部で十段階あり、
新人 ブロンズ ブロンズ+
半人前 アイアン アイアン+
一人前 シルバー シルバー+
熟練者 ゴールド ゴールド+
凄腕 プラチナ
それぞれのランクである程度依頼をこなして信用を得ると、ランク名の後ろに+と記され、上のランクの中でも比較的簡単な物が受けられるようになる。
ただし十段階目はプラチナ+ではなくミスリルと呼ばれるランクがある。
これは世界で数パーティーしかないが、ダンジョンを踏破したパーティーのために急遽用意されたランクで、個人で所有している者はいない。
ギルドカードは白を基本とした長方形のプレートで、周囲をランクに応じた金属で縁取りされている。
基本機能の一つに、所持者が倒した討伐対象から魔力を奪い、蓄える機能があり、蓄積量によってカードの色が徐々に黒ずみ、真っ黒になればそれ以上蓄積する事は出来ない。
蓄積量の最大値は冒険者ランクを上げる事により解放されていく。
蓄積された魔力は冒険者ギルドで清算してもらう事で、ギルド未登録の者に比べて、数倍の効率で肉体に取り込む事が出来る。
基本機能の一つに、所持者が倒した討伐対象の魂の欠片を奪い、蓄える機能があり、ギルドに恩恵を与える神に捧げる事によって、功績値ポイントを得る事ができ、そのポイントを消費して、様々な知識や技術をスキルという形で手に入れる事が出来る。
魂の欠片には陽性と陰性のものがあり、陽性のものは得がたく、陰性のものと区別された高位のポイントを得られる。
陽性のものをハイ・ポイント、陰性のものはネガ・ポイントと呼ばれている。
この陽性と陰性といったものは、陽気な者や聖職者が陽性のポイントを、陰気な者や秘密裏に犯罪を犯していた者が陰性のポイントを比較的多く取得していたことから、人の魂からあふれた感情や想いも神に捧げる事が出来ると言われている。
尚、ダンジョン内では陰性の欠片しか得られない。
ギルド内には別室に素材買取専門のカウンターがあり、そこでは査定関連のスキルを取得した専門の職員達が狩りで得た素材を買い取ってくれる。
この際、ギルドに預金する事も出来る。引き出せるのはまた別の受付だが。
冒険者ギルドは商人組合と提携しているため、買取カウンターの職員は商人組合から派遣された者達だ。冒険者ギルドの外で直接商人と交渉するのは自由だが、基本的にギルド以上の買値はつかない。
ギルド内には資料室があり、冒険者であれば利用する事が出来る。
一部の資料はランクによって制限されているが、多くの情報をここで得る事が出来るだろう。無論、資料の持ち出しは厳禁である。
冒険者は問題を起こすとギルドカードを剥奪される場合がある。
揉め事を起こす程度であれば注意だけで済むが、軽犯罪を犯した場合、一度目は警告、二度目にはギルドカードを剥奪される。
殺人などの重犯罪を犯した場合は当然即剥奪だ。
「それから、ギルドカードの表側に触れる事でメニュー機能が呼び出せます。各種機能の利用、設定はそこから行ってください」
(って、なんだそれ。スマホかよっ)
実の所携帯電話すら持った事も無いが、内心そんな事を思いながら護はギルドカードを受け取って受付嬢に礼をいい、ギルド内に設置されている長椅子に座ってギルドカードを調べるべく弄り始めた。
0
お気に入りに追加
81
あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記
mizuno sei
ファンタジー
辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。
トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。
優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。
誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!
ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく
高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。
高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。
しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。
召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。
※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった
Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。
*ちょっとネタばれ
水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!!
*11月にHOTランキング一位獲得しました。
*なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。
*パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる