転生したらぼっちだった

kryuaga

文字の大きさ
上 下
10 / 72
第一章 はじまり

#6

しおりを挟む

 ドアを押し開け、宿へ戻った護を、受付の子供が迎える。



「あ、えっと。……おかえりなさい、マモルさん。冒険者だったんですね」



 抱えた装備を見て、見当をつけたようだ、どこか羨むように眺める。



「ん、うん。見ての通り、駆け出しだけどね。荷物を一度部屋に置いて、次は道具を揃えに行くつもりなんだ」



「へー、いいなあ。うちはおかーさんが許してくれないから……」



 残念そうに呟きながら鍵を手渡される。相当に残念なのか、喋り方が崩れていた。





 宿に荷物を置いた護は、道具屋へと向かう。

 教わった道具屋は、比較的冒険者向けのものをメインに品揃えをした店のようだった、それなりに広いはずの店内が、雑多に置かれた大量の商品で窮屈になっている。



「いらっしゃい! 見たところ新人冒険者かい? ならこれとこれ、それにこれと、これに、……ああ、これもあったね!」



「あ、……え、えっ!? あ、うわっ、わわっ」



 やたらがっしりとした店員(女性)が護を迎え、瞬時に身なりを観察し、新人であることを見抜き、次々と必要と思われる物を商品の山から引っ張り出し、護に手渡していく。

 その勢いに、護は呆然としながらも受け取り、いつの間にか購入を済ませ、店を出ていた。



「お、おおう、商売人怖い……!」



 我に返った護は戦慄に体を震わせつつも、最後に薬屋に向かう。





 そこは多くの薬品の臭いが混ざり合い、充満する空間だった。

 微かに眉をしかめ、中に入った護は、何か作業をしているのだろうか、受付の奥でこちらに背を向ける女性に声をかける。



「あの、すみません、ちょっといいですか?」



「あら、いらっしゃい。なにかな?」



 振り返った女性は、腰まで届きそうな程長い金の髪を翻し、用件を尋ねた。

 予想外な金髪のお姉さん系美人との遭遇にたじろぎながら護は答える。



「う、えと、明日から冒険者になるんですけど、必要そうな物があれば教えてもらえませんか?」



「んー、そうねえ……。新人ならそんなにお金持ってないわよね?

 だったら浅い擦り傷、切り傷によく効く軟膏と、――あら、それなら道具屋で買った? ふふ、あの人は相変わらずねえ」



 道具屋で半ば押し付けられるようにして買った中に、小さめの容器に入った軟膏が五個セットで入っていた。

 これは新人だけでなく、熟練の冒険者も常備している、冒険者御用達の薬だ。清潔にした浅い傷に塗っておけば、一晩でほぼ完治している。そして安い。



「後は重い傷や骨折によく効くヒーリングポーションと、この街周辺の毒に対応したアンチドートポーションを緊急用に数本持っておくのがいいかしら。……とは言っても、効果の高い物は値段も高くなっちゃうから、お財布の中身とよく相談してね?」



 いくつか効果の高いポーションの値段を教えてもらったが、今の護には手の出せない金額だった。

 重傷に効く薬の中でも、比較的手頃な価格の物をいくつか購入し、店を後にした。



「お金を溜めてまたきてねえー」



 後ろからお姉さんの声が聞こえるが、



(聞こえない、断じて聞いていない……!)



 護は逃げるように宿へと帰っていった。





 宿に戻った護は部屋に戻り、荷物を整理しようとするが、街に六の鐘が響き渡る。

 思い返せば、目が覚めてからまだ何も口にしていない。

 よくもまあ今まで気にならなかったものだ、と少しばかり自分に呆れながら、階段を下りる。



 また出かけるのか?と、こちらを見る受付の子供に、食事の採り方を尋ねる。



「えっと、とまってるおきゃくさんは、ここに声をかければいちにち二枚の札をわたします。それをさかばのちゅうぼうにいるおとーさんにわたせば、日によって決まったメニューが食べられます」



 護は説明を受けて交換札を一枚受け取り、酒場に向かい、食事を済ませる。

 今日のメニューは丸いパン、焼いた何かの肉に、果汁や香草、他多数の調味料を混ぜ合わせたソースがかけられた物、それと似たようなドレッシングがかけられたサラダだ。



 腹を満たした護は部屋に戻り、ベッドに腰掛けて荷物の整理を始めた。



 武具は明日起きてから装備するとして、道具屋で購入した大きな背負い袋に軟膏を初めとする多数の道具を整理しながら収めていく。

 最後に、メモ帳の入っていた小袋を空にして、ポーションを詰め込む。ポーション瓶も結構な強度があるが、念のために緩衝材代わりの手拭いも詰める。

 取り出したメモ帳に、今日色々説明された事や、気付いた事を日本語で書き記していく。



 そこで、昼に読み終えた際、アマテラスのメッセージが消えると共に白くなっていたはずのページが、再び青みがかっている事に気付いた。



『やっほー! みてるー? まずは無事に初日を終えられたみたいでなにより!』



 あれがアマテラスの言葉を受け取る最後の機会だと思っていた護は、慌ててページをめくる。



『ギルドカードはまだみたいだけど、登録はちゃんと出来たみたいだね。詰め込んだ常識もちゃんと機能してるみたいで安心したよ』



『ほんとはギルドカードを受け取ってからメッセージが現れるようにしようと思ってたんだけど、護君は一日の終わり以外はあんまりメモ帳を取り出さないみたいだから、前に書いたサプライズについて教えてあげるね!』



 駆け出しの冒険者が持っていないようなメモ帳を人前で出す事を躊躇ったのが災いしたようだ、サプライズを発覚する前に暴露されるという残念な事になってしまった。



『普通は冒険者登録したての新人のギルドカードは魔力も想いも溜まっていない、まっさらな状態なんだけど。……なんと! 君のカードには想いが溜められていまーす!』



『マイナスの想いは、君の地球で送り込んだ念で、未処理の分をそのまま。プラスの想いは、そっちへ送った時に削った魂の、余剰分。そっちでどれだけのポイントになるか分かんないけど、普通の新人よりは一歩リード、だよ!』



(未処理の想いそのままって、それめんどくさくてこっちの世界に丸投げしただけだろ!? というかプラスの想いに余剰分が出るって事は、必要以上に魂削ったって事なんじゃ……?)



『最後にひとこと。



 女の子といっぱい知り合えてよかったね!』



「やかましいわ!」



 たまらず護は声に出してツッコむ。

 メモ帳の内容を読み取られたのか、護の行動を見られているのか分からないが、余計なお世話である。



「はー……」



 アマテラスの真意はどうあれ、スキルの取得に必要な想いがあるのは助かる。

 護はアマテラスへ少しだけ感謝し、一日を終えようとしていた。



 ……が、そこでふと気付く。



(冒険の必需品は買ったけど、生活の必需品も代えの服も全然買ってない……!?)







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる

十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

スライムと異世界冒険〜追い出されたが実は強かった

Miiya
ファンタジー
学校に一人で残ってた時、突然光りだし、目を開けたら、王宮にいた。どうやら異世界召喚されたらしい。けど鑑定結果で俺は『成長』 『テイム』しかなく、弱いと追い出されたが、実はこれが神クラスだった。そんな彼、多田真司が森で出会ったスライムと旅するお話。 *ちょっとネタばれ 水が大好きなスライム、シンジの世話好きなスライム、建築もしてしまうスライム、小さいけど鉱石仕分けたり探索もするスライム、寝るのが大好きな白いスライム等多種多様で個性的なスライム達も登場!! *11月にHOTランキング一位獲得しました。 *なるべく毎日投稿ですが日によって変わってきますのでご了承ください。一話2000~2500で投稿しています。 *パソコンからの投稿をメインに切り替えました。ですので字体が違ったり点が変わったりしてますがご了承ください。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

処理中です...